第5話 転生したらしい(ラルク視点)

 まさかVRMMOの世界に閉じ込められることになるなんて想像したことはなかった。

 ラノベやアニメじゃ良くある設定だし、デスゲームじゃないだけマシだけど、最初の感想は単に「参ったな」だった。

 でもそんなにリアルに執着があった訳でもなかったから、正直そこまで困ってもいなかった。


 オレは普通のサラリーマンで日中は働いて、夜はゲームしする普通に良くいるゲーマーの一人でしかない。彼女は今はいないけど居ても結婚だなんだ、ゲームにも理解のないタイプが多く、女性ゲーマーで話の合う人もあまり居なかった。

 話の合う女性ゲーマーは大体ガチ勢過ぎて、そこまではなぁ~と言う気持ちもあり、なんだかんだ一人が気楽だったのでここ数年は彼女を作っていなかった。

 それよりVRMMO内の固定メンバーとマイペースに高難易度コンテンツ攻略したり、別コンテンツでワーキャーしながら遊んでるのが楽しかった。

 今の固定は相棒のバッファーであるアリスに誘われて入ったんだけど、アリスとの付き合いは6年ほどになるかな?高難易度コンテンツのパーティー募集で偶然出会って、きっちりバリアもバフも、ヒールも入れてくれるのから戻しが楽で、向こうから一緒に組まないかと誘われて喜んで一緒に組んだ。

 野良だと相手によって全然スタンスが違うから様子見しながらヒールが必要だけど、彼女は必ずここでバリアを張ると分っているとヒールワークもしやすいし、自分にとっても良いこと尽くめなのだ。それに、彼女の素直な反応は一緒にプレイしていて楽しい。

 固定リーダーにも一度聞かれたこともあるが、アリスを可愛いと思っているけど、お互いリアルで会ったこともないのでこれが恋愛感情とは言い切りにくい。ゲーム内に限って言えば確実に好意はある。アリスはオレが想像しなかった楽しみ方も教えてくれるしね。


 そんなアリスと一緒に、このアレーミの世界に取り残された。

 どこかの国の言葉で「世界」と意味らしいこの世界は所謂剣と魔法のファンタジー世界のVRMMOで、割と古参な方でプレイヤー数も多い。

 丁度アップデート前で人が少なく、オレもアップデート前に多少消費アイテム作ってそろそろ落ちようと思った時にアリスからコールが来たので、時間的にも珍しいな?と驚いた。


【アリス<<やほー こんな時間に珍しいじゃん、ちょい今話せる?】


【ラルク>>こんばんわー うん、そろそろ寝るとこだけどどうしたの?】


【アリス<<そっちいくわー すぐ終わる!】


 すぐに転移して来たアリスは物凄く焦っているような感じで、どうしたのだろうかと聞くとログアウトができないと・・・。

 そんなバカな、とすぐにコンソールを起動するが、確かにログアウトボタンがない。

 嘘だろっと思ったが、ふと気付いた、甘い匂いがすると。

 このゲームに嗅覚はないはずだ、と嫌な予感がして、アリスに断ってからほっぺたに触れる。温かい。


 ここで初めてアレーミの世界に取り残されたのが分かった。アリスと別れて自宅に戻るとガランとした自宅に置いていたNPCが話しかけてくる。本当にNPCが人になったんだなぁ~と感心した。

 NPCが理解している状況を確認した上で、一旦唯一確認できているプレイヤーのアリスの所に行くことと、いつも通りロックはしておくこと、家具とかは好きに使って欲しいと伝えて転移する。

 フレンドリストに嫌な名前を見かけたが、見なかったことにする。後日再度確認した時はフレンドリストの表示はオフラインになっていたので、見間違いだったのかもしれない。


 アリスの家に着くとメイドのハーフリングが案内してくれて、見慣れたローソファでごろごろするアリスが見えた。アリスはオレに気付くと嬉しそうにぴょんっとソファから立ってこっちに来てくれる。

 ハーフリングの行動モーションのせいもあって、こういう行動が可愛いんだよなぁ、と思いつつ実はオレは眠くて仕方がなかったので、その日は早々に寝てしまった。

 翌日から、気丈にも笑っていつも通りの彼女でいようとしているが、生身になったせいで感情が表情に出やすいのか、不安を必死に抑えているのが良く分かった。それは彼女の使用人たち、特に彼女のお気に入りの執事のセバスは非常に心配しており、唯一信頼して甘えられているオレに主人をよろしく頼むと深々と頭を下げられた。

 言われるまでもなくアリスは友人だし、好ましく思っている女性でもあるから、彼女を独りにするつもりはないと伝え、それからずっとアリスと行動している。


 【転換薬】をさっさと効果発揮させた時は本当に怖かった。変な所で向こう見ずで怖いもの知らずのアリスは、呑気に寝ていたがその姿がブレて発光した時は彼女を失うのでは、と恐怖した。そして、改めて彼女を失いたくないと思った。

 更にミスティ族に変わると、アリスは非常に女性的で可愛らしくなる、ハーフリングとは別の可愛さで身長も高くなることから彼女を女性として狙う男が増えることも想像に容易だ。もうここはゲームの中じゃないことが口惜しい。

 そう気付いたオレは気に入っていた自キャラのハーフリングの姿を捨てることに躊躇はなかった。あまり男性らしすぎるのも良くないな、警戒されては意味がない。アリスが安心して、でもちゃんと男性で彼女の隣にいて釣り合う同じミスティの男性。案の定、彼女は緊張しながらも嬉しそうに耳をぴこぴこさせて受け入れてくれた。


 もっとも、目が覚めた時に目の前にアリスの顔があるのには驚いたけど。本当にオレを異性として意識してないんだなって思ったら腹が立ったので、少しずつアプローチする事に決めた。

 オレはアリスが好きだってちゃんと自覚したから、このチャンスを逃すつもりはないよ。アリス、もう手遅れだから、ちゃんとオレに落ちてきてね?


 そう思ったのに、早速ミスをしてしまった。目を一瞬離した隙にアリスをゴロツキに傷つけられなんて!

「きゃああ!」と響いたアリスの叫び声は驚きよりも、痛みによる悲痛さが滲んでいて、彼女を傷つけた奴を殴りつけてやりたかったが、これ以上彼女に害があってはいけないので殺気も隠さず男の後ろに移動して捩じり上げてやった。

 痛みと恐怖で泣いているアリスを見て、更に頭に血が上るが、酒場のマスターの執り成しもあったのでしぶしぶ警邏に引き渡したが正直ぶっ殺してやりたかった。

 そして、誰よりも油断したオレ自身をぶっ飛ばしたかった。何故アリスを1人にしたのかと!


 そんなオレを笑って許してくれるアリスはやはり可愛い。

 ようやくオレを意識し始めたのか、動揺するアリスに気を良くするオレも大概単純だが、アリスが可愛いので仕方ないよね。まあ、でもここで焦っても意味がないからちゃんとわきまえている。

 ちゃんと状況が把握出来たら向き合ってくれる、そう言ったアリスは本当に誠実で優しい。ありがとう、オレもちゃんとアリスに好かれるように頑張るよ、だから余所見はさせないからね。

 例えアリスの推しのNPCと会おう、アリスの横はオレの居場所だから。

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