第11話 幽霊船での前哨戦
先頭の三隻の船を固定し、残りの五隻は隊列を守ったまま少し距離を置いて停止している。
不等号の先っぽだけ少し離れたような形にして、依頼人である貴族令嬢を守るような陣形である。
先頭の旗艦が衝突した幽霊船は、その姿を確認された後から徐々に霧が薄れて行き、何も見えない状況は無くなったが、代わりにその異様が浮き彫りになった。
三本あるマストの内二本は折れ、メインマストも何故まだ立っているのか不思議な位に傾いている。
船全体に苔やフジツボ、海藻が絡みつき海独特の生臭さに顔を顰めてしまう。正直臭いだけでキツい。
更にアンデッドも見えるので、この調査と討伐は簡単には行かないだろう事が容易に想像出来て私たちは誰ともなくため息が零れてしまう。
ここまでは所謂幽霊船そのものなのだけど、気になるのはその全てが灰色の濃淡である事だ。
白黒の印刷された漫画のように色が無く、間違いなくそこに在るのに、存在感が薄く違和感しかない。
とはいえ、放置も出来ないし、私たちを待つ人たちが東方にいるので私たちには進む以外の選択肢はない。
「よし、見ていても仕方ない!
視界も少しはマシになったんだ、嫌なものはさっさと終わらせよう!」
ラルクの宣言と共に私は
大分視界が開けたとは言え、やはり晴れない霧の中は視界が悪いので少しでも見やすくするためと、光で敵を誘き出す為だ。
「早速おいでなすった!行くぞ!」
「
「
全能力向上のバフをかけ、更に全員にバリアを張る。これで数分は一定ダメージを無効化してくれる。
同時に回復士がアンデッドを弱体化させるセイクリッドエリアを展開してくれた。
初めて組むパーティーメンバーとはいえ、それぞれ経験を積み重ねた精鋭ばかりなので即興でも連携が繋がっていく。
近接2人は一人が敵の攻撃を弾くと、もう一人が攻撃を入れ、余裕をもってアンデッド3体を倒し、ラルクは無詠唱で各個人のヒールをしつつ指示を出す。
「近接、2時の方向5体!
遠隔、9時の方向にデカブツ!全力で叩け」
「
「
「チャージ完了、離れてろよ!
私と回復士のバフを受けた全力の魔術士の攻撃は轟音と共に左辺より現れた大型のアンデッドに複数の黒い雷が直撃、炎上して燃え尽きる。
その間に雑魚5体もさっくり倒される。
これで一旦は集まったアンデッドは殲滅出来たようだ
「戦闘終了!
流石に危なげないね、みんなお疲れ様!」
みんなホッと気が抜けるが、狩人が態と拗ねた振りをして文句を言う。
「ちぇっ、オレの出番無かったんだけど?リーダー!」
「ごめん、でも上空からの襲撃されると不味いからね?」
「正解だったよ。アレはハルピュイアかな?こっちを伺っている奴がいて、落とそうとしたら気付いて逃げて行きやがった」
「お手柄だ!逃げた方向は?」
「案の定、この奥だよ。間違いなく何かあるぜ」
「そうだね、襲撃に気をつけつつ進もう」
そう、まだ入り口なのだ。
この灰色の船に乗るのは忌避感があるが、案外踏み入れても何も影響は無かった。
ただし、色の無いこの場で私たちは色鮮やかに見え、とても目立っていた。いかにも襲ってくれと言っている、釣り餌のように。
「不味いな」
「どうした、リーダー?」
ラルクの呟きに反応したのは先程の狩人だった。
「オレたちは目立ち過ぎている、恐らく視界探知のモンスターが多いと言うことだろう」
「とはいえ、ここの保護色になるような装備は無いわね。色を変えるような便利な魔法やアイテムも無い、し・・・」
あ、あるわ、と思ったけど言いたくない。
ラルクの目を見れなくて視線が泳ぐのは仕方ないと思うの。
「アリス?」
「やだ!!」
「アリス、白状しようか?」
「やだやだやだ!!染色剤こんなとこで使うなんて!!」
そう、私は趣味でいつでも好きな色に衣服を変えられるように各種染色剤を持っているのです。
ただしそこそこお高い上に、今は気軽に素材を採りに行けない。ここで7つも使うと手持ちが2桁を切ってしまうし、グレーの染色剤は無い。
まあ、作れちゃうんですが・・・。それも含め、ラルクは間違いなく覚えている。
私が何気なく、アレ変な形だよねー等と話した軽口もちゃんと覚えていてくれる。それこそ私が忘れちゃっていても。
そこはめっちゃ嬉しいんだけど、はあ・・・ 背に腹はかえられぬかぁ。悲しい。
「ううう・・・」
「必ず素材は補填するから」
「くぅ、分かってるよぉ。全員分作るから数分だけ守って・・・」
私たちの会話が見えないメンバーはとりあえず私を中心に守るように位置取る。
私は鞄から複数の器具と人数分の素材を取り出すと、早速魔道具でもある器具を起動する。
分解、抽出、攪拌、調整・・・ 慣れた手順なので迷うこと無く調合を行う。
周囲を見ながら僅かに濃い位のグレーに仕上げる。明かりが当たればいい具合に紛れるだろう。
「凄い、あっという間に出来た」
「私、薬とか薬剤調合趣味なの・・・。
よし、出来たよ。全員コレを装備にかけてね。染色落としも後で渡すから諦めてみんなでグレーになろう」
「ありがとう、アリス」
「ううっ」
「ごめんね、向こうに着いたらちゃんとお買い物行こう?」
「絶対?」
「うん、絶対」
「じゃあ、許す。私だって分かってるもん・・・」
涙目でぶーたれる私の機嫌を取ってくれるラルクは楽しそうに笑っていた。
まあ、良いんだけどさぁ。必要だし、分かるけど、はああああ・・・ 消耗アイテム系が今後心配だわ。
自分の思考に沈んでいた私は気付かなかったけど、ラルクは私をよしよしと機嫌良さそうにしてると思っていた。
後日、仲良くなった魔術士さんから、ラルクは笑顔で他のメンバー威嚇してたぞ、と聞くまでは。そういえば、ラルクさん割とお腹は黒いのかも?
何はともあれ、入れ食いで敵に攻撃されるのは避けられそうなので、残り少ない染色剤を放出した甲斐はあったと信じたい!
私たちが本格的に幽霊船の調査に乗り出した頃、待機して残っていた残りの五隻の船でも新たな騒動が起きていた。そしてその騒動の中心となったのはやはりあの女性、ファンロン皇国のライラ・ホワン様だった。
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