第8話 怖いか? アリシアの炎上の才能が

 地面に落ちている魔石をドランやアリシアが拾うのを眺めながら、コメントを見る。

 同接数は一度1500人くらいになって、そこから止まっていた。


“魔物出なさすぎじゃね?”

“ただの雑談配信草”

“トラップ←二日酔い斥候の出る幕なし”

“魔石だけ落ちてるのどういうこと? 先行している仲間いるとか?”


「確かに、魔物なら先ほどからゴブリンしか見ておらんな。魔石はそのゴブリンのものだ」


“は?”

“何も見えていないんですけど……”

“仲間が先に戦闘してる感じ?”


 ゴブリン、ゴブリンメイジ、ボブゴブリン——ころんころん、と魔石が通路奥の部屋で落ちる。

 魔力感知に引っかかるたびに空間魔法で自動迎撃している。

 さすがにゴブリン相手に戦うのは面倒だ。

 そうリスナーに説明する。


“そんな魔法あるかwww”

“ぼくがかんがえたさいきょうのまほう”

“実力バレ(笑)しないようってコト。設定どうなってんだよ……”

“てか前提として本当に異世界人? そういえば異世界人の公式マークなくね?”


 異世界人の動画配信者には政府から認証がつくのだが、まだ認証ができていないらしい。


「もちろん異世界からやってきた。シルヴァローズという帝国からな。公式マークというのは茨木が言っていたが、まだ認証が追いついていないらしい。しばし待たれよ」


“茨木って誰だよ”

“隣のクラスの囲碁部にいるよ、茨木”

“絶対関係なくて草”

“まず異世界人ってのから怪しくなってきたな……”

“あれじゃね、最近大手がやり始めたアイドル売り。強い魔物は雇った冒険者が間引きして、画面映えさせよう、みたいなヤラセ”

“その線が一番デカい。てかもはやそれしかない、魔物ゼロはやりすぎだけど。”

“ゴブリンすら倒せないアイドルとかなにしに来てんだよ、おさんぽか?”

“事務所どこー?”


 同接数が上昇し、コメントも増えているが……。

 何故かリスナーの流れがおかしなことになっている。

 どのコメントから返せば良いか、収拾がつかなくなってきた……。


 そこにアリシアが入ってくる。


「おい、ユーリ様を疑うのか? そうか、画面越しではこのユーリ様の精緻な魔力を感じられないのだったな……。まあ、ユーリ様が剣を抜くほどの相手というのはいないということだ。……その前にそんなやつがいたなら私が先に立つがな」


 可哀想に、と首を振る。


“なんだこのくっころ”

“ユーリ皇帝の魔力を感度1000倍にして感じさせわからせたい”

“ユーリ様ムーブも行き過ぎたら不快やで”


 おいおい、さっきから変な流れになってるんだから、妙に煽るようなこと言うなよ……。

 アリシアにやめろと目を見るが、伝わらない。


 やめよ、と話しかけようとして――


「ふむ、それにしても先ほどから気になっていたのだが、今は昼間だよな。お前達、畑に精を出したり、商いであったり、何か仕事はないのか? ユーリ様、どう思います?」


 ドデカ爆弾。


 え、いや、えっ?

 こいつ何言ってんの? それになんてもんを僕に振ってくれんの???


“あ”

“あっ”

“あーあ、触れてはいけないものに……俺は休日なだけだもんほんとだもん……”

“リスナーの闇に斬り込みやがったこの騎士”

“ひどいよアリシアちゃん。口悪いけど可愛いなって思ってたのに本当に口悪いじゃん。空気読めないとか言われない? もう少しリスナーのこと気遣った発言をしたほうがいいよ?”

