第16話 厄介ごとは続く
セイレーンは険しい顔で未だ寝ている令嬢を見つめている。
令嬢を起こすために気付け薬を嗅がせると令嬢は無意識に顔を顰めた後に少し咳き込んで、目を覚ます。
「!! っこ、こは・・・」
「お待たせしました、これで彼女も話せることでしょう」
まだボーっとしている令嬢にセイレーンは容赦なく鉾を突きつける。
その殺気と鉾に小さく悲鳴を上げると、意識が覚醒したのかギン!とセイレーンを睨みつけるのだから、そこだけは流石だ。
「皇帝陛下の血縁であるわたくしにこの非道、許しませんよ!」
『ホウ?我ヲ許サント?
許サナイカラナンダト言ウノダ、咎人ヨ』
「えっ・・・まさか、海の女神様・・・そんな」
『ソノ、マサカダ。女、両親カラ決シテ我等ノ怒リニ触レテハナラヌト習ワナンダカ?
ソモソモコノ呪物ハ全テ廃棄スル盟約ノハズ、ドコデ手ニ入レタ?』
「あ、あ・・・」
『我ハ気ガ長クナイ。答エヨ』
緊張と焦りからろくに言葉を発せられなくなった令嬢にセイレーンのイライラは募って行くのが目に見えて分かる。
これでは話にならないだろう。ため息をつきつつ、令嬢の侍女を見ると青ざめているものの、状況は理解しているようだ。
「ねぇ、あなた彼女の代わりに説明できる?
できるなら、頷いて」
侍女が頷くのを確認してからセイレーンに声をかけるかぁ、と気合いを入れる。
そっと手を繋いでくれるラルクと目配せをして、頷き合う。
「セイレーン様、少しよろしいでしょうか?」
『・・・要件ヲ聞コウ』
「こちらの女性、その令嬢の侍女で彼女に変わって説明をするそうです。
いつまでも話せない彼女より、話は進むかと」
『理ニ叶ウ提案ダ。良イ、ソノ者ニ話シヲサセヨ』
「承知しました。さあ、あなたの口の拘束は解くから、冷静に迅速に説明しなさい。
あの方は私たちでは止めることも叶わない方だから助けは無いわよ」
「ご助力感謝いたします。海の女神様にも、お伝えする機会をいただき感謝申し上げます」
『良イ、我ハ説明ヲ求ム』
侍女は青い顔のまま、1つ息を吸うと決心したように話し始めた。
「私共は海の女神様の庇護を受ける皇国の者で、お嬢様は皇家の血も引く侯爵家の令嬢です。
ご指摘を受けた呪物、指輪は代々侯爵家に伝わる家宝だと聞いております。
先々代の当主夫人が皇家より降下された皇女殿下で、その方が海で何かあった場合に女神さまの眷属がお助け下さることが約束された大変貴重な指輪だと」
侍女の説明する間中、令嬢は声を上げようとする度にセイレーンに矛先を首に突き付けられ、青ざめているので侍女の話しに嘘はないだろう。ただし、効果については周りの人間まして使用人には本当のことを伝えてない可能性があるな。
セイレーンを見ると美しくも凶悪な顔で嗤っていた。
『ソウカ、奴メノ子孫ガ我ヲ謀ルカ・・・ ソウカ』
セイレーンからぶわっと溢れ出す殺気に恐怖に身が竦む。
動物的な本能が逃げなければと叫び、体が震えるが、動かない。怖い。それでも、必死で自制して周りを見ると冒険者仲間はみんな必死に青い顔で耐えていたが、侍女に顔色が悪すぎて白く見えるほどだが耐えているが、直接殺気を向けられた令嬢は白目をむいて倒れてた。
『コノ程度モ耐エラレンカ、情ケナイ・・・』
「セイレーン・・・さ、ま・・・ 私共にも、その殺気は辛く・・・」
ラルクが私たちを代表して声をかけると、すっと殺気が消えて息ができる。私も仲間たちも流石に崩れ落ちてしまう。
『フッ、スマヌナ。ダガ、我ノ殺気ニモ耐エルオ前タチハ流石ダナ。
悪イガモウ暫ク付キ合ッテ貰イタイ。オ前タチノ目的地デアル人ノ国ニハ我ノ眷属ガ先導シヨウ。
ソノ代ワリ、コノ玉ヲ皇家ノ当主ニ直接届ケテ欲シイ。コノ首飾リヲ見セレバ間違イナクタドリ着ケルダロウ』
「承知、しました・・・ こちらの玉をお渡しすれば良いのですね」
『ソウダ。頼ンダゾ』
そう言うとセイレーンは海へと帰って行った。
私たちは一人が令嬢を担いで、本当に荷物のように小脇に抱えて、侍女の方は諦めた表情で大人しくついてくるのでそのまま歩いて貰って急いで船のある島の入口へと戻った。
ようやく自分たちの舟が見えると、またしても衝撃的な状況に唖然とするしか無かった。
なんと、船の周りに例の巨大海月が複数居て、私たちの船が衝突した幽霊船の解体をしつつ、船を少し沖へと戻してくれていたのだったが・・・。
海月ってこんなに物理的な力があるものなのね・・・,しかもこんなに数がいたら、とてもじゃないけどこの人数じゃ勝てなかった、と思うと血の気が引く。
他の仲間も同じ事を思ったようでみんな青い顔をしていた。
つくづくのあの令嬢はとんでもないことばかりしてくれる。勘弁していただきたい、本当に。
無事に帰船した私たちは仲間に歓迎して迎え入れられたけど、全員割と疲労困憊だったので令嬢の拘束と監視の徹底と、彼女の従者や侍女、騎士たちへの説明と対応をお願いしてその日は解散して休んだ。
本当ならお風呂で湯船に浸かりたい気分だったけど、海のど真ん中でそんな我儘も言えないので身体だけ拭いてベッドに入った後の記憶は全くなかった!目が覚めたら綺麗な青空が広がっているんだけど・・・何時だろう(滝汗。
同室のラルクは・・・ 寝てたわ。そうだった、ラルクは割とロングスリーパーな傾向あるんだった。
「ラルクー、もう外大分明るいよ、おきてーー」
「っ・・・・・・」
あ、また寝たよ、この人。
起きる気が全くないパターンっぽいけど、流石になぁ。置いて行くかぁ。
「ラルクー?起きないなら、先に起きるよ~」
「ぅ~・・・・・・」
お、薄目開いた?と思った次の瞬間、抱き込まれてしまって身動き取れなくされた?!
「えっ、ちょっとラルク?!ダメだって、起きなきゃ!!」
「やだ」
「ええー?!」
あ、ダメな奴だ、真面目に動けない!!
「ラルク、ラルクさん??せめて報告だけ行かせて?」
「・・・・・・」
「ねーーー、もぉ・・・ おーきーてーーーー」
「・・・・・・」
完全に寝息に戻ったラルク、そして私は手がわずかに動かせるくらい。参ったなぁ・・・。
くすぐったら起きるかな?怒るかな?とか無駄な抵抗をしていたはずなんだけど、人の体温って温かいよね。
結局、私たちはお昼頃まで爆睡していたようです。
今度からラルクを起こす時は、寝かされないように少し離れて起こそう、と固く誓ったのでした。
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