幸福や不幸の価値観なんかより、『お兄さん』の傍にいたい……

 人間と怪異。その交流具合がなんと言っても美しくて切ない。
 
 主人公はある夏の日に、神社で「お兄さん」と会う。優しいお兄さんと会い、迷子なのかと心配されて外まで送って行かれる。
 一年後、借りたハンカチを返すためにもう一度神社にて「お兄さん」と会う。

 彼のことを好きだと思うけれど、彼と会うことができるのは毎年の夏祭りの時だけ。
 何年経っても、彼女にとっては「お兄さん」が一番大切に思える相手となっている。年を追うごとに彼女の日常は変化していき、学校ではクラスの支配者的存在に目を付けられ、孤独を余儀なくされることにも。

 彼の正体は一体なんなのか。明らかに「人ではない何か」であることはわかる。
 優しい性格をしていて、人間に害をなしそうにはない。けれど、「怪異」であるならば、関わることで彼女の身に変化は起こらないのか。

 そうして読み進める中で、ラストで「なるほど」と色々なことが繋がりました。
 彼女の身に起こった本当の「影響」。怪異である「彼」の正体が何で、彼と関わることで何が起こっていたか。

 それまで何気なく受け入れていた事実が、ラストで一気に「別の意味」を持って理解されていく。それが大きなカタルシスをもたらしてくれました。
 
 孤独な少女。同じく、孤独な怪異。
 その出会いは傍から見たら「良くないこと」と思われるかもしれないけれど、彼女にとっては世間的な幸福や不幸なんてどうでもいい。
 ただ、「お兄さん」と一緒にいたい。そんな気持ちを抱き続ける彼女の心がとても切なく、心に沁み渡ってきました。
 
 夏の静けさを強く感じさせる、しっとりとした感興に満ちた物語でした。

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