第3話 プレイヤーは私たちだけ?
ラルクと共に向かったのは森の中にある、エルフたちの都市だった。
木工製品や革製品が主流で派手さはないけど、上品で繊細なものが多い。もちろん住人は9割がエルフで他の種族も居なくはないけれど、エルフは仲間意識が強いせいか他種族は余り居着かないらしい。
街中はいつも通り賑やかで、いつも見かける住人達はいるが、自分たちと同じようなプレイヤーは見当たらない。
そう言えば当たり前かもだけど、ゲーム内では見えていた名前がいつの間にか見えなくなっていた。ラルクも私も頭の上に名前が出ていたはずだし、NPCもみんな出ていたのが綺麗に無くなっている。
当たり前なんだけれども、分かってはいたんだけど・・・。
改めて、ここは現実なのだと、認めるしかないのかも・・・と不安になって、視線が下に行ってしまうが、手をぎゅっと握られてハッと顔を上げるとラルクが優しい表情で見ていた。
「大丈夫」
「なにが」とか「どうして」とか何もなかったけど、不思議とその一言で持ち直せた。
慣れ親しんだはずの街を、改めてラルクと歩くのは新鮮だった。私たちの好きなあのゲームの世界がそのままリアルになるとこうなるんだなって妙な感慨深さもあった。
まずは連合国家の主要3国である森の中の都市、山を切り開いて作られた都市、海辺の荒々しさと豪快さのある都市を周った。
どの街も人で溢れ、賑やかだった。知った顔と知らない顔がいるけれど、やはりプレイヤーっぽい人は見当たらなかった。
そして、私たちの事を知っていてもおかしくないメインストーリーやクエストで絡んだNPCたちは私たちを知らなそうだった。私たちはただの冒険者という扱いのようで、ある意味ホッとする。
MMOとは言え、RPGの
私たちは高難易度コンテンツも一緒にプレイしてきているけど、流石に2人だけでは無理もあるし、他に一緒に組める人がいるとも限らないのでリスクは避けたい。
結局プレイヤーらしき人物は見当たらなかったので、使用人のみんなにお土産を買いつつ翌日はプレイヤーに人気のあった別の場所に向かうことにした。
お夕飯が終わりみんな解散して、私はラルクと2階のリビングでまったりしていた。
フレンドリストはまだ見れるけれど、やはりオンラインは私とラルクだけだった。固定メンバーもいない。
「あっという間に、あれから2日も過ぎちゃったね」
「うん」
「ラルクは寂しくない?大丈夫?」
「不安はあるけど、1人じゃないからね」
「そっか」
「うん。アリスを1人にはしないよ」
「うん、私もラルクを1人にはしないよ」
きっと、お互いに不安で依存しているのはあると思う。こんなに慣れ親しんだ世界で、全く知らない状況で、何も分からないのは足元が崩れそうな感じがする。
こんな風に、ラルクが私に好意を全面で向けてくるのは吊り橋効果のせいだって分かっている。
「違うよ?」
「へっ??」
ラルク、もしやテレパス?!って、んな訳ないか・・・。
「アリスが百面相するから、ね。
あのね、いくら付き合い長くても元々好意が無ければ一緒にいないよ?」
「え、だって・・・ 今までそんなそぶり」
「そりゃそうだよ。基本固定にカップルはタブーだし、アリスは彼氏いたでしょ?
