第2話 何はともあれ、生き延びる

 おはようございます。

 いやあ、良く寝た。うん、寝るのって大事よね。


 装備セットでサクッと服を着替えて部屋から出ると1階から話し声が聞こえる。

 ラルクと執事のセバスが話してるみたいなので、向かうとセバスが気付く。


「ご主人様、おはようございます。

 朝食はいかがされますか?」

「フルーツとかある?あればそれと紅茶がいいなぁ」

「承知しました。すぐご用意出来ますのでお席にどうぞ」


 ラルクの隣に当たり前に座ると、ラルクは少し疲れてそうだった。

「おはよ、あんまり寝れなかった?」

「うん、色々考えちゃってね」

「だよねぇ・・・。私、寝る時はガチで即寝なんよ・・・ なんか、ごめん」

「あはは、アリスらしいね。極睡魔だもんね」

「そそ、睡魔には勝てない!」


 くだらない事をだべりながらご飯を食べて、少し周りを見てくると行って2人で散歩に出た。


「ね、とりあえず今何が出来て、何が出来ないか確認しない?

 とりあえず食べて寝る場所はあるけど、今の私たちが戦闘出来るか分からないから」

「そうだね、外に出てみようか」


 そして、私たちは戦闘装備に変えてすぐ外に出て戦闘してみる。

 正直この辺のモンスターは雑魚だけど、倒せるのか、メンタル的にも見る必要があった。


 結論から言うと、私もラルクも敵を倒すことに忌避感も感じなかったし、余裕で倒せた。

 とりあえず、私たちは職にあぶれる事は無さそうでホッとする。ただ難点が一つだけあった。


 私たちは2人とも背の低いハーフリングなのだ。

 私は普段獣人のミスティなんだけど、課金アイテムで種族をちょいちょい変えていてちょうどハーフリングだった。

 そして、ハーフリングの何が悪いかと言うと単純に視界が悪い。


 お互い普段は遠隔攻撃メインだったので気にして無かったんだけど、前衛もやらないと不味い今だと少し不利だ。


「ラルク、私ミスティに戻れないか試してみようと思うの」

「え、【変換薬】は?」

「知ってるでしょ、いつも使ってあるよ。鞄にまだ3つある」

「そっか、そうだったね」

「うん。だから私の家かラルクの家で試させて、何か起きてもラルクなら蘇生も出来るし」

「うん、じゃあここならオレの家の方が近いから招待するよ」

「ラルクんち!!初めてかも!!」

「何もないよ?アリスと違ってハウジングはそこまで興味無かったから」


 そう言って招かれたラルクの家は本当にスッキリしていた!いやいや、広いのも大事だからね(滝汗。

 流石にどうかと思ったのか、NPCに家具とか好きにレイアウトを頼んでいるらしい。


「じゃあ、試してみるね」


 緊張して見守るラルクの前で自分のステータスをタップするイメージでミスティに、いつもの自分に変化する事を祈った。

 そして、意識を手放した。


「アリ・・・!アリス!!」

「ん・・・  ラルク?」

「良かった・・・!心配したよ・・・」

「あふ・・・。ごめんね。ん?成功したのかな?」


 苦笑しながら、いつものミスティになっているとラルクが教えてくれた。

 あの後、私が倒れると共に存在がボヤけて僅かに発光しながら体型が変わっていったらしい。

 いやぁ、流石ゲーム、流石ファンタジー!


「心配かけちゃったけど、でも無事種族変えられたしこれで戦闘も安心だね」

「あ、それだけど、オレも飲むから」

「へっ?!」


 言いながら既に手に持っていた【変換薬】をごくごく飲むラルクに唖然とする。


「へー 意外と美味しいね」

「そうそう、葡萄味で・・・ってラルク?!

 あなたはハーフリング大好き派でしょ?!」

「そうだけど、ミスティのアリスと居るなら背は高い方が良いでしょ?

