第13話 幽霊船での攻防

 ラルクは残っている今回の派遣メンバーのサブリーダーであるギルド職員に幽霊船の甲板は殲滅完了の連絡をしている。

 私はメンバーを確認していたけど、誰一人怪我もなく、警戒と荷物の確認をしている。この隙にとアンデッド対策でもっと必要になるかもしれないと武器に聖属性を付与する聖水の量産を始める。

 私と回復士さんはいらないので、残り5人に2〜3本ずつなのでさっくり作って手持ちの小瓶に詰めると、回復士さんが配るのを手伝ってくれた。


「ありがとう、助かっちゃった」

「いえいえ、それよりもアリスさんの調合の早さと正確さ、凄くて!

 眼福でしたよ〜」

「えへへ、ありがとう〜。あなたは魔力回復薬とかはいる?」

「えっ?!いいのですか?」

「もちろん、作り貯めしておいたのがあるからどうぞ」

「わあ、助かります!これもアリスさんが?」

「うん、良く作って売ってたから。売れ残りでごめんね?」

「とんでもない!家宝にします!!」

「えっ?!いやいや、使ってよ??

 無くなったらまたあげるから!使ってこそのお薬だからね?」


 感激です!と喜ぶ回復士さんは可愛いのだが、本当に使ってよ?また数百あるよ・・・。

 まあいざとなったら私の手持ちを使うからいいか、と切り替え幽霊船の船倉の方を眺めるが、やはり霧であまり良く見えない。「望遠ホークアイ」と文字通り遠視の魔法を起動して見える範囲の調査を行う。

 霧の合間に木製ではない、岩または石っぽい壁のようなものがチラチラ見える。案外どこかの小島が近くにあったのかもしれない。


「ラルク!」

「お待たせ、何か見つけた?」

「うん、幽霊船の奥に小島か少なくとも大岩がありそう。ただ岩にしては大きすぎるから、どちらにしても大幅な迂回が必要になるかもしれない」

「了解だ。みんなも聞いたね?

 この霧で見通しが悪いけど、案外大掛かりな調査になるかもしれないから不足しているものがあれば今言って欲しい」

「じゃあ、オレから。さっきの戦いで軽くだけど刃こぼれがあるから、調整できる奴がいたら頼みたい。

 予備にもう1本あるが、これが主武器なんだ」

「あ、私鍛冶は得意なので研げますよ~」


 意外にも回復士さんがウキウキと手入れを始めたので、槍使いも一緒に見てもらうことにしたようだ。私は銃を使うけど、さっきは使っていないので銃弾は減っていない。

 ラルクは杖がそのまま近接武器にもなり、杖の修理には私の薬剤を使うのでそちらも問題ない、手持ち無沙汰になってしまった。特に作る必要のある薬もないしなぁ・・・ あ、不謹慎だけどこの霧のかかっている状況って幻想的。

 元々風景スクリーンショットを撮るのが趣味だったから、つい撮りたくなる。


「写真撮影できる道具、欲しいなぁ・・・」

「そうだね、今はSSスクリーンショット撮れないからね」

「うん、残しておきたい」

「東方にあるかは分からないけど、帰国したら確実に買おう」

「うん!」


 ラルクと話している間に修繕は終わったみたいで、調査再開になった。このメンバーとの調査も、終わる頃にはきっといい思い出になるから、やっぱり思い出残したいな。


 最初の襲撃以来、大分ゆっくりしていたのにモンスターは現れず、私たち足元の床材も朽ちて脆くなって居る場所も多いので慎重に調査しないる。

 速攻床踏み抜いて落ちかけたからじゃ無いけど!落ちたら大怪我しちゃうからね!


 船の先頭、船先に向かって進むものの恐ろしい程に静かで私たちも口数が減る。

 自分たちの足音と、僅かに聞こえる波の音、敵は見えないし、聞こえない。

 不思議なことに霧は私たちが進むと共に引いて行く。やはり、人為的なものであるようだ。

 魔術士さんや回復士さんと話した限り、私やラルクもこんな魔法は知らない。

 モンスター特有のスキルか、まだ私たちの知らない魔法系統があるのかもしれない。

 好奇心は募るが、それも含め調査は進める。この霧が魔法なら戦争などに転用されると不味い。

 どの魔法もそうだけれど、対モンスターだから許されている所が大きい。人間よりも強く、大きく、危険なモノへの対処として魔法は有用なのだけど、対人では間違いなくオーバーキルだ。

