第六章 好きな女と海に来たのは嬉しいけれど、夏の海は誘惑が多過ぎるんだが
泳ぎ疲れた俺達は、パラソルに戻ろうと、海から出た。
その時、何処からかビーチボールがコロコロと、俺の足元に転がってきた。
レモン色のボールを拾い上げ、辺りを見渡すと、二人の女が砂浜を駆けてきた。
「すみませーん!」
黒いビキニ姿のサラサラロングヘアーの女が手を振る。
赤いビキニ姿の女も手を振りながら、近付いてくる。
ああ、夏の海は、罪深い。
全ての女が美しく見える。
「ごめんなさいね。梨花が変な所に飛ばすものだから。」
黒いビキニの女がそう言った。
梨花と呼ばれた赤いビキニの女は、あははと明るく笑う。
「夏海こそ、バレー部のクセに、下手くそ~。」
「何よ~。」
笑い合う二人に、ビーチボールを渡し、俺は、有美とパラソルへ戻ろうとした。
それを夏海が止める。
「ねぇー、君。背が高いのね。何かスポーツやってるの?」
「えっ?あ、ああ、水泳を……。」
「水泳やってるんだ~。背も高いし、がっしりしてるし、モテるんじゃない?」
初めて会ったのに、なんか知り合いみたいだ。
「いや~、全く……。」
あははと俺が苦笑すると、有美がコホンと咳払いをした。
それをチラリと見ると、俺は、夏海と梨花から、顔を逸らした。
夏海は、有美の方をチラッと見る。
「あれ?彼女かな~?」
有美は、夏海から、プイと顔を背ける。
「幼なじみです!」
咄嗟に、そう言った後に、俺は、ハッとなった。
有美は、一瞬、悲しそうな表情をしたが何も言わず、パラソルの方へ一人で駆けて行った。
「お、おい!有美!!」
声を掛けたが無視された。
「あれれ~?彼女、怒っちゃったかな?」
梨花が明るい表情で、そう言った。
俺は、二人に軽く頭を下げると、有美の向かったパラソルの方へ駆けて行った。
パラソルのシートの上、両膝を抱え、有美は、海を見ている。
「有美……。」
声を掛けると、有美は、海を見つめたまま、こう言った。
「お姉さん達と、遊んでくればいいじゃない。」
「お前がいるのに、そんな事、出来ないだろ。」
「フーン……。私がいなかったら、出来るんだ。」
「そうじゃなくて……。」
隣に座った俺に、くるりと背を向け、有美は、言う。
「遊んでくればいいじゃない。」
「いいのかよ?」
「私は、ただの幼なじみですからね。」
やっぱり、その事で、拗ねているのか。
まぁ……俺も悪いんだが。
彼女です。
そう言えば、良かったんだ。
なのに、照れ臭くて、思わず、幼なじみなんて言ってしまった。
「彼女……なんて、なんか恥ずかしいじゃん。」
「なんで?私が彼女じゃ、恥ずかしいの?」
「そうじゃなくて……。」
少し溜息混じりに、俺が言うと、有美は、スッと立ち上がった。
「……帰る。」
そう言って、荷物を持ち、更衣室へ向かおうとする有美の手を俺は、止めた。
「いつまで怒ってんの?ガキかよ。」
「どうせ私は、ガキよ。誠は、さっきの女の人みたいに、大人の女性が好きなんでしょ。何よ、スケベな顔しちゃって。」
有美の、その言葉に、俺も流石にカチンときた。
「ああ、そうかよ!そうだよな!あんな大人の女性の方が物分り良さそうだもんな。」
少し強めに言った俺の方を振り向くと、有美は、唇を小刻みに震わせた。
「誠のバカー!!」
そう怒鳴った有美の瞳から、涙がポロリと落ちた。
有美は、更衣室へ駆けて行くと、バタンと強く、ドアを閉めた。
俺って……バカ。
こんなんじゃない。
折角、いい感じになっていたのに。
これから、有美と楽しく過ごせると思っていたのに。
なんで……。
俺……やっぱり、有美に相応しくないのかも。
有美を泣かせたり、心配させたり、怒らせてばかりだ。
「有美……ごめんな。俺が悪かった。」
ドア越しに俺が言うと、有美は、小さく言った。
「どうせ、私は、ガキだもの。」
声が震えてる。泣いてるのか……。当たり前だよな。
「俺の方がガキだよ。やっぱり、有美には、もっと、しっかりした男がいいのかもしれないな。」
有美は、黙っている。
「ごめん……。」
俺は、もう一度、謝ると、その場を静かに去った。
夏の海なんて……夏の海なんて……。
大嫌いだ……!!
いや……俺が全て、いけなかった。
どうして、俺は、いつも、こうなんだ。
自分で自分が嫌になる。
始まったばかりの恋は、もう終わってしまいそうだ。
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