第一章 好きな女が出来たんだが理想が高過ぎて悩んで夜も眠れないんだが
ー舞……。俺、中学の時から、ずっと君の事が好きだったんだ。ー
ー矢崎くん……嬉しい。私も、矢崎くんの事が好きだったの。ー
ー舞……。ー
ー矢崎くん……。ー
ー矢崎くんなんて、やめてくれよ。誠と呼んでくれ。ー
ー矢崎……矢崎……!ー
「おいっ!矢崎!起きろー!!」
「は、はいー!!誠と呼んでくれー!!」
怒鳴り声に目が覚めた俺は、そう叫びながら、目が覚めた。
ーここは、教室。
クラスメートが一瞬、キョトンとした顔をしていたが一斉に、大声で笑い出す。
「矢崎〜!お前、俺の授業で寝て、しかも、何が「誠と呼んでくれー!!」だ!目が覚めるように、水道で顔を洗ってこい!!」
数学の担当の宮本が真っ赤な顔をして、そう怒鳴った。
「は、はいー!!スミマセーン!!」
俺は、あちこち机に身体をぶつけながら、慌てて教室を出て行った。
最悪だ!最悪だ!最悪だーーー!!
最近、舞の事ばかり考えて、夜眠れてないから、居眠りしてしまった!
しかも、あんな恥ずかしい寝言まで!!
「わぁーーーーー!!」
俺は、廊下を走りながら、そのまま階段を下り、校舎の外に飛び出した。
校庭の裏庭へ駆けて行き、息を切らせながら、俺は立ち上がり、ゆっくりと顔を上げ、空を見上げた。
青い空に、ぽっかり白い雲。
空は、こんなに晴れているのに、俺の心の中は、土砂降りだ。
「大っ嫌いだー!!白い雲なんて……!!」
教室へ戻るのが恥ずかしくて、俺は、そのまま学校の門を出て、家の近くの公園まで来た。
公園のベンチに力無く腰を下ろし、俺は、頭を抱える。
「ああ……。どうしようかな。」
俺は、バカだ。舞の事を余りにも想い過ぎて、寝不足になった上に、あんな夢まで見て、あんな寝言まで言って……。
みんな笑っていた。舞も……。
もう俺は、おしまいだー!
「何、地球の終わりみたいな顔をしているの?」
その声に顔を上げると、いつの間にか、目の前に同じクラスの中野 有美が立っていた。
有美は、俺の家の近所に住む、幼なじみ。
そして、俺と同じ高校で、同じクラス。
まん丸メガネの二つ結びの長い髪をした有美は、俺を見て、軽く微笑んだ。
「カバン忘れてたから、持ってきたよ。」
「えっ……?」
眉を寄せ、見つめる俺に、有美は、クスッと笑った。
「もう授業が終わって、先生があなたが忘れたカバンを届けてくれって言うものだから。」
「あっ……。もう、そんなに時間が経ったのか。ありがとう……。」
「いいえ、どういたしましてー。」
明るく笑って言う有美とは逆に、俺の心は沈んでいた。
「本当に、地球が終わってくれればいいのに。」
俺の言葉に、有美は、クスクスと笑う。
「勉強の頑張り過ぎじゃない?」
「……明日から、どんな顔で学校に行ったらいいんだ?」
呟く俺に、有美は、口元に優しい笑みを浮かべた。
「どんな……って。いつも通りでいいんじゃない?みんな、何とも思ってないよ。あの後、普通だったし。」
「……そっか。」
思えば、クラスのみんながそこまで俺の事を気にするわけがないか。
俺は、フラりと立ち上がり、そこを去ろうとした。
その背中に、有美は、静かに、こう言った。
「高嶋さんの事……諦めた方がいいよ。」
「えっ……?」
振り向いた俺は、ベンチに座り、遠くを見つめている有美を見た。
「高嶋さんの事……好きなんでしょ?彼女……彼氏いるから。」
そこまで言うと、有美は立ち上がり、タタタと走り、公園を出て行った。
俺は、暑い日差しの中、動けずに、その場に立ち尽くしていた。
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