第五章 好きな女の為に俺なりに頑張ったけれど、熱中症が邪魔をするんだが




熱中症事件から3日後。

今年の夏は、異常な暑さで、部活で倒れる奴もいて、夏休みの間は、部活は、休止となった。


あれから、バイトも辞めたし、部活もない。

やる事がなくなった俺は、クーラーのついた部屋で、のんびり過ごしていた。

「いい若い者が部屋でダラダラ過ごして〜。お兄ちゃんは、おっさんか?」

リビングのソファーで寝転がっている俺を見下ろし、優子がそう言った。

「仕方ないだろ、俺の部屋、クーラーないし、暑いから。」

寝そべったまま、俺が言うと、優子は、腰に手を当てて、眉を寄せた。

「そうじゃなくて!部活も休みになったんだし、有美ちゃんとデートでも行けって事。熱中症、もう治ったんでしょ?」

「デ、デートって、お前……!」

慌てて起き上がった俺を優子は、クスッと笑った。

「ほんと、お兄ちゃんって、男らしくないよね〜。少しは、『俺についてこい!』ぐらいの勢いがないの?」

俺についてこい!って、いつの時代の人だよ。

「そんな事より、お前……。あれほど、有美には、内緒にしてくれって言ったのに、何でもかんでも、話して。お喋りな女は、嫌われるぞ。」

少し怒ったように言った俺に、優子は、言う。

「お兄ちゃんがはっきりしないからでしょ!結局、熱中症で倒れて、プレゼント作戦も失敗してさ。なんも無しじゃ、有美ちゃん、可哀想だよ。」

「そっか……。」

そうだよな。

俺、結局、何にも出来てない。

それどころか、迷惑と心配かけさせて。

俺……有美を泣かせてばかりだ。

少し、落ち込んで考え事をしている俺の肩をポンと、軽く叩くと、優子は、にっこりと笑った。

「ちょっと頼りないけど、お兄ちゃん、いい男なんだしさ。もっと、自信持ったら?」

「そう……?」

初めてじゃないか?優子がこんな事を言ってくれるなんて。

少し、照れたように笑った俺を見て、優子が一言。

「キモッ。」

「お前なー!人を褒めてるのか貶しているのか、どっちなんだよ!」

「どっちも。」

ペロッと舌を出し、口元に笑みを浮かべ、優子は、部屋を出て行った。



デートか……。



(妄想)


「誠がデートに誘ってくれるなんて、嬉しい。」

頬を染め、微笑む有美の肩をそっと、抱き寄せる。

二人の前には、青く輝く海。

波が静かに、打ち寄せては、引いていく。

「海が綺麗……。」

潮風になびく、有美の柔らかい長い髪。

「君の方が綺麗だよ。」

「誠……。」

二人は、見つめ合い、そして、身体を寄せ合う。

周りには、誰もいない。

ただ、波の音が静かに響くだけ。

見つめ合う二人……そして、二人の唇と唇が……。




「あっ!お兄ちゃん!昨日さ、有美ちゃんと水着を買いに行ってさ。すごく可愛いの見つけちゃってね。有美ちゃん、お兄ちゃんに、泳ぎを教えて欲しいって……。」

そこまで言いかけて、優子は、ソファーで頭を抱えている俺を見て、眉を寄せた。

「どうしたの?お兄ちゃん?」

ああ……いい所だったのに〜。

なんで、お前は、邪魔をするー!

「まっ、どうでもいいけどさ。有美ちゃん、ビキニ買ってたよ〜ん。」




ビ……ビキニだと?!



「ピンクの可愛い〜、ビ・キ・二♡」



ピンクの……ビ・キ・二♡だとー!




「ぶはぁ……!!」

「えっ……!ええー!お兄ちゃん、鼻血!鼻血、出てるよ!!」

「あっ、はが……ふが……!」

鼻を押さえ、訳の分からない言葉を吐きながら、俺は、ティッシュに手を伸ばす。

「やだー!まだ、熱中症、治ってないのー?!」

慌てて、優子もティッシュを取ると、俺に渡す。



想像だけで、鼻血を出すとは……。

しかも、両方の鼻から……。


ダメだ……!!

これでは、実際に、有美のビキニ姿を見ると、俺は……俺は、失血死してしまうーーー!!

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