 オレ、アリスに抱っこされて運ばれるとかやだし」

「いやいやいや」

「楽だからとかでするでしょ・・・」

「うっ・・・」


 否定できない。

 自分の雑な性格は誰よりも分かってます。はい。


「それにアリスはジョブ一通り出来るけど、タンクは苦手でしょ?」

「そこまででも・・・」

「迷子常習犯」

「うううぅ」

「大抵なんでも器用にこなすのに、迷子だけは直らないもんね。

 だから、タンクが必要な時はオレがタンクだよ」

「でも・・・」

「他に信頼出来るタンクが居れば任せるけど、ヒールならはアリスが居るしね。

 固定メンバーが居てくれたら良かったんだけど」

「そうだねぇ・・・」


 私たちは固定でいるもタッグを組んでいた。

 私がバリアやバフ、ヒール補助をしつつ、純粋な回復はラルクがやる。

 お互い支え合う関係で、長年組んでいるので信頼は厚い。というか、ラルクがめっちゃ上手いので私は甘やかされてるとも言えるかも。


「じゃあ、今度は見守りよろしく」


 言うなり、ラルクの身体から力が抜け、倒れる。

 慌てて支え、横にならせると暫くしてラルクの姿が二重三重に見え、僅かに光っている。


 そこから、暫く動きがなく、私はラルクが大丈夫なのか不安で仕方なくなり、泣きそうになっていた。

 ラルクがいなくなる可能性が恐ろしかった。


 そして、ようやくラルクの姿に変化が始まった。

 徐々に身長が伸び、手足も長くなり、耳が・・・。なんと、ラルクは私と同じミスティにしたようだった。

 ハーフリングのラルクをそのまま大きくしたような、一目でラルクだと分かる。


 変化が終わってもラルクは中々目覚めなかった。

 早く起きないかな、とほっぺをつついたりして遊びつつ、見守っている内に私はいつの間にか眠っていたようだ。


「アリス、起きて。アリス?

 この寝ぼすけ、起きてって!」


 聞き覚えがあるような、ないような低めの男性の声が聞こえる。


「んーーもうちょい・・・」

「仕方ないなぁ」


 次の瞬間おでこに衝撃が来た。


「いった〜・・・ ラルク酷い。って、ちっか!!」

「あのねぇ、起きて最初の言葉がそれ?!

 オレに抱きついて放さなかったのはアリスなんだけど?」

「ひゃあ、ごめん!!!」

「いいよ、アリスが警戒心ないのは知ってたし。

 でも、状況が違うからオレ以外にしないようにね?と言うか、単独行動禁止だからね」

「ええーっ?!ラルクが過保護」


 むーっと不満を表すと、ラルクがやけに威圧のある笑顔になる。


「フラフラ知らないコンテンツ行って、死んで、ヘルプのコールして来たのは?

 寂しくなるとすぐ遊ぼーって来るのは?

 PvPに負けて悔し泣きしてたのは?」

「はい、私です」

「オレにとっても、今信頼できるのはアリスだけたから。

 状況が把握出来るまでは用心深く行こう?だから、暫くは一緒に行動するよ。

 その為にも同じ種族なのは都合がいいから」

「うん、いつものラルクが大きくなった感じで安心する。

 カッコイイね!」


 私の一言に真っ赤になったラルクは、そういうとこだよ、と言いつつサッと立ち上がって装備変更をする。

 ミスティになったラルクは、ハーフリングの時と同じように私より頭一つ分くらい大きい。

 ミスティとしては身長高くはないけど、2人で並ぶと違和感なく落ち着くなぁ、と思ったら抱きついていた。


「ラルク、消えないでね。1人は怖いよ」

「うん、一緒にいるよ。オレたちはずっと相方だったでしょ?これからも相方だよ」

「うん!ラルクが居てくれて、良かった」

「うん。オレたち2人なら、何とかなるよ」

「うん」


 ポロポロと泣いてしまった私を慰めてくれるラルクの存在が本当に有難かった。

 ひとしきり泣いて落ち着いてから、既に日付は変わっていたのでラルクと一緒に食事をとっていると、セバスから連絡が来た。

 まさかギルド通信と同じ感じでセバスから通話が来るとは想像したこともなかったけど、これはイイ!


