第6話 徐々に見えてくる状況

 浜辺でのんびりした後、翌日の予定を決める。

 次に行く予定の場所は武装国家との衝突地域である山岳地帯だ。諜報部隊や現地の人、スパイにWスパイが暗躍しまくり、メインシナリオではそういった政治的な闘争に巻き込まれまくっていた。

 正直人体実験上等な武装国家なので、本当に胸糞悪いエピソード満載だったので、その真っ只中だと色々メンタル的にも厳しい。子供も被害にあっているんだよ、もうお話しとして見ててもキツいのに、実際に体験なんてしたくない。

 ラルクも出来ればあの部分のストーリーは避けたいね、と話しつつ、こちらの国には詳細な情報はないかもしれないけれど執事のセバスを筆頭に武装国家の情報収集をしてもらっているので、その報告を聞いてから山岳地帯をスキップしてアジア圏っぽい国に行くか判断する事にした。


 と言うことで、難しいお話は終わったのでお土産の時間だー!

 折角海辺に来てるのだから、お土産は海鮮ものにしようと私の独断でお買い物だ!市場は今日もすごく賑わっていて見ているだけでも楽しい。


「アリス、なに買うの?」

「うーん、お魚に貝に、烏賊に蛸に全部♪」

「はは、いいね、豪勢だ!」

「でっしょー!お魚と蛸はカルパッチョにもできる新鮮なのと、貝はパエリヤ用とバター炒め用にムール貝とアサリを!

 烏賊もパエリアに入れたいなぁ~・・・ああ、お腹が空いてくる!!」

「じゃあ、早く帰ろうか?」

「うん!ラルクはいいの?」

「うん?オレはフルーツを買っておいたよ。

 アリスの好きなブラッドオレンジに、巨峰のような葡萄とマスカット。木苺系は時期的になかったけど冷やして食べよう?」

「うん!!」


 ラルクのセンスが流石すぎる!私の好きなものばかりじゃないの!!

 と言うか、私、ラルクの好きなもの知らんかも・・・これって、ダメじゃない??あれ、おかしいな、ラルクとの付き合いは5年以上あるんだけど、冷静に思い返してみよう。


 何か一緒に遊びに行く時、私から誘っているな。

 私が暇でふとフレンドリスト見た時、ラルクはソロで色々やってたなぁ。

 私がお家でまったりしていると、たまに遊びに来てくれる・・・ 服装は割と可愛い系が好きで、ハーフリングが好き。

 ハーフリングで新しい衣装とか着てると褒めてくれたな。

 おかしい、プライベートな話を何も知らない・・・!!!


「ら、らるく!!!」

「うん?」


 自分の思考から戻ってきたら、周りの状況が違う。アレ、いつお家に帰って来たんだ??


「やっと気付いた?もう食材も渡して、もう30分もしたらお夕飯だよ」

「えええええー!!」

「アリス、声かけてもうんうん唸ってたから、さくっと帰って来たよ?」

「ご、ごめん・・・ なんか、色々考えちゃってた」

「うん、どうしたの?」

「あ、あのね・・・私、申し訳ないくらいラルクのこと知らない!!・・・かも」


 きょとんとしたあと、ラルクは「なんだ、そんなこと」と笑い出した。

 む~~~笑い事じゃないのに!!


「ごめんごめん、むくれないで」

「だって・・・」

「アリスが知らないのは当たり前なんだよ。オレは意図して自分の話しはしないようにしていたからね」

「そうなの?」

「うん、リアルとゲームを分けたかったからね。でもそうだね、アリスには伝えて行かないとね」

「いいの?いいなら、知りたいよ?」

「もちろん、今はここがリアルだからね。と言っても、別に面白い話しは特にはないよ?」

「私も普通だよ?普通がいいんだよ、きっと」


 お夕飯の後、ゆっくりお話ししようと決めて、1階に降りるといい匂いがしてくる。やばい、お腹空いた・・・!