 ただの虐殺になってしまうため、各国で協定もある。どの国も別に相手国を滅ぼしては意味が無いからだ。

 何かが欲しいからこそ戦争を仕掛けるのであって、根こそぎ消滅させたら大損になる。

 まあ、そもそも戦争するなよ、はある。


 そんなこんなで、気付けば船先まで着いたが、その先は霧が濃すぎて何も見えなかった。残るは船艙になる。

 霧の中、船艙へ下る入口だけやたらと黒々としていて目が離せない。そして、そこから僅かな金属音も聞こえる。


「ラルク」

「行くしか無さそうだね。

 アリス、バリアとバフを。近接は武器に聖水、安全第一で行くよ!」

「接敵してから聖域セイクリッドエリア展開します!」

「うん、よろしくね!」


 私は高揚戦術フルサポート守護陣イジェクトバリアを全員に展開すると、剣術士さんと槍術士さんが先頭で進む。

 今回狩人さんは真ん中で攻撃に入る、私と魔術士さんは背面の守りも兼ねている。

 狭い船内は魔法が使いにくいけど、後ろからも来られた時は蹴散らす為だ。

 私の銃の弾丸には魔法が込められいて、取っておきのには固定の魔術士さんに全力バフをかけた凶風刃域エリアルブラストを込めて貰ってある。

 それでもダメな時の切り札はあるけど、負荷が高くて銃も壊れてしまうので、出来れば使いたくない。私ではこの銃は作れないし直せないからなぁ・・・。

 今は普段使い用の無属性の魔法+物理の弾が入っている。それで上から来る蝙蝠のようなモンスターを迎撃している。

 背面は厚めのバリアと迎撃トラップを仕掛けている。私と魔術士さん両方に呪詛返しの陣リベンジカースと言う、攻撃を受けるとそのダメージに比例してダメージを上乗せして返し、さらにデバフを付与する戦術士の特殊スキルだ。


 実を言えば、この腹黒そうなスキルに惹かれて自分での攻撃手段はあまり持たない浪漫であるバッファー職を選んだのだ。

 PvPでも真っ先に狙われるが、私のは仲間からはえげつねー!とお褒め(?)の言葉をいただいている。

 ゲームやアニメに居る腹黒メガネの参謀的なキャラ、かっこいいじゃん?いや、まあ、私の性格とあってないのは自覚してるけどさ、ゲームでくらい理想を追い求めたいし!

 なんだかんだ、レイド行けるくらいには使えてるしね。


 ふと前を見るとラルクが無双している。数は多いけど、敵が雑魚ばかりで飽きたんだな。棒術で杖で物理攻撃しつつ、範囲光魔法を連打してるわ。うん、やる事なくなったな。

 普段淡々としているし、今も表情にはみんなに分かるようには出てないと思う。でも、微妙に目が座っているから、アレは飽きて眠くなっているか疲れているかだけど、大して戦闘もしてないし前者だろう。

 それなら、とラルクに魔力回復補助をかけて私は背面を気を付けようと振り向いた先に、半透明の何かが出入り口を塞いで、こちらに何かを伸ばしかけていた。

 迎撃は間に合わない・・・!


「全員壁際退避!!!」


 叫ぶと共に私も魔術士さんを引っ張って壁際に飛び退く。

 間一髪だったようだけど、仲間の様子は確認する余裕がない。凄い勢いで廊下の真ん中を何か触手のようなものが貫いている。


「炎を、私が凶風刃域エリアルブラストを合わせる!」

「了解・・・!紅蓮炎フレアバースト!」

「いけっ!」


 竜巻に煽られた炎に焼かれ、半透明の何かは耳障りな声?音を立てて後退するものの、反撃に転じた私と魔術士さんを触手が襲うが、狩人さんとラルクが撃ち落としてくれる。

 後ろで剣戟の音もしているから、まだ雑魚も残っているんだろう。

 この状況は良くない。後方の前衛としてラルクが立ち、回復士さんは前方も後方も見ている。

 打開するには1日1回しか使えないけど、私のエキストラスキルを使うしかないかな。


「2秒後全員に全力バフと魔力回復がはいるから、全力攻撃の後に船艙から退避!

 行くよ!戦術スキル起死回生!!」


 私のバフが入ると共に魔術士は黒雷炎ヘルストームを入れ、回復士さんは広域浄化エリアピュリティで前後全ての敵に浄化をかけ、ラルクは単体浄化最強の光魔法、神の威光ピュリフィケーションで前方の大物をに大ダメージを入れて退かせた。

 剣術士さんは範囲剣撃で敵をまとめて切断、槍術士さんも敵の中に飛び込み、周り全てを切り伏せ、狩人さんが豪雨のように降り注ぐ矢で縫いとめた所を回復士さんの広域浄化エリアピュリティでとどめを刺した。


 全員、後方の出口が開いた瞬間に走り出し、真っ先に槍術士さんが槍と共に巨大な半透明の敵へと激突する。


 全員が出たのを確認して、入口に封印結界ロストホープをかける。

 これて甲板を壊さない限り船艙から敵は上がって来れない、はず!!

 盛大にフラグを立てた気がしなくもないけど、今は前方の敵に集中。半透明で全貌が見えていなかった敵は、なんと巨大な海月のようだった。

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