第7話 これがシルヴァローズだ!

 「さて、我ら冒険者パーティー、シルヴァローズ、最初のダンジョン攻略だ。我らシルヴァローズの雄姿を見晒せ!」


 コメントをチラ見する。

 

“なんだロールプレイか?”

“イロモノにしてもくさいぞ……”

“風格あるやん(なお背景公園)”


 まずい、初手からミスったか……?

 しかし後戻りはできない。

 ご武運を、と静かに手を振る茨木に背を向けて、ダンジョンへ足を踏み入れる。


 中は典型的なダンジョンにある洞窟だった。

 斥候のドランを先頭に、アリシアが前に出る。フィオナの周囲で僕が警戒する。


 魔力を張り巡らせて歩き進めていくが、大きな魔力は感じない。所々にはゴブリンなんかの小さな魔力反応はあるが――簡単なトラップや弱い魔物だろう。


 茨木が言っていた通り、弱いダンジョンみたいだ。それはダンジョンが出現するときの魔力渦の大きさで分かる。

 話を聞く限り、そういった仕組みは前の世界のダンジョンともそう変わらないようだ。


 ただ、油断はしない。地球のダンジョンという未知の場所なのだから。


“ちゃんとパーティとして様にはなるのね”

“戦闘あくしろ”


 細々と流れているコメントを見ながら、片手間にさっき感知した曲がり角のゴブリンを空間魔法で処理しておく。両断されたゴブリンが消え、魔石がコロンと落ちる。


 そうして魔力反応を見ていると、片っ端からトラップを潰していたドランがふらふらと小さな魔力痕へ向かっていくのが分かった。

 そこにはトラップがあるはずだが……。


「ドラン、どうした。……いや、宝箱か?」


 幸先が良いな。

 僕もドランの傍へ向かう。


“おっ、まじ?”

“ま?”

“宝箱早くね?”

 

 コメントと共に視聴者――リスナーというんだったか――も増え、百数十人になっていた。

 

 ドランが魔力反応に手をやる。

 

 目の前に――落とし穴が広がった。


「は?」

「ユ、ユーリ様、もうギブですぅううおえええぇぇぇッ!!!」


 びちちちちちちちちちちち!

 ゲロの滝が落とし穴に広がった。


“うえええええ”

“どうしたどうしたどうしたwww”

“何??毒?????”


「はあっはあっ……ちょっとスッキリですわ!」


 スッキリですわ。じゃねーよ! 

 サムズアップする前に酸っぱい涎拭けよ汚ねえ!

 リスナードン引きだよもう……。

 

 ドランにカメラを指差す。気まずそうに頭へ手をやり、カメラに弁明する。

 オールバックの髪が一筋、へにゃんと情けなく垂れていた。


「いやあ、お見苦しいところを……。ちょいとばかり二日酔いなもんでして、へへっ」


“まじかよwww”

“心配して損した”

“きちゃない”

“そんなんでダンジョンくんなww”

 

「お騒がせしやした。全部出しやしたから、もう大丈夫です」


“彫りの深いイケメン(よだれダバー)”

“もう大丈夫です(グッ)(キリッ)(ゲロダバー)”

“ダンジョン舐めすぎやばすぎ”


「いやいやいや! このダンジョンの罠はぜーんぶ把握してますんで! 仕事は完璧でさあ」


“トラップとかまだなんも出てきてないだろwww適当なこと言うなwww”

“こんな斥候嫌すぎる……”


「いやだからトラップの類は全部潰してるんですって」

「ドラン、腹が身軽になったならば前へ進め」


 リスナーと言い争いを始めそうなドランをダンジョン攻略に向き直させる。

 このまま攻略すればリスナーにも分かるんだから……リスナーと喧嘩しないで……。




 さっきドランがリスナーと話しているのを見て思い出したが、コメ拾いというものを忘れていた。

 視聴者の同時接続数――同接数が800人くらいまで増えている。なかなか初配信にしては良いんじゃないか?