 1階につくと、ちょうどハーフリングのメイドのララシャがカトラリーを並べていた。


「アリス様!もう少しでご飯ですよ~

 カルパッチョもパエリア、貝のバター炒め、サラダ、全部あるので楽しみにくださいね!」

「うわぁ~ めちゃくちゃ嬉しい!お手伝いする事ある?」

「うーん、じゃあ、このフルーツを前菜代わりにラルク様と食べていてください」


 ぽん、と小さなガラスの器に盛られたフルーツを渡されたので、当たり前のように私とラルクの席は隣り合っている。

 私も自炊はしてきたし、手伝いくらいできのだけど、使用人全員にお仕事取らないで!と言われたので大人しくお世話されているんだけどたまに落ち着かなくなる。


「はい、アリス」

「うん!」


 あ、葡萄熟れてて甘くて濃厚で美味しいわ~、・・・じゃなくて!!

 なんかナチュラルにアーンされていた!


「ら、らるくさん?!」

「うん?どうしたの?」

「い、いま・・・」

「フォークが1つしかないからね。ほら、アーンして」

「いやいやいや!!恥ずかしいから!」

「ふぅん?じゃあ、アリスが食べさせてよ」

「えええっ?!」

「はい、フォーク」


 渡されてしまった・・・。こ、この羞恥プレイ・・・どうすれば?!

 ラルクが嬉しそうに催促してくる、ずるい、酷い、こんなの恥ずかしいのに、しないと終わらない!!でも使用人に生暖かい目で見られるよりは!!ララシャめ、わざとだな!

 振るえる手で、ベリーにフォークを刺してラルクの口へと持って行く。絶対、顔は真っ赤だよ!


 その後、次はオレの番だとラルクにアーンされました。食べられないなら膝に抱えようか?と言われて、ギブアップしたよね。なんでラルクはこんな恥ずかしげもなくできるんだ?!

 そんなこんなで、そんなに量はなかったはずなのに、お夕飯が準備できた頃には私は息も絶え絶えになっていた。

 ラルク?つやつやホクホクしてましたよ(やさぐれ)。ラルクとララシャがアイコンタクトしてたの、私は見逃してないから!


「ほら、アリスの楽しみにしてたお夕飯だよ?お夕飯はアーンはしないからゆっくり食べなよ」

「くぅぅっっ」


 ラルクに頭をよしよしされ、セバスや他のメイドが美味しそうな料理を取り分けてくれる、ああ、もう匂いで美味しい。仕方がないから乗せられてあげるんだからね!と食事を始める。

 美味しい、マジで美味しい、幸せ!!


「ごちそうさまでした!今日もすっごく美味しかった~」

「うん、美味しかったね、ごちそうさま。

 この後、少しだけみんなが集めた情報について簡単でいいので報告お願いできるかな?」

「はい、承知しました。それでは食後の飲み物を用意しますので少々お待ちください」


 全員にコーヒーが配られ、セバスとラルクの使用人頭はイェルド族と呼ばれる、ウサ耳のある一族の女性でマナカと言う。

 2人は分担してそれぞれの部下に命じて別々の国で情報収集をしてくれていたらしい。


 みんなが集めてくれた情報をまとめると

 武装国家の進軍は主人公と思われる、英雄と言う人物が軍や仲間と阻止してくれたと。

 東方の戦火も収まりつつあり、今武装国家はかなりの打撃を受けているからこちらまで戦火が及ぶことはないが、東方の疲弊が激しいので援助をするらしい。

 その橋渡しをする冒険者が求められているとの事なので、これはチャンスなので私とラルクもそこに参加する事にした。

 英雄が誰なのかは分からないけど、状況によっては英雄の不在を冒険者たちが守る事になるかもしれないのでまだ油断できない。


 方針は決まったので、私とラルクは一旦明日は派遣隊に志願する事にして今日は解散した。


「お疲れ様〜」

「ラルクもお疲れ様〜」


 思わず2人とも2階のリビングで無言になってしまう。


「ね・・・私たちはやっぱり主人公じゃなかったね」

「そうだね。改めて聞くと複雑な気分だね」

「うん、誰が英雄なんだろうね」

「運営がモデルにしてる、いつもムービーで出てた男性じゃない?」

「それならしゃーないね。公式だし」


 私たちはやっぱり異物なのかなぁと思うと、心が痛くて。

 苦い顔をしてたのかな、当たり前のようにラルクに抱き寄せられて抱え込まれていた。

 この腕の中が落ち着くって思っている時点で、もう認めないといけないんだろうなと思いつつ、私はまだ覚悟ができない。


「焦らなくていいよ。オレはどこにも行かないから」

「うん、ありがと」


 安定のエスパーラルクだな、って何故か笑えた。

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