第4話 現実と向き合う覚悟はまだ・・・

 ラルクと共に酒場に入り、ラルクは私には紅茶に生姜とブランデーをちょっとたらしたもの、ラルク自身はホットワインを飲んで暖を取りつつ様子を見ていた。

 パッと見た感じ、ここにもプレイヤーとみられる人はいないので、ラルクはちょっとマスターと話してくると席を立った。

 と言っても数歩の距離で、私たちが飲んでいたカウンターの席と反対側にいるマスターの元へとラルクが向かった。


「うー・・・思ったよりアルコールに弱いなぁ」


 そんな独り言を言っていると急に尻尾を掴まれて持ち上げられた激痛で悲鳴が出てしまう。


「きゃああ!」

「へえ、こんな所にミスティの冒険者」

「離して!」


 痛みと羞恥で涙ぐみながら怒鳴るが、私の尻尾を掴んだ男はニヤニヤして嗤ってる。怖い。

 しかも一人じゃないと気付いて益々怖くなる。


「こんなお綺麗な格好したミスティがなんの用だ?」

「俺たちに相手して欲しいんじゃないのか?」

「ち、ちがっ!! ヒッ、痛い、いい加減に・・・」

「いでででで!!」


 私の我慢が限界になる前に、私の尻尾を掴んでいた男は腕をラルクに捩じり上げられていた。


「お前、アリスに何してる?」

「ああん?てめえのメスならちゃんと首輪をっ・・・ あっ、がっ!!折れる!折れる!!」

「女性に手を上げるしか能のないゴミなら、そんな腕いらないだろ?」

「わ、わるかった!わるかったから!!」


 珍しく言葉が荒くなっているラルクに驚いた、あんな黒いオーラ出そうな怒り方できたんだ。私の知っているラルクはいつも穏やかで、ミスがあっても怒る事なく、淡々とみんなのフォローをしてくれる人だ。

 でも、私のために怒ってくれていると思うと、嬉しい。


 マスターの仲裁が入り、他の人たちの証言もあり私に乱暴をした2人は警邏の人たちに連れて行かれた。特に罰金とかではなく、反省のために一晩牢屋にいれられるだけらしいので、ホッとした。


「アリス、ごめん・・・」

「ふふ、やっぱりラルクは謝るんだね。助けてくれたのに」

「いやだって、オレが離れるなって行ったのに・・・」

「でも、助けてくれたでしょ?かっこよかった!」

「えっ・・・」


 しょんぼりして、耳も尻尾も垂れていたラルクの耳がピコン!と元気になる。

 なんか可愛い。この反応はずるいのでは・・・と思いつつ、そっと自分の尻尾が気になる。


「尻尾・・・掴まれるのがあんな痛いなんて、知らなかった・・・」

「うん、今は痛みは?」

「もう大丈夫だよ!」

「よかった・・・(あいつらやっぱり殺そうかな)」


 なんか黒いオーラが見えた気がするけれど、私たちは一旦ラルクの自宅に転移した。寒さも体に堪えていたから、ラルクの家は南国で海に近いので温かいし、冒険者用の住居エリアなので他に人も少なくて落ち着く。

 装備も軽装な普段着に変えて、浜辺のチェアでぐでーとする。波の音が心地いい。


「アリス、飲み物どうぞ」

「わぁ、マンゴージュース?」

「うん、好きでしょ?」

「大好き!ありがと~」


 受け取りながら、珍しく薄着なラルクを直視できない。

 ハーフリングの時は子供体系で全く気にならなかったし、ゲームはゲームなので何も気にならなかったんだけど・・・細マッチョな引き締まった、優し気イケメンとか目に毒すぎる。


「どうしたの?」

「ううん、なんでもないよ!」

「ふぅん?」


 おもむろに横にくっつくように座るラルクにびっくりして離れようとすると、そっと捕まえられた。

 ミスティの猫のような瞳がそっと細まって、ラルクなのに捕食者のようにきらめいて見えて、鼓動が跳ねる。


「ら、らるく?!」

「うん?」

「ち、ちかいよ?」

「うん、アリスが逃げようとするからね。オレが怖い?」

「ううん、怖くはないよ。ただ・・・」

「ただ?」


 一瞬顔を逸らすと、ラルクの手で視線を戻されてしまう。逃げないで、逃がさないよ、と言うように。そんなラルクを意識して顔が赤らむのが分かる。

 そして、改めてラルクに告白されていたことを思い出し、彼の本気度を思い知らされる。この状況に流されている感があって、今はまだ応えられないけれど、もう逃げられないと悟ってはいた。

