第16話 王子は悪役令嬢とまわりたい
「Oh! My God!!!」
「ナリアンヌ嬢。知らない言語だけど、すごく綺麗な発音だね」
「殿下……」
学園祭の日、わたくしは殿下とルチア様と回ることになっておりました。いつの間にか。わたくし、テラ子爵のご令嬢であるマルチダ様のような一般生徒と仲良くなりたいですわ。
「ナリアンヌ嬢。君と学園祭を回る名誉を僕に与えてくれないかい?」
そんなことを大袈裟に言いながら、わたくしに近寄る殿下に、シャーっという音を出しながら、ルチア様はおっしゃいました。
「私、悪役令嬢ルートにした。王子、邪魔」
「ルチア様!? 不敬になりかねませんわ! 撤回なさって!?」
「……いや」
「ふーん。聖女様はナリアンヌ嬢をお気に召したんだね。僕と一緒だ」
マルス・ルピテア殿下ルートでは、見られないはずの黒い笑みを携え、わたくしに詰め寄る殿下は、肉食獣のようでしたわ。
「殿下。妹とは、婚約者ではないのですから、適切な距離感を」
そう言いながら、お兄様がいつのまにか肉壁になってくださいました。
「お坊ちゃま。助太刀は必要でしょうか?」
「ばあやもお兄様も! 一国の王子に武力行使はいけませんわ! わたくし、お二人とご一緒に学園祭を回りますわ!」
「「え?」」
「まぁ、ルチア様と殿下。ハモるなんて、仲がよろしいのですわね? ふふふ」
そんなこんなでわたくしと殿下とルチア様。学園祭巡りのメンバーは決まったのでしたわ。
「そんなことより、殿下。この惨状をなんとかしないといけませんわ!」
ミノタウロスの乱入が起こるはずの学園祭には、蛾の魔物が乱入しております。鱗粉で眠りに落ちている生徒もいますわ。
「ルチア様! わたくし、毒物への耐性はばっちり鍛えてありますわ! 生徒たちを助けてくださいませ!」
「私、虫、捕まえたい」
「ルチア様には、毒物の耐性はありますの!?」
「ない」
「ならば、聖女としてお役目をお済ませください。わたくし、あとで遊んであげますから」
「ほんと!?」
目を輝かせたルチア様は、眠っている生徒たちの元へ勢いよく走っていき、聖女の魔法で眠りを解除していきます。猫じゃらしで遊ぶのが、そこまで気にいる理由がわかりませんわ。わたくしは、そんなことをおもいながら、少し遠い目をいたしました。
「ナリアンヌ嬢。僕も毒物への耐性は高い方だ。共に戦おう」
「まぁ、殿下! ありがとうございます! では、右手をわたくしが受け持ちますわ!」
学園の東半分をわたくしが担当し、西半分を殿下が担当いたします。よく見ると、殿下以外の攻略対象者も戦力として戦ってくれています。
「な、ななな、ナリアンヌ嬢! 助太刀いたす!」
「まぁ! ありがとうございます、サタリー様!」
そう微笑みかけると、怖いお顔をもっと怖くしたサタリー様は戦いの場に向かって駆けていきました。
数は多いものの、思ったより弱かった魔物たちはあっという間に全滅いたしました。
「ねぇ、悪役令嬢」
「ダメですわ」
「まだ何も言ってない」
「この虫型の魔物は、鱗粉に毒があります。食させませんわ」
「……ちっ」
ルチア様をそうやって宥め、虫型の魔物は一箇所にまとめました。
「じゃあ、魔法使いの出番だね」
いい香りがすると思って振り向くと、そこには前世の推しが立っていましたわ。
「め、めめめめめるてうす様!?」
「はじめまして。ナリアンヌ・ハーマート公爵令嬢。僕のことを知っていてくれたなんて光栄だよ」
「も、もちろん存じておりますわ! 大魔法使いのメルテウス様! とても尊敬しております」
「ありがとう。僕もナリアンヌ嬢の実力、尊敬しているよ」
「ふわあ」
「悪役令嬢、ふわあって言った」
「……ナリアンヌ嬢狙いか」
三者三様の中、わたくしは推しと握手できて、その手を見つめておりました。絶対に洗えませんわ。いい匂いしますわ。
「め、めメルテウス様はどうしてこちらに?」
気を取り直して、メルテウス様に問いかけます。
「この魔物たちを炎の魔法で焼却するためだよ」
そう微笑みながら、指を鳴らすと、蛾の魔物の死骸は一気に燃え上がりました。
「……獲物」
「ん? 聖女様は、あれが食べたかったの? この蛾の魔物の鱗粉は、加熱すれば毒の効果が無効になるから、食べてきたら?」
「……魔法使い、いい人!」
ルチア様はそう言って喜んで駆け去っていきましたわ。
「ねぇ、ナリアンヌ嬢。二人で少し魔法について学ばないかい? 僕の行きつけのカフェがあるんだ」
「ご一緒させていただきますわ!!!」
推しと触れ合える絶好のチャンス。こんな機会はきっと2度とありませんわ! 悲しそうに視線を向ける殿下は見なかったことにさせていただき、メルテウス様についていくことにいたしました。ばあやは、何やら影のものたちに指示を出しております。
「あぁ、僕の正体は、誰が調べてもわからないと思うよ?」
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