 ダンジョンの階段を降りながら――降りた先にある魔力反応(ホブゴブリンか?)を空間魔法でシュバッと処理し、魔石とコメントを拾っていく。


“皇帝様、銀髪碧眼すこ”

“地毛? それもロールプレイ?”


「もちろん地毛だ。この瞳も父ベルナールの遺伝だな。これら薄い色素は帝国シルヴァローズの皇族の証であるが、それが我は色濃く出ている」


“フィオナたんかわe”

“↑ロリコン乙”


「フィオナは190歳くらいだぞ。安心しろ、ロリコンではない。まあ貴様が特殊な性癖を持っているのは否めないが……」


“ホッ、ロリコンじゃなくて安心した”

“うんうん特殊性癖なのは変わってないからね”

“190歳が好きな特殊性癖……?”

“意味変わってきて草 てか190歳ってことはエルフとか?”


「いや、ドランはドワーフだが、我とフィオナとアリシアは人間だ。常に魔力を体に巡らせているから不老なのだ。ふっ、アリシアも170歳くらいで我も200歳だ」

「むふ、わたしはアリシアよりお姉さん」

「フィオナさん……」


 よくフィオナのお世話をしているアリシアがなんともいえない顔をする。


“あっ(察し)”

“そういう設定ってワケ”

“エルフが嘘なのか190歳が嘘なのか……さすがに幼女をダンジョンに連れ込まないよね?”

“やりすぎロールプレイはリアリティないぞ”


 あれ、信じてもらえない。……まあそうか、前の世界でも老いを抑えられても不老にまで到達したのは我ら4人だけだった。まあそれくらい良いか。

 

 さっきからのやり取りでアリシアも配信に興味を引かれたのか、辺りを警戒しつつも画面の前に来る。あ、ゴブリンの反応。空間魔法シュバッ。


“スタイルから雰囲気美人って思ってたけど、間近だとガチ美人じゃん”

“お前ら異世界モチーフのアイドル系配信者か? (困惑)”


「ほら、アリシアよ、自己紹介せよ」

「はっ。私は皇帝ユーリ・シルヴァローズの剣であるアリシアだ。りすなー、だったか? 共にユーリ様の行く末を見届けようではないか」


“888888”

“はー、美人の演技は迫力あるなぁ”

“はいは~い見届けま~す(鼻ホジ)”

“アリシアちゃん、もしかして女優と兼業とか?”


「ふむ、何度も見ても不思議なものですね。ユーリ様のおっしゃっていた通り、プロパガンダには良い選択だったのかもしれません」

「そうだな、便利なものだ。アリシアもコメントを拾い、リスナーと仲良くせよ」

「はっ!」


“キャラ森杉”

“二日酔いの斥候、幼女の魔法使い、くっころそうな騎士、皇帝(笑)” 


「くっころそうな騎士、とは私のことか? なんだそれは」

「それはいけないアリシア」


馬鹿! 変なコメントするな!


“やべ”

“wwwww”

不屈の心を宿して(ふ)くっ(のこ)ころ(を宿して)そうな騎士の略称だよアリシアちゃん()”


「ふむ、確かに私はこの身が果てようともユーリ様の剣だと宣言している。その通り、私は不屈だ。くっころそうな騎士――いや、くっころ騎士アリシアだ!」


 あほかあああああ今見ている1200人のリスナーども! アリシアに変なこと教えるなッ!

 くそ、異世界人なのにどうしてくっころを知っているのか聞かれたらまずい。訂正できない。


 それにアリシアはオークを前にくっ、殺せなんて言うようなタマじゃない。

 オークが油断する瞬間の金的を虎視眈々と狙うようなやつだ。


“くっころ騎士アリシアちゃん、爆誕”

“wwwww”

“8888888888”

“草”

“草www”


 あーあ、アリシアの騎士道が歪んじゃった。


「ところでアリシアとはなんだ、気安く呼ぶな、馬鹿者」


 訂正するところ、そこじゃないんだよなぁ。

 

――――――――――


ドランも不老です~。ユーリの4歳年上です。204歳のお兄ちゃん!

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