 こんなにも真っ直ぐに愛情を向けられたのは、初めてのことだったから、どうすればいいのか分からなくなってしまうけど、ちゃんと誠実に答えは出したい。


「アリス?」

「え、えっとね・・・ ラルクが目に毒で」


 我ながら言い方!とは思うが、語彙力は消失しました。はい。

 思ったことがそのまま出てしまい、ラルクもきょとんとしている。


「似合ってなかった?」

「違う!あの、むしろ、似合い過ぎてて・・・」


 顔が熱くなるのって分かるもんなんだなって初めて思い知った。私絶対、顔真っ赤だわ、今。


「うん、じゃあこっち見て?」

「ううう~~ラルクがいぢわる・・・」

「あはは!ごめんごめん、アリスが可愛い反応するからさ。

 ほら、ジュースも温くなっちゃうからどうぞ?」

「ううーーーーー」


 誤魔化された、けど、マンゴージュース美味しい。頭よしよしして許されたと思うなよ!と、心の中で怒りつつまったりと過ごす。もう既に、雪国での出来事なんてすっかり頭の中には残っていなかった。

 私への好意を隠さなくなったラルクにただただ甘やかされると言う時間に、何もかもが不安な状況への漠然とした不安も薄れていた。


 それでも、彼の優しさに甘えるだけなのはいやなので、この世界の状況と自分たちの状況が把握できたら、ちゃんと向き合って今後どう生きて行くか決めないと、とは思っていたんだ・・・ いやほんとに。

 ラルクには私限定で何かセンサーついてるんじゃないのかな?しっかり、捕まって全て白状させられました。はい。


「それで、何か気持ちが固まった?」

「えっ?!?!!」

「うん?ちゃんと話してくれないと流石に詳細は分からないからね、話してくれるよね?」


 ラルクさんの目が本気です。これ絶対納得するまで逃がしてくれない奴。

 そういえば、この人元々真面目でしっかり最後までやりきるタイプの人だわ・・・。ずっとハーフリングのほわほわの雰囲気のイメージが強かったんだけど、本性はミスティだったんだなぁ~と理解する。


「あ、のね・・・ 上手く話せないかもだけど、聞いてくれる?」

「うん、ゆっくりでいいよ。」

「この状況、ログアウトできなくなってまだ3日目じゃない?

 色んな事がありすぎて、私もまだどうすればいいのか分からなくて・・・。不安な気持ちを誤魔化すためにラルクの気持ちに応えるのも違うと思うの。

 嬉しかったけど、この流れで付き合い始めたらダメだなって思うから・・・」

「うん」

「待たせてごめんだけど、この世界の状況が把握できて、私たちがどう生きて行くか決められるまで待って欲しい。

 ラルクの事はずっと好きで、大好きだけど、恋愛ではなかったから・・・ 今はまだ分からないの」

「うん、ちゃんと答えてくれてありがとう。

 オレはアリスがどんな結論を出してもちゃんと向き合って受け入れるよ。でも、アリスにちゃんと男として好きになって欲しいから、口説くよ?そこは覚悟してね」

「ふぇっ!!!」


 開けたシャツから覗く腹筋が色っぽくて、猫の目を細めて柔らかく笑うラルクの色っぽさに変な声が出る。

 ラルク、キャラ変し過ぎだから!!!あの可愛い可愛いラルクはどこに行ったの?!


「ああ、あれは猫被ってたからね~。今は被ると損しかしないから」


 だから何で分かるの!!と、胡乱げな目でラルクをチラっとみると、「アリスが分かりやすいんだよ」って笑われて流された。

 解せぬ。そして私チョロすぎだろ・・・、どっちのラルクもやっぱり優しくて、元より大好きなんだもん嫌いになんてなれる訳がない。でもだからこそ、流されて受け入れたくはない。そこだけは譲れない。

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