“↑ガチな人じゃん”

“↑おまえも^ ^”


 急に湧き上がったコメント欄にアリシアが困惑する。


「何をそんなに興奮している。もしや貴様ら、浮浪者や物乞か……? しかし、そんな身の上でも配信なんて娯楽を見られるのものか……」

「やめろやめろやめろアリシア何言ってるのだ。決めつけは良くないぞ」


“あああああああ”

“俺浮浪者じゃなくてニートだもんね……くそが”

“マッマに物乞して生きてるで^ ^(子供部屋)”

“おまえらきらい”

“社会の魔物が炙り出されてて草”

“真昼間にこんな悲惨な配信がかつてあっただろうか……”

 

 同接数が下がっていく。

 ニートとはなんだ? とかほんまお前アリシア……。

 困ったように見てくるがここからどうしろと。

 

「ああ、ほら。……貴族なのではないか……?」


“貴族www”

“たしかに暮らしは貴族みたいなもんだわwww”

“物は言いようだなぁ()”

“俺が貴族だったら首跳ねてるとこだったわ”


 アリシアの顔色がサアアっと青ざめて頭を下げる。

 あっ。


「た、大変失礼いたしました、視聴者の皆様! 浮浪者や物乞と並べるような悪しき言動。どうか取り消させていただきたい! 私の無知から高貴なる身分を貶めてしまい、申し訳ありませんでした。

 それに、ユーリ様、シルヴァローズ家の名を汚してしまいました。なんとお詫びすればよろしいか……」


 ユーリ様の頭を下げさせてしまった、とギシリと歯噛みする。


“どうしたどうした”

“いや変わり身www”

“す、素直やん”

“情緒ェ……”


 適当なこと言うんじゃなかった……もう無茶苦茶だ。

 

“これはその首で罪を償うしか”

“俺はアリシアちゃんの体でいいお^ ^”

“↑キッッッツ”


 また変な流れになっている。アリシアも頭を下げたまま動かないし。


「ユーリ様ぁ、ボスですぜ、どうしやす?」

「ん、お腹すいた。私は味覚の探索をしなければならない」


 フィオナは無視するとして、もうラスボスか……配信も荒れているところだというのに……。


「はあ……リスナーの諸君。どうだろう、今からアリシアがここのボスの首を持ってくるから、それで手打ちにするというのは」

「ユーリ様……! ぜひ、是非私にそのお役目を!」


 アリシアが跪き、剣を掲げる。

 これまた思いつきで言ったが、結構いいんじゃないか? 実力を示すことにもなるし。

 魔力感知にボスが引っかかったとき、空間魔法の自動迎撃にストップかけて良かった。



“おっいけいけ、打首じゃい”

“アリシアちゃんの首がボスの首にすげ変わってて草”

“ボスへの理不尽な扱いに涙が止まらない”

“これにはボスも助走つけて殴るレベル”

“まあいいんでない”


「ふむ、寛大なリスナーらもこう言っている。ではアリシア、彼等の前でボスを撃破する栄誉を与える」

「はっ、謹んでお受けいたします!」


 そう言ってアリシアは立ち上がると、ボス部屋へ駆け出し、消え去った。


“でもボスでしょ……煽ってるけど大丈夫か……?”

“ゴブリンを倒すのも怪しいしなぁ……”

“てかアリシアちゃんどこいった??”

“いきなり消えたんだが……ラグくない?”


 そうこうしているうちに、アリシアが戻ってきた。


 ゴブリンキングの襟首を掴んで。


 アリシアがこちらに向かってを投げつける。

 ゴブリンキングが地面をバウンドし、カメラの前にひれ伏した。頭にちょとんと載っている王冠がひしゃげている。


――ギェェェッエッエッ!!


“ええええええ”

“何が起きた!?!?”

“ゴブリンキングこえええええ”

“え、奥からこっちに来るのアリシアちゃん!? アリシアちゃんがやったの!?!?”


 ゴブリンキングが起き上がろうとして――一瞬で戻ってきたアリシアがその背を踏みつける。


「だまれ、臭い吐息をユーリ様の前で漏らすな。それにリスナーの方々が貴様の汚い嬌声に怯えるだろうが」


“え?? アリシアちゃんがワープしたんだけど、さっきからラグやばない??”

“一応それなりの冒険者なら倒せるゴブリンキングだけどさぁ……ボッコボコやん。どうなってるの……”

“ほんとに僕が知ってるアリシアちゃん……?”

“先に先行してる仲間が体力削ってたとか?”


――グギェッ!


「二度は言わん」


 アリシアがゴブリンキングを蹴り上げ、そのまま空中で首を一閃。


 あっさりと、魔石に変わった。

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