《ご主人様、ご無事なようで何よりです。ラルク様とこの後戻られますか?》

《え、私が何処にいるか分かるの?》

《勿論でございます。我々使用人は主人のバイタルから所在地までは分かるようになっております》

《へー!便利なのね、ちょっとラルクと相談してから折り返すね》

《承知しました。お待ちしております》


 ラルクに早速セバスからの連絡の内容を話し、ラルクも使用人たちと話してラルクの自宅は封鎖する事になった。

 私の自宅の方が広いので、私の家または私のギルドハウスが最大の広さなのでどちらかにまとまろうと使用人たちも含めて合意した。


 一旦は広すぎると防衛も大変だとなり、ギルドハウスも封鎖。

 ギルドメンバーは自由に出入り出来るから問題ないし、ギルドハウスの使用人たちにもその旨を共有。

 彼等は自由に出入り出来るようなので心配もない。


 私は自宅のゲストルームをラルク専用に変え、増えた使用人達の為に地下の温室は片して彼等、彼女等が住める場所に変更。

 お茶はお庭があるからそっちで十分だとなった。

 ギルドは作れないけど、ゲームでは無くなったせいか倉庫などは家に紐づくようでラルクと共有出来るようになったのは良かった。


 ◽︎◾︎◽︎


 何だかんだ引越しと片付けとやっていたら、あっという間に暗くなっていた。

 我が家の使用人たちがお夕飯を用意しててくれて、私の希望で使用人も含めて初めての食事にした。


「みんなお疲れ様〜。色々無理を言ってごめんね。

 みんなとこうして話せるのは嬉しいんだけど、正直何が起きてるのか分からなくて、今は信頼できる人だけで固まりたいから

 色々不便かけると思うけどよろしくお願いします。

 とりあえずこの家も効率的に使えるようにレイアウト変えたけど、必要なら全員でうちのギルドハウスに引っ越すから狭すぎるとなったら教えてね」

「アリスの家だけど、自分たちの家だと思っていいと言ってくれているから、変な遠慮はしないで。

 遠慮からストレスが溜まるのが今のオレたちには一番のデメリットだから。

 あと、家が落ち着いたらオレとアリスは調査に留守にする事が増えるから、尚更みんなが過ごしやすいのが重要だよ」

「アリス様、ラルク様のご指示全て承知しました。

 しかしながら、我等使用人には気遣い不要でございますので、捨ておいていただいても構いません」


 当たり前の事として使用人代表として言うセバスの発言に固まってしまうと、苦笑したラルクが応えてくれる。


「気持ちは有難いけど、無理かな?

 今の君たちは自分たちで考えて話して、行動できる。そんな君たちをオレたちはモノのようには扱えないよ。

 だから、ちゃんと人として生活をして欲しい。オレたちの貯金額とかは知ってるでしょ?一生働かなくても余裕で生きていける位にはあるから必要なものはちゃんと買って欲しいし、オレたちに言ってくれてもいい。

 それでいいよね?」


 ラルクの言葉に全力で頷いていると、使用人たち全員が目を潤ませて頭を下げていた。


 益々まとまった使用人たちは楽しそうに自分たちの部屋を整えていた。

 地下は明かりを取り入れて温室にしていたので、一部を使用人たちのコミュニケーション用に残して、残りは男女で分けた大部屋にしていた。

 1階はあまり広くないのでリビングはなくして全員で集まれる大きいダイニングテーブルをいれた。セバスが残念がったけど、私とラルクのくつろぐ場所は2階のリビングで十分だもの。


 大体の片付けは終わったので、明日は状況確認と探索に向かう事にした。

 私たちはソロでもそこそこ強いし、最悪家に転移すれば良いので問題ない。

 この住居エリアは元々結界とかで守られているし、所有者と認証した関係者以外の入室を制限できるので、使用人あちを残しても安心だ。


 私とラルクは私の自宅から一番近い都市に向かう事にした。その後、主要な国の都市を巡るつもりだ。

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