第五章 好きな女の為に俺なりに頑張ったけれど、熱中症が邪魔をするんだが




それから、一ヶ月が過ぎた。

学校は、夏休みに入ったが俺には、休みはなかった。

夏休みに入っても部活はあるわけで、それでも、多少の時間がある。


昨日、初めての給料をもらった。

新聞配達の給料、5万弱。

コンビニの給料も、5万程度。

あんなに必死に働いても、こんなものか。

これじゃ、全然、足りない。


そうだ!夏休みに入ったんだし、少し余裕な時間がある。

もう少し、違うバイトをしよう!


心に、そう決めると、俺は、部活の為、学校へ向かおうと、荷物を手に持った。

家の玄関のドアを開けると、外は、猛暑だった。

容赦なく照りつける太陽、やかましいぐらい鳴いている蝉。

「暑い……死にそうだ。」

暑さも異常だが、睡眠不足で俺の身体は、ボロボロだ。


足を引きずるように、学校へ向かっていると、後ろから、声を掛けられた。

俺は、ゆっくりと、振り返りながら、フッと、意識が遠くなるのを感じた。


あっ……青い空が見える。


そう思った瞬間、俺の目の前が真っ暗になった。




ー誠……誠……。ー



遠くで、誰かが呼んでいる。


うっすらと目を開けた俺は、目の前の有美の姿に、ハッと、飛び起きた。

いつの間にか、俺は、自分の部屋のベッドの上にいた。

心配な面持ちで見つめる有美。

「俺……。どうしたんだろ?」

訳が分からず、頭がクラクラするので、もう一度、横になった俺に、有美の怒鳴り声が響く。

「誠のバカー!!」

有美のキンキン声が頭に響く。

「もっと、静かに話して……頭が痛い。」

俺の言葉に、有美は、ハッと口を閉ざした。

「あっ……ごめん。」

しばらくの沈黙が続き、有美が口を開いた。

「倒れるまで、バイトするなんて、バカじゃないの?」

「えっ?なんで、知ってるの?」

「優子ちゃんから聞いたの。朝は、新聞配達、夜は、コンビニで働いているって。」

「……そっか。」

お喋り優子。

あれほど、有美には、言わないでくれと言ったのに。

「でも……。私が悪いんだね。」

「えっ?」

「私が指輪が欲しいなんて言ったから。」

そんな事まで話したのか、優子の奴。

やっぱり、妹でも話すべきじゃなかった。

眉を寄せ、下唇をキュッと噛み締めた有美を見て、俺は、なんだか申し訳ない気持ちになった。

「俺が勝手に、やった事だから。」

俺が呟くと、有美は、キッと、俺を睨んだ。

「バカじゃないの!あんな指輪……欲しくないわよ。」

「そうなの?だって、プレゼントされた……!」

俺が言い終わる前に、有美は、寝ている俺の身体に、しがみついた。

「ゆ……有美!」

「……心配したんだからね。もう、バイトなんて辞めて。無理しないで。」

泣いているのか、有美の声が震えている。

「分かったよ……ごめんな、有美。」

「指輪なんて……欲しくない。」

「うん……。」

有美は、更に強く、俺の身体を抱きしめ、俺の胸に顔を埋めて言った。

「私が欲しいのは……誠だもの。」

「……えっ?」

「私が欲しいのは、誠なの!何度も言わせないで!」




俺……死んでもいいかも。



「俺も……。」

そう言いかけて、俺は、慌てて、有美を身体から離した。

こ……こんな時に……!




なんで、俺の身体は、正直なんだー!!



俺は、慌てて、タオルケットで身を包んだ。

「えっ……えっ?どうしたの?誠?ねぇ、どうしたの?」

タオルケットを剥ぎ取ろうとする有美の手を払いながら、俺は、タオルケットをきつく抱き締めた。

「な、何でもなーい!!」

「ねぇ、どうしたのよ?顔を真っ赤にして。熱中症かな〜?」

分かっているのかいないのか、有美は、ニヤニヤしながら、タオルケットを引っ張る。

「うるさーい!!」

顔を真っ赤にして怒鳴る俺を有美は、クスクスと笑う。


全く……。




俺は、お前に熱中症だよ!

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