第18話 ファンロン皇国
ファンロン皇国の港は待ちに待った大陸からの船団に興奮していた。
船団の先頭の船の船先には皇国の令嬢が艶やかな姿で手を振っていて、その周りには歴戦の冒険者たちが固めていて頼もしそうだ。
ファンロンの民たちには、その令嬢はとても眩しく映っていた。
だが、実際には声を出せないように魔道具をつけられており、逃げられないように冒険者たちに囲まれていたのである。
皇国の王宮には既に令嬢の起こした事件とセイレーンの女王からの伝言がある事、こちらは問題を大きくしたくはない事などを伝えてあった。
港に着くなり、ラルクと共に王宮からの使者にセイレーンの首飾りを見せると顔を青くしながらもきちんと対応してくれた。
令嬢はそれと分からないように拘束したまま馬車に乗せ、後続の馬車に私とラルクも乗る。
「ふう、良かった、思いの外あの令嬢も大人しくしててくれたね」
「この首飾りのおかげだろうね」
「そうね。それにしてもラルクの正装久々に見たー!」
「確かに久々に引っ張り出したね〜」
「ハーフリングの時はめちゃ可愛かったけど・・・」
「うん」
「今はカッコ可愛いね!」
「ええーっ?!結局可愛いの?」
くすくす笑いつつ、ガックリするラルクの頭を撫でる。
治癒士であるラルクの正装は基本百合をイメージしたデザインだから何処か女性的なローブなのだ。
それに対して戦術士である私の正装は名称通り軍服をイメージしている為、控えめに言ってカッコイイ。黒や赤のデザインにしている人もいるが、私は白なので海軍のようなイメージになっている。
言うなればベル〇らのオ〇カルが着てそうなアレをイメージして欲しい。
「ラルク?元気だして?」
「オレ、メインジョブ変えようかな・・・」
「ええ?!正装のために??」
「聖騎士とかならお洒落な鎧だし、魔法騎士でもいいし」
あ、完全に不貞腐れてるわ、これ。
「ラルクー?私、ラルクの治癒士の正装好きだよ?
男性は嫌がるけど、私にとって可愛いのは魅力なんだけどなぁ・・・」
「でも男性らしくないじゃん」
「うーん、それだと私の戦術士の正装は女性らしくないよ?」
「あっ、そう意味じゃないよ!アリスの軍服は似合ってるしお洒落だよ!!」
「ありがとう、私もラルクの正装、好きだよ。治癒士をやっているラルクはカッコイイよ?」
「・・・・・・もう、オレ、かっこわる」
「えええ?!」
待って、おかしいな??ラルクカッコイイ話してたよね??
混乱していると、ラルクに抱きしめられて、そのまま抱きかかえられた。
「ら、らるく?」
「うん、このままで」
「うん・・・」
結局私が解放されたのは王宮に着く直前だった。改めて馬車の中では2人で居られて本当に良かった、恥ずか死ぬところだった・・・。
着いたのは中華風の王宮で、西洋の白いイメージのあるお城ではなく赤を基調とした荘厳な場所だった。
着くなりそのまま通された謁見の広間には、正に皇帝の威厳のある初老の男性が玉座に座って、その隣に王妃と思われる美しい同じく初老の女性。そして左右に広がる臣下の方々だろう。
謁見の間に入る前に注意されたように案内の人より2歩ほど下がってついて行き、案内の人に合わせて止まり、膝をつき頭を下げる。
『東国の太陽、ファンロン皇国の皇帝陛下に拝謁を賜りまして恐悦至極に存じます。
これなる者たちは、過日特使が伴ったものであり、我等が神より伝言をもたらせし使者でございます』
不思議と、知らない言葉なのに理解できる。
これもきっと転生特典なんだろうけど、非常に助かる・・・。今まで気付かなかったのはどうやら、最初にいた国は母国として母国語で理解していたようだとここに来て分かった。ファンロン皇国の言葉は音だけを追うと歌うような感じだけど通訳スキルが無かったら正直なにがなんだかサッパリ分からない所だった。
「直答を許す。
非常に通る皇帝陛下のお声は流石の威厳があった。そして流石皇族、他国語を当たり前のように使っていらっしゃる!!
顔を上げ、改めて周りをそっと確認する。やっぱり、警備ではあるだろうけど兵士が多い。逃げるのは骨を折りそうだけど、強い人はあまり居なそうだったのにホッとした。
「ファンロンの皇帝陛下に拝謁を賜りまして恐縮です。
私どもは平民であり、ファンロン皇国のマナーに疎いため失礼がございましたらご容赦いただけますと幸いです」
「良い、許す。そなたたちが我等が神より預かった首飾りは確認した。
礼を尽くすべきはこちらであろう」
「寛大なお言葉ありがとうございます。
それでは早速私どもがこの首飾りを授かった経緯から簡単にお話しさせていただきたいと思いますが・・・、貴国の貴族令嬢も関係するため冷静に聞いていただけますようお願いいたします。
必要がありましたら、一切の嘘はつけないような魔術契約をさせていただいても構いません」
「そのようなもの、不要だ。皆、まずは使者殿の話を最後まで聞こう」
「ありがとうございます」
ラルクは簡潔に途中まで平穏だった航路、そして突然の霧と幽霊船との衝突、セイレーンや海月との戦闘について完結に説明。
合わせて仲間の冒険者たちが令嬢の指輪を確保した経緯を伝えると、やはり怒りを顕わにする人が一定数いた。
「私からの報告は以上になります」
「よくも・・・、よくもそんな、嘘ばかり!!」
「インシャ大臣、控えられよ!」
「いいえ!宰相閣下!我が姪が貶められたのです!」
「控えよと申している!
そなたの姪は既に自分のしたことを全て自白しておる!」
「まっ、まさか!そんな・・・・・・」
「分かったなら控えよ!」
どうやらあの令嬢の叔父は大臣だったようで、宰相とよばれた細身の男性はこちらを鋭い目で見る。
まあ、自国の貴族令嬢がやらかした話しなのだから、誰しもいい気分ではないだろう。
「使者殿、申し訳ない。次は我等が神より預かった伝言をお願いできるだろうか」
「承知しました」
そう言うと、ラルクはインベントリより魔道具の玉を取り出して、魔力を注ぐ。
すると、半透明なセイレーンの女王の姿が浮かび上がった。
『待チカネタゾ。我ガ依頼ノ達成、大儀デアッタ。
・・・ソシテ、久シイノウ。ロン坊ヤ』
「ご無沙汰しております。サムラーヴァ様」
美しくも激しい、一柱の神でセイレーンの女王の鋭い眼差しと共に圧倒的な存在感がプレッシャーとしてかかり多くの人は倒れたり、膝をついている中、あまりにフランクな雰囲気で神と皇帝との会談は始まった。
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