第11話 フィールド型ダンジョン

 晴天の真っ昼間。街外れの路地裏、廃墟の入り口に暗く魔力が渦巻いている――ダンジョンだ。

 ドランが配信機材を準備していく。今日は二日酔いじゃないみたいだ。


 昨日は爆撃うんぬんの直後、茨木が顔を青くしてトイレに駆け込み、それで夕餉はお開きとなった。

 ドランはそんな茨木の姿をつまみに、けらけら笑いながら酒を飲んでいたが……。流石にそれ以上深酒はしなかったか。


「さて、準備できましたぜ。……さっそくつけますか?」

「ドランよ、ご苦労。ああ、頼んだ」

「では、シルヴァローズの皆さま、ご武運を」


 配信が始まる雰囲気を察した、体調不良二日酔いの茨木の代わりに送迎してくれる自衛隊員が挨拶する。

 あ、そうだ。


「君、このダンジョンに他の冒険者はいるか?」

「いえ、シルヴァローズの皆さまに配慮して、このダンジョンは他の冒険者が入らないように抑えています」

「そうか、分かった。配慮感謝する」


 茨木、あんなんでちゃんと仕事してたんだ。えらいなぁ。今夜は彼の肝臓を労わってあげよう。

 手を振り、自衛隊を下がらせて配信を始める。


【異世界人】派手派手ド派手ダンジョン攻略!


“おつ~”

“一日ぶり”

“タイトルどうしたw”

“皇帝(笑)! 今日もダンジョン攻略ですか?”


 ちょこちょこと配信に人が集まってくる。

 昨日茨木が言ってたけど、配信宣伝用のSNSとかも作ったほうが良さそうだな。200年前もSNSは見る専だったからなぁ……SNSの活用というのは難しいものだ。


「諸君、ライブ視聴ご苦労。うむ、昨日ぶりだな、二日連続で来るとは我も嬉しく思うぞ」


 皇帝の後ろの(笑)が気になるが、まあ仕方ない。これから威厳を見せつければいい。


「さて、本日もダンジョン攻略だ。どのようなダンジョンかは見た方が早いだろう」


 カメラに背を向け、ダンジョンへ向き直る。

 プラチナブロンドの髪が横切る――アリシアが前に出て警戒する。僕の背から、ふんすと気合いっぱいのフィオナの鼻息が聞こえてくる。後ろからドランがカメラを僕たちにつける。

 足を踏み出す。


「今回のダンジョンは――中位の、フィールド型ダンジョンだ」


 魔力渦を潜ると景色が一変する。

 灰がかった雲に覆われた薄暗い空、ざらついた風がすえた臭いを運んでくる。崩れかけのビル群の一角が遠くで崩れる。

 廃都市が広がっていた。


 そう、今回はフィオナの爆撃魔法を活かすために、茨木にフィールド型のダンジョンを手配させていた。

 ゲロ吐いてたのにほんとしごできだなぁ茨木は。


「壊し甲斐がある」


 むふ~、とこれにはフィオナさんもニッコリである。


“うおえ世紀末世界観”

“中位? 飛ばしすぎじゃない??”

“皇帝(笑)! フィールド型は油断したら魔物に囲まれますよ! ……ほんとに大丈夫か?”


「ふむ、心配ない。前回は初配信ということで撮れ高がない不慣れな画を見せたが……今回は違うぞ。茨木の教え通り、動画映えする映像を諸君らに届けよう」


 廃墟の中を歩き進みながらコメントを見ていく。


“出た茨木w誰だよw”

“茨木は囲碁部だって”

“草 もうそれでいいやw”

“フィールド型ダンジョンは斥候役が重要だけど二日酔いだもんなぁ……奇襲されたら終わり、強がらずに引き返しな”


「いやいや、今日は二日酔いじゃねえですよ! いつでも酒飲んでるみたいな偏見は侵害ですぜ」


 同接数が1000人に届きそうな、画面のリスナーに向かってぶんぶんと顔を振るが酒飲み酒クズは偏見じゃなくて正見なんだよなあ……。


“信用の問題^ ^”

“命懸けてんのに斥候が二日酔いできたら普通蹴り飛ばすわ”

“本当に大丈夫か? 冒険者雇ってても奇襲には対応できんぞ”


 ドランが必死でリスナーに弁解するが、そりゃそう思われるだろ……。まあ仕事はしっかりしてるんだけど。

 それよりも、想像以上のコメント欄に心配の声が上がる。ふむ、少し

 ……おっ。


「ユーリ様」

「ガーゴイル、それにコボルトも駆けてくるな」


 正面の空から、ガーゴイルが3体、側面と背後からコボルトの群れ、12体がやってきた。


“さっそくきた”

“やばいやばい、大丈夫なのこれ”

“C級冒険者並みの実力があればいけるけど……ゴクッ”


 ガーゴイルの動きに合わせて、姑息なコボルトが同時に襲いかかってくる。

 それに対し、僕たちはゆったりと構えたまま正対する。


“なにしてんの動けよ!”

“え、びびって動けないとか……”

“グロシーンはやいはやいはやい”


「ドラン」

「はいよ、もちろんやってますぜ」


 あと数メートルでガーゴイルが間合いに入る、その瞬間、コボルトもガーゴイルも、僕たちに向かってきた魔物たち全てが駆けてきた姿勢のままでピタリと止まった。

 ドランが辺りに張り巡らせていた、魔力網に引っかかって。


「アリシア」

「はっ」


 ピッ! っと、アリシアの剣から音が鳴った。

 コボルトの唸る声。困惑の鳴き声が聞こえたかと思ったら――周囲の魔物が全て両断されていた。


 ボトトトトッと魔石が地面に落ちる。


 配信画面を見る。チラッ。

 どうだ、わざと敵を引きつけて、倒す瞬間を見せるようにしたのだが……。

 

 ラグがあるのか、少し時間を置いて、


“え? ええ……? ええ!?”

“魔石になった? えっ死んだの?”

“あ……ありのまま今起こったことを話すぜ。ガーゴイルが止まったと思ったら半分になって魔石になった。何を言っているのかわからねーと思うが俺も何を見させられたのかわからなかった……”

“ラグか!? こんなときにラグなのか!?”


 コメントが次々と来る。同接数は2000人を超えていた。

 よし、早速前の最大同接数も超えたし、なかなか幸先が良いんじゃないか?


“イロモノだと思っていたけど……もしかしてとんでもない能力を持っているのか……?”

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