いつ別れてもおかしくなさそうだったけど、いつも我慢してたのオレは見ていたからね。ずっと思っていたよ、オレならそんな悲しそうな顔も寂しそうな顔もさせないのに、って。
こんなタイミングで言うオレに幻滅する?」
「ううん・・・。幻滅なんてしないよ、ラルクはいつも私の愚痴聞いてくれたし、色んな遊びに付き合ってくれたし。
でも、私は自分に自信がないよ・・・ ドジだし、変なミスするし、涙腺弱いし・・・」
「アリスは一生懸命で可愛いよ。うちのパーティーのムードメーカーは底抜けに明るいアヤけど、パーティーをそっと支えてたのはアリスだってリーダーと話してたんだよ」
「もう、2人とも私に甘いから」
いつも姉御肌で、気配りさんな固定リーダーがなんとも懐かしい。もう少しで大型アップデートだったのになぁ・・・。
思い出しちゃうと、寂しさが込みあげてくる。
そんな私を当たり前のようにラルクが抱きしめてくれて、ラルクの優しさと温かさに私は益々甘えてしまう。
「甘えていいよ。もっとオレを頼って、オレはちゃんと支えるから」
「もう、ずっと・・・甘えてるよ・・・ っ、ら、るく・・・ありがとう」
「うん」
「わ、たし・・・ずるいこと、してる。でも、嫌わないで、お願い一緒に居て・・・」
「何度でも約束する。ずっと一緒にいる。
アリスがオレをいらないって言うまで、ずっと。オレを好きになってなんて言わないけど、オレはずっとアリスが好きだから。
アリスを守るのはオレだから」
「うん、ありがとう。私も、ラルクの背中を守らせてね・・・」
「うん、そういう勇ましい所もアリスらしいよね。心強いよ」
ラルクに抱きしめられたまま、またしても私は眠ってしまった。
私を寝室にそのまま運んでくれたようで、その日夢か現か曖昧だけど、おでこにキスしてくれた気が・・・する。
ラルクの温かさと、キスの感触を思い出して起きてからしばらく身もだえて動けなくなるまでがお約束だった。優しい顔して怖い子ですよ、ラルク・・・。
◽︎◾︎◽︎
ここ数日でできた約束の1つで、朝食は全員で集まって食べる事にした。
朝食の時間に使用人たちも様々な場所にお買い物や情報収集かねて出かけては共有をしている。
いくつか今までに分かったことがある。
1、貨幣は変わっていない。少なくとも昨日回った3国は共通の貨幣だった。
2、物価の変動も各都市の主要人物も変わっていない
3、私とラルクの所属する
つまり現状分かる限りでは、ゲームの世界がそのまま現実になっていて、私たちは冒険者のまま。メインシナリオ絡みの関係はなくなっているようだけれど、気になるのはシナリオ進行。
それもあって、どこまで移動できるかも検証していた。スタートから解放されるエリアは全て行けたので、今日はダンジョンとアップデートで追加されて行ったエリアを順番に確認するつもりだ。
「と言うことで、今日は北の雪国とその周辺に行ってくるね。余裕があれば山岳地帯の方へも足を延ばしてみるよ」
「承知しました。アリス様、ラルク様、お二人とも防寒はしっかりお願いしますね」
「そうだね、アリスはすぐコートとか出る?」
「あ、うん、チェストに入ってるよ。そか、寒いんだよねぇ・・・ じゃあ出かける前に荷物少し整理するね」
インベントリはインベントリのままなので、装備やアイテムの出し入れは便利のままなので助かる。
普段の装備に防寒用のコートや手袋を用意してラルクの元へ向かう。
「おまたせ」
「うん、じゃあ早速だけど行こうか」
「お二人ともお気をつけて。私ども一同無事のお戻りをお待ちしています」
「うん、お土産買ってくるねー!」
転移のスクロールで雪に閉ざされた国の首都を指定、いつも通り移動できそうだ。
目の前にはいつもの雪のちらつく剛健そうな石造りの街並み。
「さっむ!コート着なきゃ!」
「寒いね~ そっか、こんな寒いんだね。
当たり前だけど、オレたちは景色としてしか理解してなかったけど、こんな寒いんじゃ気力も失われるよね」
「うん、私たちみたいに装備も潤沢じゃないんだもんね」
「とりあえず、見て回ろう?マーケットやギルド、あの家とかも見てみよう」
「うん!」
景色や町並みはゲームで見ていた通り、それ以上に美しい街だ。教会は荘厳で、学園は学生たちで賑やかで、でも想像以上に冷えがきつい。住んでいる人たちはみんな平気な顔をしているけど、正直カイロが欲しい。
私がギブする前にいつもそっと、街中にある休憩所になっている暖炉のあるガゼボに連れて行ってくれる。
「うう~~私、自分がこんなに寒さに弱いとは思わなかった」
「いや、普通に寒いよ。オレもきつい・・・ あと1ヶ所見たら転移しよ」
「うん!最後に行くつもりなのってあの酒場?」
「うん、あそこのマスターは情報通だしね」
「ちょっと楽しみ!」
「そうだね、でも入ったらオレから離れたらダメだからね」
「はーい!ラルクは心配症だなぁ」
ええ、フラグでした。まさか、見事に酔っ払いに絡まれるとは思わなかったよね。
というか、この展開べったべたなんだけどーーー このアホモブ!!って叫びたい。
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