第12話 幕間 残った人達の活躍
幽霊船の調査討伐隊が本格的に幽霊船へと踏み込み調査を始めた頃、残りの五隻もまた別のトラブルが起きていた。
召喚獣を扱う魔術士の召喚獣が霧を嫌がるだけでなく、何故か敵意を全開にして五隻の中心にある護衛艦に突撃しようとしたのであった。
召喚者である魔術士が即座に強制帰還させたので、冒険者仲間以外にその事実を知られなかったのは幸いだったが、やはり召喚獣の状態は異常だった。
そこで別の召喚を扱う魔術士が自分の召喚獣を召喚したところ、やはり何かを嫌がるような素振りの後、憎々しげに中央の護衛艦に攻撃を試みたので強制帰還した。
これにより、中央の護衛艦に何かある事は冒険者たちの中では確定となり、召喚を扱う者にとっては召喚獣が制御不能になる事態は戦力半減どころではない緊急事態であると残留メンバーの各船のリーダーが判断した。
とは言え相手は他国の貴族なので、対処について許可を取るため本国との連絡役として冒険者兼ギルド職員として参加していたメンバーは海都の本部へと連絡した。
その間に、護衛艦に乗る令嬢から派遣された監視役たちは拘束または魔法や薬で眠らされたり等で連携出来ないようにした。
今回参加している冒険者たちは、元より冒険者を下僕のように扱う発言をした令嬢の言動は知っていたのもあり、みんなが忌々しく思っていたのが顕著となる、無言での連携だった。
冒険者はあくまでもモンスターやダンジョン等への対処のプロであって、兵士では無い。ましてや貴族に仕える者でもない。
彼等は彼等の誇りと矜恃を持って、自ら危険に対峙している。別に貴族に養われている訳でも無いのに、他国の世間も知らない小娘に好きにされる謂れは微塵もない。
しかもラルクとアリスはSランク、彼等の中でもトップレベルのベテランで実績も人格もある尊敬すべき存在をぞんざいに扱ったのだ。反発を感じない筈が無かった。
そして、ラルクとアリスは知らない事だが、冒険者たちは2人が自分たちとは違う存在なのを知っていた。
そう、プレイヤーがいる事をこの世界に生きる人たちは知っているのだ。そして、彼等と関わった事のある人物は、ゲーム内で関わったプレイヤーの言動を覚えている。
何故かは彼等も知らない。でも、彼等は知っている。
アリスもラルクも英雄と呼ばれるに相応しい働きをしてきた事を。同時にどこまでも人間らしく、そしてこの世界を大切に思っていてくれる事も。
アリスがたまにフラっとお気に入りのカフェで長時間海を眺めながら写真を撮りながら、「今日もきれいだな」と嬉しそうに呟くことを。
ラルクがそんなアリスを暫く見てから、決心して声をかける様子を。
だから、2人が結婚した事は自分の事のように嬉しかったし、微笑ましかった。それだけに、彼等を引き離そうとした、その一点でも許し難いのに、更には自分たちはおろか英雄にも等しい彼等を下僕のような扱いをした。令嬢は海都に住む大半の人間を敵に回していたのだった。
今回集まった冒険者は実を言えばラルクとアリスを慕うものばかりで構成されている。言うなれば、2人の過激派だ。
閑話休題
本国と連絡の取れた冒険者曰く、何らかの呪術めいたものの可能性が高いと判断がされたと共有した。
直ぐにでも護衛艦に乗り込みたいが、相手は貴族だ。海都の領主に突撃の許可を取りに行ってるので暫し待てと言われ、冒険者たちは強襲の準備を進める。
護衛艦にいる仲間にも敢えてコールで無反応で居るように先に伝えた上で詳細を共有。その仲間はそれとなく護衛艦内を調査、令嬢の部屋以外は問題ない旨を令嬢の護衛に着いている女性冒険者に連絡をする。
女性冒険者はあまり動くことを許されていないが、この部屋の唯一の窓に目を付けた。
霧の状況を見たいと言い、窓に寄り小さく傷をつけつつ、霧が少し晴れてきていると関係の無い報告をする。
その一環で仲間が衝突した幽霊船調査に向かったと言うと、令嬢は薄く笑った。いや、厭らしく嗤った。
一瞬の事だけど、決して見間違いでは無い。
冒険者は何も気付いてない振りをしながら、「彼等は優秀なのですぐ解決できますよ」と言うと「そうだと良いわね」と馬鹿にするように答えると令嬢は本を読み始めた。
その間、令嬢はずっと右手にはめた指輪を触っていてた。何かを確認するように。
護衛艦の周りの4隻は気付かれぬよう徐々に距離を詰めていた。これは各船の船員、船長もこちらの人間だから出来た事だ、領主閣下の差配に感謝しつつ、決行の時間が迫る。
コン、ココン。小さなノックは合図。
令嬢の部屋の隅で護衛をさせられている女性冒険者は即座に動き、わざと誰何する。
令嬢の窓の点検と護衛交代をと伝え、外の霧が異常が確認されたことと、外から令嬢の部屋の窓に傷があるのが確認できたので応急処置に来たと言うと渋々といった間があってから許可を得てドアを開いた。
冒険者同士は目配せしあい、女性冒険者がやって来た仲間に窓を指差し「窓はあの一つだけだ」と伝えた瞬間、その窓は割れ、甘ったるいガスで部屋は満たされた。
令嬢の侍女や侍従は令嬢を守りに走ろうとするが、途中で崩れ落ちて行く。もちろん令嬢は侍従たちより前に椅子の上で倒れている。
護衛の騎士は既に仲間の冒険者に拘束され、ガスを吸って崩れ落ちていた。全てを無力化した上で、魔術士が召喚獣を召喚した。
中位の精霊で、多少の呪いであれば効かない精霊なのだが、召喚されるなり苦しそうにしている。
召喚者が精霊を苦しめるものはどこだと問うと、令嬢へと一直線に飛んで行き、指輪を指した。召喚者は精霊に感謝すると、急いで帰還させ、厚手の手袋をつけて令嬢の指から指輪を抜いて水晶のようにも金属のようにも見える小さい箱に指輪を入れた。
指輪が箱に封印されのを確認して、周りの船へと合図を上げる。
これで一旦は事態は落ち着いたが、令嬢の待遇や彼女の手の者の扱い等頭の痛いものは残るが、これ以上のトラブルは避けられるだろう。後は幽霊船の調査に向かった仲間たちの報告を待つしかない。
こうしてラルクとアリスの知らない事件はひっそりと始まり、終息していた。
アレーミを愛したプレイヤーたちは皆、アレーミにもまた愛されていたのだ。
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