第9話 ヒロインを動かしたい
「きゃあああああ」
「落ち着いて、講堂に避難します。あそこは国一番の防御魔法がかけられております」
「聖女ルチア。緊急事態だ。力を貸してもらえないだろうか?」
マルス殿下が、聖女であられるルチア様に頭をおさげになります。
「なんで?」
そんな頼みを一蹴し、ピンと伸ばした足をペロペロとなめはじめられました。
「……ルチアさま。このイベントをこなさなければ、逆ハーエンドにはなりませんよ?」
小声でルチア様に耳打ちしますが、ちらりとこちらを向いた後は、やる気をなくしたように毛繕いのような所作を継続されていらっしゃいます。
「……テラスモンド男爵家を選べば逆ハーエンドだって、女神が言ってた」
「仕方ありません。ついてきてくだされば、マタタビの花束をお送りいたしましょう」
わたくしの言葉に耳をピクリと動かされます。もう一押しですわ。
「わかりましたわ。東方の国で作られたという鰹節もおつけいたしましょう」
「行く」
そうやって聖女であるルチア様を釣って……いえ、誘って、魔物が現れたという学園の裏手に参りました。きちんと攻略対象が勢揃いしていらっしゃいます。
「聖女様がいらっしゃったぞ!」
「聖女様!」
確かこのイベントは、聖女の力で大量にはびこる魔物、トロールを討伐し、その名を知らしめるイベント……。魔物の数、圧倒的に少なくありませんか? しかも、トロールはお兄様が全滅させてしまったからか、虫型の大型の魔物でございます。しかも、数体しかおりません。あ、今学園の警備の方に、一体倒されましたわ。
聖女様はそんな警備の方につられたように駆け出し、一体の魔物を倒され、抱きかかえて戻っていらっしゃいました。
「マルス王子、みて、取った」
そう言って、攻略対象者に魔物一匹を見せて回ります。
「……仕方ないから、悪役令嬢にも見せてあげる」
「……ルチア様。他の魔物はいかがなさいますか?」
「やって良いよ。収穫するの、今日は一匹でいい」
「では、わたくしが倒しますね」
倒す気をなくして、仕留められた一匹の魔物の解体を始められたルチア様。周囲は、その自由奔放さに固まっていらっしゃいます。その隙に、わたくしは愛用の短剣を取り出し、魔力を込めて魔物をすべてたおしました。
もしかして、この自由奔放さが、ヒロインの天真爛漫さに通じるのでしょうか? 少し疑問には思いましたが、攻略対象者の中には、確かにルチア様の愛らしさに見惚れている方もいらっしゃいます。
「ごめんね、すべてをナリアンヌ嬢に倒させてしまったよ。怪我はないかい?」
「ナリアンヌ! 無理しちゃだめだろう? お兄様も一緒に戦おうと思っていたのだぞ?」
「お嬢様が、お嬢様が学園をお救いになられましたわぁぁぁ! 奥様に報告して、国王陛下からの褒賞をねだるようにお伝えしないと!!」
一部のメンバーはいつも通りの通常運行をなさっておいでですが。
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