第四章 好きな女が指輪を欲しがったので、バイトを始めたんだが




外は、もう夕暮れ時。

沈む太陽が街をオレンジ色に染めていた。


「誠ってさ。泳ぐの本当に好きなのね。」

「んー……まぁ、それしか取り柄がないから。」

苦笑する俺に、有美は、言う。

「私……誠の泳いでる姿、好きだよ。まるで、魚みたいに、自由に、スイスーイと……。今日の泳ぎも綺麗だったよ。」

「見てたの?」

「いつも、見てたよ。プールの柵の向こうで、誠ったら、全然、気付いてくれないんだもの。」

あの暑い中、有美は、部活が終わるまで待っていてくれたのか。

「熱中症になるといけないから、やめとけよ。」

「だって、見たいんだもの。誠の泳いでる姿。」

「男の水着姿見て、萌え〜ってなってんだろ。」

俺がからかって、そう言うと、有美は、顔を真っ赤にして怒った。

「もぉー!誠は、どうして、いつも、そうなの!バカ!」

俺を殴ろうとして手を上げた有美は、ハッと動きを止め、ある店のショーウィンドウの方に駆けて行った。


「可愛いな。」

呟く有美の視線の先には、指輪が並んでいた。

キラキラと夕日に輝く指輪を有美は、瞳を輝かせ見ている。

「どのデザインが好き?」

「えっ?うーんとね……。」

俺が尋ねると、有美は、迷ったように、指を一本、唇に持っていき、指輪を見渡し、一つの指輪を指差した。

「あれ!あれが可愛い〜。」

有美の指差した方に目をやると、リボンのデザインの小さな指輪があった。

「へぇー、可愛いね。」

そう言いながら、その指輪についている値札に目をやる俺。



23万…………23万?!



あんな小さな指輪が23万だってー!?


俺は、ゆっくりとショーウィンドウから離れる。

「いいなぁー。私も、いつか恋人から、あんな指輪、プレゼントして欲しいな。」

有美は、呟き、俺の方を振り返り、にっこりと笑った。

「帰ろうか。」

「う、うん。」

俺達は、そこを離れ、歩き出した。


あんな指輪の、どこがいいんだ?

例え買えたとしても、コロコロ〜と、何処かに転がって無くしてしまったら、それで終わりなんだ。

そんな事で、23万が、あっという間に消えるんだ。

指輪ね……。

俺は、指輪なんかに興味無いからな。

女は、やっぱり、ジュエリーっつぅーの?

そういうのに、興味があるし、やっぱり、プレゼントしてもらうと、嬉しいのかな……?











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