第21話 ダンジョン探索
【豪剣ザイロン視点】
――ギシャァァァアアア!!
四方からやってくるアーミィアントの噛みつきを大剣で防ぎ、魔力で強化した拳で殴りつける。
甲殻を凹ませ、後方を巻き込んでノックバックする。
その隙をついて大剣でアーミィアントを両断しようとして――地面を転がってその場から退く。先ほどいた場所に不可視の刃が食い込んだ。
――ギシャシャシャアアア!!
「――チッ!」
4階層のボス、ウィンドアーミィアントの風魔法だ。
再び、アーミィアントが6体同時に襲いかかってくる。
そのうち、先走った一体を大剣で両断した。
ウィンドアーミィアントの攻撃を受けないよう、その甲殻を盾にする。
後続から迫り来るアーミィアントへ、
のけ反った隙をついて、大剣で突きを放つ。
――その腕を横から噛みつかれた。
「グッ! ……効かん!!」
激痛に耐え、瞬時に魔力を腕に強く流して強化する。
アーミィアントの食い込む歯が止まった。
その隙をついて、反対の腕を口の中へ突っ込んで、魔力波を放った。
――ギシャァァアア!?
体内が爆砕され、一瞬で魔石に変わる。
この術は体に触れなければ使えないが、その分強力だ。
横から襲いかかってきたアーミィを蹴り上げ、大剣で横薙ぎに振るう。
――回避。
前転。
頭上を風の刃が飛んでいった。
それを目で追うことはせず、回避した動きを利用して、一気にウィンドアーミィアントに迫る。
大剣を振り下ろす。
――ガキンッ!
大剣とウィンドアーミィアントの噛みつきが拮抗する。
「馬鹿め!」
大剣を放した。
力の拮抗がなくなり、ウィンドアーミィアントの体勢が崩れる。
そこに魔力波を打ち込んだ。
――ギシャァァァアアアアア!!?
魔力が空中に淡く舞い始める。
4階層ボスを倒した証だ。
一息つき、魔石に変わろうとするボスに背を向け、残りのアーミィアントに対峙する。
あと、2体。
***
部屋に散らばっている魔石を拾いながら、見れていなかった配信のコメントを読んでいく。
¥3,000
“お疲れさまです! アツい闘いでしたね!”
¥500
“ザイロン、今日のボスは激闘だったな。腕は大丈夫か?”
¥500
“手堅い戦い、流石です。いつも参考にさせてもらってます”
「スーパーチャットありがとう。さすがに4階層のボスは手強かったな。被弾なしとはいかなかった。まあ腕は大丈夫だ、すぐ治る」
回復薬を塗って、魔力を循環すれば明日には支障なく戦えるだろう。
スパチャの500円ではバンドエイドくらいしか買えないだろうが……それでも金銭の援助があるのはありがたい。
コメントだけでなくお金がもらえたりと、未だに配信の機能には慣れない。だが最近ようやく、副収入としてのありがたみを感じるようになってきた。
“ソロでその安定さはザイロンだけだわ”
“さすザイ”
“ザイザイ!”
“見てて安心感あるさすザイ”
「あ、ありがとうな。……ソロな分、安全な探索は何よりも優先しなければならないことだ。命あっての冒険者だからな」
この配信、リスナーの間ではよく分からないノリが流行っている。
それが配信のよく分からないところでもある。
“うっ……身に覚えが……”
“気をつけます……”
前の世界では、若い冒険者は言うことを聞かずに調子に乗って……という奴が多かった。
だがこいつらは割と素直で、そこが好感を持てる。
その分つい節介を焼いてしまう。
「なんだ? お前らも無茶な探索はするなよ? あとちょっとってのがお前を殺すんだ。ダンジョンで危ない場というのがどれくらいある? 一度考えて振り返ってみろ」
“忠告ありがてえ……”
“説教きた! おまいらしっかり聞けよな!”
“あざす……あざす……”
“あざザイロンですわ……”
“ん〜このザイロンの説教からしか得られない栄養素がある”
魔石を拾い終わってからもしばらくコメントを読む。
コメントが途切れたタイミングで、そろそろと配信を終了した。
「ふう……行くか」
配信は金になるから探索にも精神的に余裕ができるから良い仕組みだ。見てる側はこんなものが本当に面白いのか分からないが。
ただ、見られている分、緊張はする。配信では間違えたことをしたら酷く言われるらしいしな。
俺は今のところそんなことはないが、気をつけないとな。
5階への階段を登り、途中で腰を下ろす。今日はここで野営だ。
階層の間の階段では魔物が出ない。そのため、日を跨ぐ探索では階段で休息を取るのが冒険者にとっての常識だ。
下の階層には数人、階段で休息を取っている冒険者がいたが、ここにはいないみたいだ。
まだ5階にたどり着いた冒険者はいないのかもしれない。
階段の端に、先ほどドロップした素材を隠しておく。盗られても文句は言えないが、荷物になるから置いていくしかない。
鞄から四角く固められたレーションを取り出す。口の中で、唾液で柔らかくして、もそもそ食べる。美味くはないが、探索においてはこれが効率よく栄養補給できるし、かさばらない。
簡素な食事を終えて、腕の噛み跡に回復薬を塗る。
回復薬も少なくなってきたな……このダンジョンを攻略するまでギリギリ持つかどうか。
地球では魔法がまだ発展途上のため、回復薬が非常に高い。前の世界の相場の数倍はするのだ。
腕に魔力を循環させ回復を促す。
今回のダンジョン攻略で稼がないとな……と気合を入れる。
しばらくそれを行い、鞄を枕にして、仮眠についた。
【ユーリ・シルヴァローズ視点】
「かんぱぁ〜い!」
僕たちは2階層の途中まで探索していたところで、お腹が空いてきたため野営をしていた。
ちょうど野営によさそうな広い場所を見つけたのだ。
アイテムボックスから折りたたみの椅子とキャンプセット、テントを出して広げる。
ついでに魔道具。テントの周囲に防御結界を張り、弱い魔物を撃破する。このダンジョンくらいの魔物なら大丈夫だろう。
ドランがとっておきのようにアイテムボックスから調理器具を取り出した。
「フィオナ、キャンプ飯を侮ってやしたね? これを見てもそれが言えますかい……!」
大きめのスキレット。そこにオリーブオイルとニンニクを炒め、エビやキノコ、ブロッコリーなんかの具材を煮込んでいく。
アヒージョだ!
「ふぉおおおお!これはほんとうにキャンプ飯……!?」
「これが本当のキャンプ飯ですぜ……!」
フィオナが興奮するまま立ち上がって手をぶんぶんと振る。
まだです、アヒージョにはこれですぜ……と、とっておきを取り出すように白ワインを取り出した。
「おお! 流石
よくわかってるなぁ! ドランほどじゃないが酒は飲みたい。
150年間こんな野営なんてしたことがなかったからテンションが上がる。
「ユーリ様、野営に飲酒はよろしいのですか……?」
「ふむ……嗜む程度であればよかろう」
ドランのアイテムボックスからゴロゴロと出てくる酒瓶から目を逸らす。
「嗜む程度……?」
うるさい。
「アリシアよ、料理が冷めてしまうぞ。さあ地球にかんぱーい、だ!」
迷うアリシアの手にグラスを持たせる。
「何があってもアリシア、お前は我の剣として斬り払ってくれるのであろう?」
「ユーリ様……! ……少しだけですからね」
うんうん一口だけだから!
じゃ。
「かんぱーい!」
このあと滅茶苦茶飲酒した。
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