滅んだ世界の最後の皇帝、200年越しに現代へ君臨す〜ダンジョン配信を始めるも仲間が炎上します〜

宵空*

プロローグ

第1話 おぎゃああああ!

 主人公が現代に戻る前の異世界でのお話です。

 それが4話ありますので、さっさと現代のお話を読みたい、という方は5話から読んでください。

――――――――――


【ユーリ・シルヴァローズ 0歳】


 目を開くと豊満な胸に抱かれていた。眩いシャンデリア、それを遮って僕の顔が覗き込まれる。


 知らない、女優顔負けの美人が微笑んできた。横から銀髪のこれまた美丈夫が。状況が全く掴めず、混乱するまま泣き叫ぶ。不安から、おろおろと端正な顔を歪ませた美人の、腰まで垂れ下がった金色の髪を掴んだ。


 メイド服を着た使用人が僕のお尻を水魔法で洗い、オムツを取り替える。乳母と思われる女の人の乳を吸っていると、聞き覚えのない言語で優しく話しかけられる。それを子守唄に僕は眠りに落ちる。


 時折、そんな僕の様子を両親らしき二人が見に来たり。そんな日々を数ヶ月過ごしながら、どうやら僕は異世界に転生したようだと結論づけた。


 それからまた数ヶ月、少しずつ周りの話す言葉を聞き取れるようになると、僕の立場は一国の――帝国シルヴァローズ――の第三皇子だということが分かった。

 不摂生がたたり、四十後半で死んだ僕の次の生が一国の皇子として受け継がれるとは何の因果か。ただ、今世はずいぶんとイージーな人生を送れそうだと、乳を飲んでふにゃふにゃ笑う。

 

「ユーリ様は今日もご機嫌でございますね。本当に手がかからない皇子だこと」


 赤ん坊2回目の僕にかかれば乳母の手を(乳を)煩わせることなんてない。最初は乳を吸うことにも抵抗があったが、もう半年近くも経てばそんなものはない。それに、不潔な四十代の性欲は前世に置いてきた。


「それに、ベルナール皇帝の聡明さを受け継いだ碧い瞳。将来が楽しみですわ」

 

 まあ第三皇子ということは皇帝なんて面倒な立場にはならないだろう。天蓋の降りた広いベッドで寝返りをする。

 はやく魔法とか使ってみたいな〜なんてことを無邪気に考えながら。


【ユーリ・シルヴァローズ 4歳】


 早4才で乳飲み子だったときの僕の呑気さ、愚かしさを噛み締める。ここは魔物蔓延る異世界だったのだ。それに、この帝国シルヴァローズは完全なる実力主義国家。民のため、国のために皇帝が剣を振るのは当たり前。他皇子は言わずともだ。

 4才ながら、早朝から小さな木剣を振り、午後からは皇子としての英才教育受ける日々を過ごしていた。


「シリル皇子はやはり剣の筋が良い。おっと、今怯みましたな!」

「ひぇぇっ!!」

 

 2つ年上の第二皇子、シリルの悲鳴が訓練所に響き渡る。教育担当の近衛騎士団長に剣の腹で殴られ、吹っ飛ばされている。

 それを横目に、怯えながらももう一人の近衛騎士の指導の元、僕は黙々と剣を振り続けた。


【ユーリ・シルヴァローズ 6歳】


 シリル兄さんの地獄のような稽古を見ていたおかげで僕は早々とその対策を身につけていた。魔法を使って全身を強化し、戦う術を身につけていた。


 そのおかげで僕はシリルとは比にならない待遇を受けている。

 そので比にならない処遇を受けている。


 ボコボコである。


「いやはや面白い! その歳で魔力を扱うとは! 何度見ても信じられん! それに剣筋も……ユーリ皇子、私めに任せてくだされ、ベルナール皇子をも超える剣を授けて見せましょう」

「ユーリ皇子、午後からの魔法学のためにも魔力は半分は残しておいてくださいませ」

「とのことです。ユーリ皇子、ここからは魔力に頼らない肉体の稽古ですぞ!」

「ヒィィィィッ!! もう少し、手加減を……!!」


 宮廷魔術師の横やりに言い返す間もなく張り倒され、転げ回り、土と血の味を噛み締めながら、稽古という名の地獄の時間をやり過ごす。

 そして、午後からは休む暇もなく魔法学、帝王学。


「おぎゃああああ!」


 赤ん坊に帰りたい……。

 母とお茶をするのと、婚約者のフェリスと遊ぶのだけが癒しだった。

 

 初めて婚約者がいると聞かされたときは、本当に貴い血筋なんだな〜って他人事のように感じた。でも会ってみるとプラチナブロンドのお人形みたいに綺麗な子で、でも笑うと可愛くて……。皇族って最高だね!

 

 父? 父は騎士団長以上に地獄だった。帝国をその身で体現しているような人だ。歳とか体格差とか何も考えてないよあの人。本気でやらないと殺される。

 父との稽古がある日は父ベルナール皇帝の銀髪が迫ってくる悪夢で飛び起きるくらいだ。まあ稽古が終わったらすんごい優しいんだけど、それがまた怖い。

 

 稽古に戻るが――その横で別の近衛騎士と打ち合うシリル兄さんとは一切目が合わない。中性的な端正な顔を固く引き絞り、己の稽古に集中している。もし騎士団長と目が合えば――よそ見すれば――一時的にでも僕と立場が交代すると分かっているからだ。逆の立場になったシリル兄さんが恨めしい。


 幸い、兄としての矜持が――なんて言ってられないほど気の毒に思われているのか、昼食にステーキ肉を1かけくれるくらいにはシリル兄さんは優しい。


 ちなみに、4つ年上の第一皇子、セフィロス兄さんは午前と午後、実技と座学が僕たちと反対である。

 午後からみっちり近衛騎士団長のシゴキを受けているセフィロス兄さんも、夕食にステーキ肉を2かけくれるくらいには僕に優しい。末っ子効果というより同族意識なのは明らかだけど。

 

 ほんと……もう……魔法なんて早く使えるようになるもんじゃなかった……。


【ユーリ・シルヴァローズ 14歳】


 ゴブリンの村の中に一人単騎突撃していた。


 この世界、いやこの国の教育方針おかしいよ……。魔法を纏えばゴブリンの攻撃なんて効かないと聞かされ、そのすぐ後には森の中に放り込まれていた。

 人生初の戦闘がこれだ。


 目の前にはやはりゴブリンが蔓延っている。なんなら雑に放り投げられたせいで、僕に気づいてもう群がってきている。

 児童虐待どころではない。


 四方から押し寄せるゴブリンの喉を的確に突いてはそれを盾にし、側面のゴブリンの首をはねる。後方の気配を石の礫で殴り倒す。手数が足りない――全方位に風の刃を乱れ撃つ。


 初めての殺生、なんて感慨が浮かぶ間もない。少しでも気を抜けば、死、どころか母から受け継いだ僕の美貌がゴブリンに性的虐待されてしまう。

 尊厳の死だ。


 そんなおぞましい想像を、股間を膨らませたゴブリンごと切り伏せる。


「ああっ! ちくしょう! くそが! 森ごと焼き払いてえっ!!」

「ユーリ皇子! 皇族としての言葉遣いが乱れておりまするぞ!」

「くぅぅっ、我の剣の錆となりたいか! さもしい下等生物め!」

「それもちょっとどうかと……」


 ここで言葉遣いとかあほらし〜〜!

 やけに鋭い剣の投擲にヒヤリとしつつも逸らしたが、それ騎士団長くんだよねぇ!? ちゃんと監視してるんだねぇ! ゴブリンの援護を! しながら!


 なんとかゴブリンの村を壊滅された帰り道、騎士団長から、ゴブリンといえども侮れないからセフィロス兄さんとシリル兄さんには近衛騎士2人がついていたと聞き捨てならないことを言われた。


「まあユーリ皇子ならなんとかなるかと思って放り込みましたが、なんとかなりましたな!」


 あっはっはっと高笑いされたときには殴りかかっていた。

 今日一番の魔力を拳と脚に込めて。


 もちろん当たるはずもなく気がつけば地面を転げ回って、口の中には森と血の味が広がっていた。

 どうしてゴブリンじゃなく騎士団長相手にこうなっているんですかね。ゆとり教育をご存知でない?

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