第12話 どういう立場なのだ?
ガーゴイルとコボルトの魔石をドランとフィオナが拾っていく。
「さっけ、酒!」
「めっし、飯!」
魔石をお酒やご飯に換算しながら。
君たち200年一緒にいるけどそんなに魔石を楽しそうに拾うの見たことないよ。まあ元の世界じゃ金があっても使い道がなかったしなぁ。
2人がアイテムボックスに魔石をしまう。
“え、もしかして収納魔法付き?”
“めちゃくちゃ高いよね? それか異世界から持ってきたとか?”
これはアイテムボックスとは言っても適当な袋に空間魔法を縫い付けただけのものだ。
前の世界にいたときのまま使えていたらこんな魔石なんて集めていないのだが……元の袋はあいにく空間がねじ切れていた。聖剣や魔剣、貴重な魔道具ぜーんぶ時空の狭間だ。くそ。
コメントを読みながら、開けた場所を探して歩を進める。
“ラグくてよく見えなかったけど、さっきはどうやって倒したの?”
“D級のガーゴイルとE級のコボルトでしょ、しかも同時に襲いかかってきたわけだから、冒険者ランクだとC級相当?”
“ほぼ一瞬で倒してたみたいだし、B級の実力くらいありそうだな”
「先ほどの魔物はまず、ドランが張り巡らせていた魔力網で捉え、そこをアリシアが斬ったというわけだ。単純なことだな」
まあ、あれくらいならアリシア1人で倒せるが……視聴者受けを狙って、ドランに動きを止めさせた。
上手くいって良かった。
“そんな風に魔力を使えるなんて聞いたことないぞ”
“精々動きを鈍らせるくらいしか無理なはずじゃ……異世界人特有のユニークスキル……?”
ユニークスキルっていうのはおそらく、先天的に肉体や魔力が特殊性を帯びている者のことだろう。
僕のユニークは銀髪碧眼というシルヴァローズ皇族特有の、色素の薄さを色濃く受けついでいるから、それ由来で肉体へ魔力が極めて馴染みやすいというものだ。
“嘘だろ皇帝(笑)! ロールプレイじゃなかったんですか?”
“アリシアちゃん……いやくっころ騎士ってちゃんと強かったんだ”
「やっと理解したか。ユーリ様の剣を名乗る以上、相応の力は持っている」
ふん、とアリシアが言い捨てる。貴族だと勘違いしてアリシアは何も言っていなかったが、やっぱりわかだまりが残っていたみたいだ。
私は不屈の……
まだ言ってら。
“くっころ! くっころ!”
“くっころの意味を知らないみたいだし、やっぱり異世界人なんだ”
“異世界人の判定基準そこなの草”
“めちゃんこ美人なのにくっころって呼ばれてるの不憫すぎる……いや、美人だからこそか”
“くっころ騎士のことみんな持ち上げてるけど、ラグで見えなかったしまだ本当に強いか分からんくない?”
“ちゃんと倒すところが分かるように見せてくれよ、本当に倒してるならさ。なーんか怪しいんだよなぁ”
アリシアが流れるコメントを見て、首を傾げる。
「昨日、リスナーが貴族ではないと茨木から教えてもらったが……君たちはどういう立場なのだ? 画面の中から姿を見せずに好き勝手言いたい放題言っているように見えるが……まるで政治に踊らされる無知の民のような……」
ばっ!! おいおいおいおい。何言ってんの!?
“え……ごめん”
“何、正論? ……やめろよ痛いだろ”
“なんだ急に偉そうにwww”
“ガチギレ草”
“↑いや別にキレてはないだろ。お前が顔真っ赤じゃん”
“どういう立場ってリスナーですよ。あなた達のダンジョン攻略を見て楽しんでいるんですよ。だからこそ気になることをコメントしたりして一緒に探索しているんです。それを言いたい放題っておかしくないですか? そんな非常識な質問とかないと思いますけど。それか何かやましいことがあって隠したいんですか? それとも勘に触ることありました? (笑)”
“長文乙”
アリシアがリスナー相手に不思議そうにしてるけど、僕はなんでそれを言い放てるのがが不思議なんだけど……。
まーた荒れたじゃん。どうすんだよこれもう。
「私は気になることを聞いただけなんだが……」
言い方なんだよなぁ! 政治に踊らされる無知の民て。
てかまず余計なことを聞くな!
アリシアを睨みつける。あ、こいつ僕に睨まれてやばいって顔して焦り始めた。
「違うぞ、別に私はそれが悪いとは言っていない! いいじゃないか、素晴らしいじゃないか! そうやって気になったことストレートに言えるなんて。いつでも、誰にでも、配信じゃなくても言えるということだろう? なかなかできることじゃない」
違うか? そうだろう? と冷や汗をかきながら、アリシアが満面の笑みでリスナーを肯定し始める。
ばっか!!
そんなこと言ったら更なる燃料投下に――
“このくっころ煽り性能たっかwww”
“は? リスナーのこと馬鹿にしすぎでしょ。行き過ぎたら不愉快だわ”
“アリシアちゃん内心切れてるだろww”
“◯ね◯ね◯ね◯ね!”
“↑お前リアルで不登校だろ”
“本気で言ってるのか……嫌味か……どっちだ……?”
“ここで好き勝手言ってるような卑屈なやつがリアルでも同じこと言えるわけないんだよなぁ”
案の定、というか案の定以上に炎上し始めた。
燃えているものは目につくのか、同接数も伸びて3千人に達していた。嫌な伸び方だ……。
それに人が増えたせいで余計に荒れている気がしなくもない。
はあ、アリシアがまた何か言う前に……空間魔法で見つけたジャイアントスパイダーを近くに転移させる。
「……ッ! ユーリ様、急に魔物が出やがりました。異常事態かもしれません」
「それは大変だ! ユーリ様お下がりください」
ドランすまん。それ僕。
アリシア、きみ魔物見つけてなんかイキイキしてるね?
ドランが瞬時にジャイアントスパイダーの動きを止める。
アリシアがコメントから逃れるように飛びついた。両断して蜘蛛の体液をそこら中に撒き散らせる。
「む。アリシア、きちゃない。」
「おっと、すまない」
アリシアが蜘蛛の体液まみれになっていた。すすすっとフィオナが避ける。
こいつ、リスナーの面倒な相手から逃れる手段ができたからって飛びつきすぎだろ。
“えっ急にグロ映像”
“ダンジョン探索あるあるだけど、この瞬間は肝冷える”
“コメントに集中してたけど大丈夫そ? アリシアちゃん?”
“おっ良かったじゃんお前らお望みの“ちゃんとした”戦闘シーンだよ”
“エッッッではないな……くさそう”
しばらくしてジャイアントスパイダーの体液やらが消えて魔石だけ残る。
受肉して倒しても体が残る外と違って、ダンジョンは魔石だけになるのが楽だ。
だから体液を気にせずに飛びついたのだろう、流石に。……だよね?
コメントがジャイアントスパイダーに気を取られて、さっきの炎上が下火になっている。
怪我の功名……蜘蛛の体液様々だな。
ほんとアリシアは……。視聴者は同じ人間って思ったらいけないんだって――おっと危ない、こんなこと言ったらまた荒れる。
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