第16話 低位ダンジョン
休み明け、僕たちは低位ダンジョンに来ていた。
以前に最低位ダンジョンを攻略していたため、冒険者ランクがEランクとなっていた。だからEランクから入れるダンジョンに来たというわけだ。
寂れた商店街の路地裏に入る。
少し歩いたところに魔力渦――ダンジョンの入り口が見えた。
その前に他の冒険者パーティー5人がたむろしている。道狭いのに邪魔だなぁ。
「んじゃ、さっさと攻略して冒険者ランクとやらをあげましょうか」
「そうだな。いつまでもユーリ様がEランクと定義されるのも気に食わん」
「……」
身体をほぐしながらそう言うドランの言葉にアリシアが同意する。
そうやってしばらく待っていたが、魔力渦の前の冒険者パーティーが全然中に入らない。てかなんならダンジョンに関係ないことで盛り上がってるし。何しに来てるんだよ。
アリシアがため息をついて一歩踏み出す。
「貴様ら、ダンジョンに入らないのか? さっきから待っているのだが」
「あ? いま探索の打ち合わせしてんだよ。見て分からねえのか?」
「先ほどから聞いていたが、そうは思えんが?」
「てめえ人のパーティーの話盗み聞きしてたってのか? おいおい良くないぜ」
1人の
ガラ悪すぎだろこいつら。話し合いにならなさそうな匂いがプンプンする。下卑た目でアリシアのことを見てるし。
イライラしかけている、アリシアを抑えて僕が前に出る。
「聞きたくなくても聞こえてくるような声量だったが? それより、我らはダンジョン攻略に来たのだ。お前らは違うのか? 退いてくれ」
「おいおい順番抜かす気か? 打ち合わせしてるっつってんだろ」
煽るように笑いながら言ってくる冒険者の1人。それに合わせるようにニチャニチャ笑う
「ふぅ……。ではその打ち合わせとやらはいつ終わる?」
「ん〜……あと2時間だな」
何がおもろいねん。
「ではそこを退け。2時間の打ち合わせなら場所を弁えろ。冒険者組合に報告するぞ」
「なんだ? お前らいい子ぶって組合にチクるってか? ママに全部お願いやってえ〜って泣きつくタイプだろ」
また大爆笑が起きる。
アリシアが剣に手をかけた。フィオナが静かに魔力を集め出す。ドランが防御結界の準備をする。
僕も体内の魔力を循環しかけて、止めた。そういえばここ日本だったわ。面倒だな……。
「はぁ……。では組合に報告するからな」
「は? 何お前。……ちっ、行こうぜ」
組合を盾にする僕に白けた顔をして、ゾロゾロと帰り始める。
流石に組合に報告されるのは嫌だったみたいだ。まあガラ悪かったしな。組合にも目つけられてそうだ。
すれ違い様にドランに肩をぶつけようとして避けられ、ふらついていた。笑える。
あ、睨んでる。
うわ、ツバ吐いた! きったねえ!
「貴様……ッ!」
「アリシア、良い。行くぞ」
「ユーリ様、しかし!」
「行くぞ」
「ッ! ……はい。……ふざけたその面を二度とユーリ様に見せるなよ」
アリシアがものすごい形相で
それでもおどけた顔して煽ってくる
アリシアの腕を掴んでとっととダンジョンの中に入る。時間の無駄無駄。
今回のダンジョンは洞窟型のようだ。ドランが前に出て、その後ろを歩いていく。
「ここはウルフ主体のダンジョンみたいですぜ。トラップは少なめですが、ウルフの連携に注意と。掲示板情報ですから信用しすぎるのも良くないですが……本当なら特に警戒する要素はなさそうだな!」
ドランがスマホを見ながらそう言う。
チラッと覗くと――県、新規ダンジョン情報スレという掲示板を開いていた。
ドワーフだから、やっぱりドランは機械を使いこなすのが早いな。
昨日、二日酔いで昼過ぎに起床し、茨木にスマホやネットの使い方をだらだらと学んだのだった。
それから3人とも暇があればスマホを触っている。
「む? 私が質問したときはボブゴブリンかコボルトの群れと教えてもらったぞ」
「えぇ……ほんとですかい? ちょっと見せてくれよ」
ほら、とアリシアがよこしてくるスマホをドランが受け取る。僕も覗き込むと、
『私は冒険者パーティー、シルヴァローズのアリシアだ。明日の昼過ぎに――市の商店街にできた低位ダンジョンを攻略する。どんなモンスターが出るか、何か気をつけることはあるか?』
『低位ダンジョンはボブゴブリンやコボルトの群れがでることが多いです。魔法を使うゴブリンやコボルトも混ざっていることがあるので、気をつけましょう。あとは低位ダンジョンは最低位より道が複雑なのでマップを作成する習慣をつけましょう』
知恵袋で質問していた。
「いやいやいや! これってこのダンジョンが、じゃなくて低位ダンジョン全体のことじゃないですぜ! アリシアしっかりしてくれよぉ」
ドランが嘆き、僕も頭を抱えた。知恵袋でそんなピンポイントなこと答えられるわけないだろ……。
それよりも! 名前! 何時にどこ行くかとか、そんな個人情報書くな!
昨日のアリシア特別ネットリテラシー講座を1時間してくれた茨木先生が泣いてるよ……。
「アリシアよ、リテラシー講座、補習確定だ」
「ユーリ様!?」
そんなアリシアを放置して魔力感知に引っかかっていた通りに進むと、ウルフが5匹こちらに向かって駆けてきた。
うん、ゴブリンでもコボルトでもない。
「…………犬っころがッ!」
ウルフが魔石5個に変わる。アリシアが魔石を拾う。魔石を僕達に見せながら、
「斬れば全て魔石です」
「……」
真面目な顔を作って頷き、そんなことを宣う。
「アリシアよ、補習だ」
「ユーリ様ぁ!!」
この
そういえば、フィオナが静かだと思ったらずっとスマホを見ている。
「じゅるり。このいんどかれーというの、画面越しからもすぱいすの香りがぷんぷんする」
……インスタのグルメ投稿を見ていた。
「フィオナよ、没収だ」
「ユーリぃ!」
リテラシー云々以前の問題だろ……。
私の
ダンジョンでそんなもん読むな探索しろ。
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