第10話 悪役令嬢と友達
「ナリアンヌ・ハーマート公爵令嬢が、虫の魔物をお倒しになられたって聞きました?」
「わたくしは、聖女ルチア・テラスモンド男爵令嬢がお倒しになられたと聞いたわ」
「国王陛下が、ナリアンヌ・ハーマート公爵令嬢に褒賞を授けるとも聞きましたわよ?」
「まぁ! では、ナリアンヌ・ハーマート公爵令嬢がやはり・・・・・・」
「ごきげんよう、ナリアンヌ・ハーマート様」
「まぁ。ごきげんよう。テラ子爵のご令嬢マルチダ様」
「わ、わたくしの名前を!? あ、あの、魔物を倒して、わたくしたちを助けてくださったとお聞きして……。わたくしごときがおこがましいですが、どうしてもお礼が申し上げたくて……ありがとうございました!」
「ありがとう。同じクラスのもの同士、仲良くしてくださると、わたくし、とても、とても、嬉しいですわ」
「ぜ、ぜひ!」
わたくしにお友達ができましたわ。ただ、マルチダ様以外の子爵令嬢は、震えた子リスのように隠れていて出てきてくださいませんわ。いいです、じっくり時間をかけてでもお友達になってみせますわ。わたくしがそう考えながら、姿の見えないお二人に向かって舌なめずりをしていると、突然腕を掴まれましたわ。
「悪役令嬢。用事」
「ま、まぁ。ルチア様。ごきげんよう。そんなに急いでどうなさって?」
わたくしをずるずると引きずりながらどこかへ連れて行くルチア様。彼女にしては珍しく、なにか要望がありそうなご様子です。
「昨日討伐した魔物、全部出せ」
「は、はい……」
「ほしい」
「い、いいですわよ」
あまりの迫力にわたくしが押されながら返事をしようとした瞬間には、アイテムボックスに放り込んでいらっしゃいました。あまり数がないので、すぐにしまい終わったルチア様に問いかけます。
「そ、そちらはどうなさるのですか?」
換金しても良い値にはなりませんから、わたくしとしては引き取ってもらって大変ありがたいのですが……。
「食べる」
そう言って去って行くルチア様に慌てて声をかけます。
「お待ちになって、ルチア様! 食用じゃないですわよ!? おやめなさい! 虫型の魔物なんてものを食べるなんて! お腹壊しますわよ!?」
「昨日食べた。無事。美味しかった」
満足げに塀の上に飛び乗ったルチア様は、駆け出して行かれました。
「ねぇ、ばあや」
「はい、お嬢様。こちらに」
「魔物……虫型の魔物って、皆様、一般にお召し上がりになるのかしら?」
「虫型の魔物を食す……そのような話、ばあやも長く生きておりますが、一度も聞いたことがございません。ドラゴンや大型の鳥や獣型の魔物を食するのは、魔力や筋力を増強するために、一部の人間には、一般的ですが……」
「……」
このあと、わたくしは全校集会で生徒たちを救ったとして、国王から受け賜った褒賞を与えられましたわ。でも、直前の出来事が衝撃的すぎてまったく頭に入ってきませんでしたわ。
ルチア様はあの魔物を、ど、どのようにお召し上がりになったのかしら? それは怖くて……聞くことはできませんでしたわ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます