第22話 ダンジョン探索2

【ユーリ・シルヴァローズ視点】


「ラッキー! ユーリ様ぁ、ここにこんなにも魔石と素材が落ちてますぜ!」


 二日酔いで静かだったドランが元気な声をあげる。見てみると、その通り魔石や素材が落ちていた。

 そこには先ほど戦った4階層のボスの素材もある。

 

 少し隠すように置いてあったし、宝箱かな?


「ドランよ、よく見逃さなかった。ありがたく頂戴するとしよう」

「へい! 酒代になりますねぇ」


 今もちょっとグロッキーなクセによく言うよほんと。

 僕もちょっと昨日の酒が残ってるから、今は酒のことは考えたくない。


「あと1層くらいですかね。……ユーリ様、どうします? 少し休憩しますか?」


 昨日たらふく飲んでいた僕に気を遣ってアリシアが聞いてくる。……向けてくる視線が痛い。

 どうしてアリシアとフィオナはあれだけ飲んでもピンピンしてるんだよ……ずるくないか……。


 それも前の世界とは大違いでキャンプ飯が美味すぎたのが悪い。

 うんざりするほど過ごしたダンジョンだからこそ、美味しいものを食べられるというのにテンションが上がってしまった。

 やっぱご飯は景色とか雰囲気とかでも味が変わるよね。ドランもキャンプ飯と酒に興奮しててハマりそうな感じだったし、これからの野営も期待できそうだ。

 まあ、それは置いておいて。


「いや、行こう。この調子だと今日中に攻略できるだろう。それに他の者に先を越されてもつまらん」

「はっ!」


 ここは維持を張る。というか僕とドランの二日酔いで誰かに攻略されたなんてなったらまずい。つまらんどころじゃない。皇帝としての威厳がなくなる。ただでさえこっち地球に来てからは怪しいんだから。


 時刻は昼過ぎだ。夕方くらいには攻略してしまおう。

 ドランの尻を叩いて探索に戻る。

 嫌な顔するなって。僕もキツいんだから……。


【豪剣ザイロン視点】


 舐めた指先を前方に向け、風向きを確認する。地面に耳を当て、周りの音を聞く。剣の鞘で地面を叩き、トラップを判断する。


 それを繰り返して前に進む。

 今は外の時間で夕方に差し掛かるくらいだ。

 仮眠を取って早朝に起き、そこから休憩を挟みつつ順調に進んでいた。


“やってること地味なのに流れが滑らかすぎて見てられる”

“この黙々、って感じが流し見にちょうど良いんだよなぁ”

“ザ・冒険者って感じさすザイ”

“実際ここまでやってる冒険者はどれくらいいるのか”

“気持ち接敵少ない?”


 トラップを警戒しながら、コメントを読む。

 そういえば運が良いことに、今日は数回しか魔物との戦闘がない。

 もしかしたら他の冒険者がいるのだろうか。そうコメントに問いかける。


“その可能性はありそう”

“上位ダンジョンの5層だし、いるならかなりの実力者だな”

“ザイロン今回はダンジョンを探索じゃなくて攻略するんだっけ?”


「ああ、今回は攻略するつもりで来た」


 B級になって数ヶ月。そろそろA級への昇格のために上位ダンジョンを攻略しておきたい。

 A級になると、冒険者への手当や手数料の割引等、様々な恩恵があるらしい。

 そんなにも優遇されるのはA級が冒険者の上位数パーセントしかいないためだろう。


 前の世界では中堅少し上くらいの実力だった俺でも、この世界では上位になるから不思議だ。まあ上には上がいるのだが。

 それよりも、


「ここまで来たんだ、ボスを取られたくないな」


“負けるなザイザイ”

“うおおおおお競争だぁぁぁあああ”

“お? ペース早めるか?”


「お前らなぁ……昨日命あっての冒険者だと言ったろうが……。そうやってペースを崩すから怪我したりするだよ」


 安全マージンというのはいつもと違う状況や、焦りが混じるとすぐになくなる。

 常に一定のペースだ。

 それをリスナーにコンコンと説く。もちろん、周りの警戒は忘れずに。


“ぐう正論”

“耳が痛いのだ”

“ごめんて……怒らないで”

“ん〜、ザイロンの説教からしか得られない栄養素が過多……”


「怒ってるわけじゃないんだ。そういう細かいところから安全ってのは確立されていくわけで――」


 そこからしばらくリスナーに説教じみたことを言っていると、地面から微細な振動を感じた。

 戦闘体勢を取る。


 前からロックアーミィアント率いる群れがやってきた。


 戦列を整えられる前にアーミィアントに迫る。


 後続をおいて、まずは正面に3体。

 急な機動についてこられなかった右側のアーミィアントの関節を狙い、振り下ろし。

 まずは一体。


 そのまま、アントの群れに突っ込み、薙ぎ払い。

 数匹の足を斬り取ったところで、四方から噛みつきがきて退避する。


“久しぶりの戦闘きたきたきた”

“うおおおおおおザイロンいけえええ!!”

“かませええええ!!”

“説教から解放されたやつらが元気取り戻してて草”

“さっきまで死にかけの魚になってたリスナーがまな板の上でではしゃいでやがるぜ”

“ザイロン、説教のこと忘れてたらいいな”


 急な戦闘が始まって勢いよくコメントが流れているが、読む暇なく集中する。


 戦列を整えたアーミィアント達がじりじりと接近してくる。

 それを俺は大剣を構えて隙を探る。


 退避。


 すぐ横を石槍が飛んでいった。


 ロックアーミィアントの魔法をきっかけにアーミィアントが群がる。

 ロックアーミィアントの死角になるように維持しながら、噛みつきを捌いていく。


 剣で弾き、横からの噛みつきを蹴り飛ばす。組みついてこようとしたやつを殴りつけ、魔力波を打ち込む。


 そのままタックルし、隙が生まれたところに、剣を差し込むが――弾かれた。


「チッ!」


 下がろうとして横腹を噛みつかれそうになり、腕でガードする。

 

「グゥッ!?」


 運悪く、昨日やられたところと同じところを噛まれた。

 痛みに呻き声が漏れる。


 噛みついてきたやつの腹を蹴り、緩んだ隙に逃れて体勢を整え――


 前に前転。


――ギシャシャシャァァァアアア!!


 石槍が通り過ぎる。


 アーミィアントの目の前に突っ込む形をとなり、そのままタックルする。

 怯んだそいつは放って、横に一閃。

 今度は関節に刃が入り、弾かれずに両断した。

 

 背後からの気配に剣を切り上げ。


――ギシャア!?


 一発で倒すことはできなかったが、腹に傷をつけられた。


 横から迫っていたやつになんとか剣を間に合わせる。が、ロックアーミィアントの石槍が飛んできて、今度は避けられない。


「グフゥッ!?」


 脇腹を擦り通り過ぎていく。

 貫かれてはいないが、防具がえぐられた。


 その隙をつこうとアーミィアントが寄ってくるが、戦闘にタックル、振り向きざまに振り下ろし。斬り上げで2体倒す。


「はぁ……はぁ……まだまだぁ……ッ!」


 残り3体のアーミィアントとロックアーミィアント。

 攻撃は何度かくらってしまったが、まだ余裕は、ある。

 声を張り上げて、気合を入れる。


 ロックアーミィアントの石槍を避けて、アーミィアントに迫る。

 まずは先ほど腹に一撃入れて弱られたやつを。一閃。

 その流れで突き。

 横から牙を向けてきたやつを魔力波。


 これで雑魚は片付いた。

 石槍を避けながら、ロックアーミィアントに迫る。

 近づいたら魔法を使う個体でも雑魚と一緒だ。

 腹の関節を両断し、魔石に変えた。


「……ふぅ。今回は数が多かったな」


“激戦おつかれえええ!”

“さすザイ! さすザイ!”

“今回は結構くらったな……”

“おいおい脇腹抉れてるけど大丈夫か??”


 周囲を警戒しつつ、水分補給をする。戦闘中のアドレナリンが止まったのか、腕と脇腹が痛みを訴えてきた。


「ああ、防具があったから大丈夫だ」


 とはいえ、痛む脇腹と腕に回復薬を塗りたくる。魔力を傷口に流す。これで回復薬は底をついてしまった。

 ……しかし、今回は出費が痛いな。

 防具も地上に帰ったら新調しなければならない。


 これで昨日置いてきた素材やらがなかったら赤字だな。そう苦笑しつつ、コメントを返していく。


 しばらくして探索に戻り、進んでいくと奥にボス部屋らしいのが見えた。


 ようやくか。気が緩みそうになるも、周囲の警戒を止めない。


――ジャリッ。


 微かな足音を捉えた。すぐに戦闘体勢を整え、剣に手を置く。


……人間の足音。冒険者か……?


 ボス部屋を挟んだ、反対の通路から人影が現れる。

 それは、4人組の、なんとも奇妙な冒険者であった。

 

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滅んだ世界の最後の皇帝、200年越しに現代へ君臨す〜ダンジョン配信を始めるも仲間が炎上します〜 宵空* @RinnaChun

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