第六章 好きな女と海に来て嬉しいけれど、夏の海は誘惑が多過ぎるんだが
俺達は、なるべく人混みを避け、海の中に入った。
「冷たい!」
海の水を両手ですくい、思いきり上でまきながら、有美は、声を上げて笑った。
海水で濡れた有美の白い肌。
太陽の光がキラキラと輝き、眩しくて目眩を起こしそうだ。
海水は、俺の腹のあたり。
有美は、胸の辺りまできている。
「これ以上、深い所は無理。怖いわ。」
「じゃあ、この辺で、泳ぎの練習をするか。まずは、水に慣れる事だな。」
俺は、有美の両手を持つと、そう言った。
「何かあったら、助けてね。」
「おう、俺に任せとけ!」
そう言った俺に、有美は、クスッと笑った。
「水の中では、男らしいんだね。」
クスクスと笑う有美に、俺も優しく微笑む。
「……好きな女ぐらい守れなくて、どうするよ。」
「えっ?なんか言った〜?」
ポツリと呟いた俺の声が聞こえなかったのか、有美は、そう尋ねる。
「な、なんでもねぇよ。」
照れたように言った俺に、有美は、口元に手を当て、クスッと笑う。
「ちゃんと、聞こえてますよーだ。」
ペロッと舌を出した有美の手を話すと、俺は、少し呆れた顔をする。
「そんな事を言ってると、ここに置いてくからな。」
「やだ〜!怖いー!」
困ったように眉を寄せた有美の手を再び取り、俺は、笑って見せた。
「バーカ。そんな事するわけないだろ。」
はぁー、なんだ?これ?
恋人同士じゃねぇーか。
恋人同士……?
俺達、恋人同士なのかな?
「お前……どんな男が理想なん?」
「えっ?何よ、いきなり……。」
「お前がどんな男が好きなのか、気になっただけだよ。」
俺の言葉に、有美は、しばらく口を閉ざしたが首を傾げる。
「知らない。」
「知らない……って。自分の事じゃないか。」
「じゃあ、誠は、どうなの?誠の理想の女性って、どんな感じなの?」
逆に聞かれ、俺は、ドキッとした。
もちろん、お前だよ。
そう言える勇気があったなら……。
「知らないよ!」
俺が応えると、有美は、一瞬、寂しそうな顔をしたが、すぐに笑って言う。
「ほら、誠だって、そうじゃない。」
俺は、両手で海水をすくい、顔をバシャバシャと濡らすと、有美の手を引っ張り、自分の方へ引き寄せた。
「誠……?」
驚いた顔で見つめる有美を両手で抱きしめ、俺は、耳元で、こう言った。
「俺の理想の女は……お前だよ。お前、一人だ。」
「誠……!」
更に、俺は、強く有美を抱き締めた。
「お前は、どう思っているか知らないけれど……。俺は、頼りなくて、優柔不断で、鈍感だけど。お前をずっと好きでいる自信だけは、誰にも負けない。お前だけは、俺が守るから、俺についてきてくれないか?」
「……プロポーズみたいだね。」
クスッと、有美は、笑ったが俺は、真剣な顔で有美を見つめた。
「茶化すなよ。俺は、真面目なんだ。それに、結構な勇気を出して言ったんだから。」
俺の言葉に、有美は、口元に優しい笑みを浮かべる。
「うん……分かってる。忘れたの?私が欲しいのは、誠だって。忘れちゃったの?」
「じゃあ、いいんだね?俺で。」
有美は、俺の首に腕を回し、唇を近付けてきた。
有美の柔らかい唇が触れる。
「これが、私の応えだよ。」
初めてのキスは、甘いリップの香りと、しょっぱい塩水の味がした。
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