第17話 準備運動
「初めて他の冒険者に会いましたが、冒険者とはみんなああいった輩が多いのでしょうか?」
「さて、どうであろうな。まあ荒事の中で生きる職業だ。どの世界でもガラが悪いのであろう」
「ああ……そうでしたね。随分と前の話で忘れておりました」
「がはは! 冒険者なんてやってたのは150年も前のことですからな!」
前の世界にも冒険者組合と似たものはあったが、ダンジョンが乱立し始めてからは機能していなかったからな。
まあ全員が悪い、というわけではないだろう。外れくじを引いたと考えよう。
魔力感知を見ていると、僕たち以外にも冒険者が数パーティーいるようだ。
だけどボス部屋に続く道には冒険者はいない。
ボス目当てじゃないのか? と考えたところで、アリシアが知恵袋でしていた質問に、マップを作成するように、と書いていたのを思い出す。
もしかしたら低位の冒険者は魔力感知が使えないのかもしれないな。それか範囲が狭いか。
なんにせよ、ボス部屋まで誰ともすれ違わないのは良いことだ。さっきみたいに変な冒険者に絡まれるのも面倒だし。
ボス部屋に向かって寄り道せずに進んでいく。
途中、道沿いのウルフの群れが魔力感知に引っかかったが、片っ端から手持ち無沙汰なフィオナの餌食になっていた。
「むう。すまほで美味しいものが私を呼んでいる」
「早く攻略して酒と飯にしましょう!」
「そうする。なぜならご飯が私を呼んでいるのだから」
元々フィオナは食い維持を張ってたけど、ここまでじゃなかったはずなんだが……。
地球の料理は怖いなぁ。
「あぁ゛〜俺もはやく
お酒はもっと怖いや。
ちなみに茨木に聞いたところ、ダンジョンを攻略――ボスを倒すと、それ以降魔物が生まれなくなる。
また、外からダンジョンに入れなくなり、中にいる冒険者が全員外に出たら、ダンジョンの入り口である魔力渦が消えて、無くなるらしい。
まあ、それも前の世界のダンジョンと同じだ。
ダンジョンの概念はどこの世界でも共通してるみたいだし、何か時空を超えた作用が働いているのかもしれない。
前の世界からこの地球に、ダンジョン攻略後に飛ばされたように。
「しかし、もう前の世界には戻りたくねえですぜ。こーんな旨い酒があるなんて、長生きするもんです」
「ん、世界は広い」
広いどころか何か時空超えちゃってるけどね。
出てくる魔物はウルフの群れだけで、他の冒険者とも会わず、すんなりとボス部屋に辿り着いた。
「ユーリ様ぁ、フィールド型ダンジョンのときと比べると魔石がしけてますね」
「それは仕方あるまい。まあこれで最低位、低位、中位とクリアしたのだ、次からの上位ダンジョンに潜れば魔石や素材も期待できるだろう」
「まあ、旨い酒を飲むための準備運動だと思うとしましょうか」
ボス部屋に入ると、ウルフが6匹とワーウルフが現れた。
「ん、処理」
ドランがウルフ達の動きを止める間もなく、フィオナが炎塊をぶつける。
ウルフ達は避けようとするが、それに追尾する炎塊から逃れることはできず、ウルフ、ワーウルフ関係なく魔石へと変わった。
「さて、酒が待ってますよーっと」
「はぁ……今日も茨木の講義か……憂鬱だ」
「ユーリ、すまほ、もういい?」
「ダンジョンは帰るまでがダンジョンだ」
ドランが足取り軽く、アリシアとフィオナがしょぼんとして魔石を拾っていく。
そんな3人に向かって、大量の弓矢が降り注いだ。
「ふむ、やっと姿を現したか」
部屋の入り口に向くと、行きに揉めた
大量の弓矢はアリシアが当然のように全て弾いている。
「おいおい! どうやって今のを弾いたんだよ!?」
弓矢を全て弾かれるとは思わなかったのか、喚き出す。
ダンジョンに入ってしばらくしてずっとつけているから、いつ姿を現すかと思っていたが……ボス戦の隙をつこうとしていたのか。
ドタドタとボス部屋に入ってくる。
「すまねえ、ボス戦の手伝いをしようと思ったんだが、お前らに手が滑ったんだって」
「許してくれよ〜、その様子だと俺たちがいることわかってたんだろ?」
「お前ら強いんだな! さっきは突っかかって悪かった!」
へらへらと手を挙げながらそんなことを言ってくる。
……なんだこいつら。
形勢が怪しいと思ったらクルッと手のひら返してきたぞ。
大方、フィオナの魔法を見た上にアリシアに弓矢を弾かれて警戒し始めたってところか。
「ユーリ様、敵対行為です。……この場合は、我慢しなくてもよいのでしょう?」
「当然だ。アリシア、やれ」
まあなんにせよ、遅い。
「あ? なんだ、やるのか? ちっ、お前らこの女を――」
ゴトン、と魔石よりも重い音がする。
リーダー格の首が落ちた。
さっきまで首のあった身体の先から、血が噴き出す。
魔物じゃない人間は魔石には変わらない。
地面にリーダー格の身体が倒れ、ゆっくりと血溜まりができていく。
アリシアを見ると――満面の笑みで笑っていた。
「――!? リーダーッ! おいおいおい、やりすぎだろ!?」
「どこがだ? 一瞬で首を刎ねてやったんだ、楽な死に方じゃないか」
「はあああ!? 殺すのがやりすぎだって言って――」
「囀るな」
また一つ、首が落ちた。
残りの
「だが、やりすぎとは少し気になる言葉だな。……ユーリ様、これはやりすぎなんですか?」
茨木から、ダンジョン内で人間同士の争いになったときのことを聞いたことがある。
基本的に、ダンジョンで争いごとがあった場合、仕掛けた側は何をされても文句は言えないらしい。
武器を持ち、周りが魔物だらけのダンジョンで争いなど言語道断、とのことらしい。
まあ当然だろう。
残った
「ちょ、ユーリとかいうお前! リーダーだろ!? この女を止めてくれ!」
「ふむ……こうか?」
「――ッ!? ああああぁぁぁぁ!?」
アリシアのやり方が気に食わないらしい
「腕がッ! 腕がぁぁぁッ!」
「そんなに嬉しいか? 首を刎ねて死ぬより苦しい死に方が良いとは、変わったやつだ」
「ちがっ! 死にたくな――」
「しかしうるさいな。もう良い、逝け」
ギャンギャンとうるさい口を止める。
「うわああああ!!」
「死にたくねえ! まだ死にたくねえよ!」
その様子を見て、残りの
それをフィオナがウルフと同様に、炎塊をぶつけた。
「――ぁぁぁぁあああああ!!」
叫び声が火だるまの中から聞こえてくる。
「がっはっは! 変わった焚き火の薪ですな!」
「肉の焼ける匂いがする。お腹すいた」
「ええ……」
フィオナのその言葉に慄いている間にも、火だるまは燃え盛り、段々と悲鳴が小さくなっていく。
「もしかして、受肉した魔物もこの世界じゃ美味しく料理できる……?」
ひらめいた! とフィオナが手を叩く。
確かに魔力が通った魔物の肉は前の世界でも美味しかったが……何を見て閃いてるんだ。
しばらくして全てが燃えカスに変わった。
……ふう、ボス部屋での炎魔法は熱がこもって暑いな。
倫理観を前の世界に置いてきたやつもいるし、次から炎魔法はやめておこう。
さて、帰るか。
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