第四章 好きな女が指輪を欲しがったので、バイトを始めたんだが




季節は、暑い夏へと変わっていた。

俺と有美といえば、相変わらずで、お互い好きだと分かったのはいいがそれ以上の発展はなく、ダラダラと時だけが過ぎていた。


水泳部の更衣室で海パンに着替えていた俺に、水泳部のキャプテンの杉浦が声を掛けてきた。

「矢崎、お前、今度の全校大会に出てみないか?」

「えっ?」

いきなりの事で俺は、驚いた声を出した。

「でも、それって、顧問の先生が決める事じゃないか?」

「お前さ、水泳歴、長いんだろ?立候補しろよ。」

「でも、俺……。」

俺が渋っていると、杉浦は、こう言った。

「お前には、水泳の素質があると、俺は、思っている。次期キャプテンは、お前を推薦しようと思っているだ。」

泳ぎには、自信があった。

子供の頃から、泳ぎだけは得意だった。

しかし、俺は、極度のあがり症なのだ。

人前では、緊張して、力を発揮出来ない。

小学生の時も中学生の時も、それで失敗したのだ。

「俺も、立候補するつもりだ。一緒に頑張ろうぜ!」

杉浦は、そう言って笑ったけれど、俺は、そんな気分ではなかった。

緊張して、恥をかくのは目に見えている。

わざわざ自分から恥をかくことはない。

俺は、適当に笑い返した。


部活が終わると、有美が部室に来て待っていた。

「先に帰ってて良かったのに。」

俺が言うと、有美は、少し頬を染めて、こう言った。

「だって……一緒に帰りたかったんだもの。」




か……可愛い♡




やっぱり、有美は、可愛い。

なんで今まで、この可愛さに気付かなかったんだろ?


いつも、当たり前のように側に居て、当たり前のように、ふざけ合って、笑って、泣いて、怒って……。

ずっと、それが当たり前で、そんな当たり前が少し、ウザく感じたり。


「何考えてるの?」

「えっ?」

ぼんやり考え事をしていると、いつの間にか有美が近くに来ていて、俺の顔を覗き込んでいた。

「な、何でもないよ!」

焦った感じで言った俺を有美は、チラリと横目で見る。

「あ〜、分かった!……エッチな事でしょう?」

「な、なな、何言ってんだよ!帰るぞ!」

有美にからかわれ、俺は、ますます焦る。

「当たりなんだ〜。やーい、誠のスケベ〜。」

有美は、そう言うと笑いながら、先に部室を出て行った。


全く……有美の奴。





でも……可愛い♡




俺は、バカなのか?



夏の暑い日差しが部室の窓から差し込んでいた。

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