第11話 ヒロインは挙動不審

「ねぇ、悪役令嬢。次はいつ、むし食べれる?」


「次のイベントですか?……そもそも、ルチア様は出会いイベントは皆様とおすましになったのですか?」


「……はじめましてのすりすりは、ムハル・ハーマートにしかできてない。でも、ルカルド・マサットウとは、道でぶつかって何か話しかけられた。あと、誰かも……」


「まぁ。それはきっと、宰相のご子息、ルカルド・マサットウ公爵令息との出会いイベントでいらっしゃいますね。あとは、あの場で見惚れていた方々との出会いイベントをおすましになられたのかしら? それとも、単にルチア様の愛らしさに……?」


「わたし、かわいい。よく言われる」


「まぁ。ルチア様はずっとかわいいと言われて育っていらしたのですね?」


「たまに殴られたけど」


「……いったいどなたに?」


「……内緒」


 そう言って、ルチア様はふい、とそっぽを向いてしまわれました。もしかして、これだけゲームと違うヒロインでも、逆ハーレムができあがりかけているのは、ゲームの強制力もあるのかしらと、先ほどから気になっていた疑問について、考えます。あぁ、それどころではありませんわ!


「そうでしたわ。次のイベントは、ゴブリンが大量に攻めてくるイベントですが、確か……今日ですわ!」


「ゴブリンって虫?」


「いえ、人型の……」


「なら、いらない。わたし、神殿の屋上で寝てる。あそこ、あったかくて気持ちいい」


「え? ルチア様?」


 そう言って、聖女であられるルチア様は、神殿に向かって駆けて行ってしまいました。どこからか現れた神殿関係者が、ひいひいと言いながら、ルチア様を追いかけていきます。

 神殿では、魔物討伐も修行の一環として行うはずですが……あの方は、とても体力がないのですね? あ、もしかして、わたくしたちが討伐しすぎましたか!?

 わたくしがそうして焦っていると、警報が鳴り響き、騒々しくなってきました。


「もう、現れたのでしょうか?」


 慌てて学校の裏にある広大な森に向かいます。今回のイベントは、たしかこちらで発生するはず……。


「まぁ」


 まさかのゴブリンは五体でしたわ。学園の魔物探知機が反応して大騒ぎになっておりますが、この量なら一瞬ですわ。


 一瞬で倒した魔物をばあやが即座にアイテムボックスにしまっていきます。わたくし、アイテムボックスの能力は持っておりませんの。でも、ここまで頑張って鍛錬を積み、かなり成長いたしましたわ。


「ステータス、オープン」





〈ステータス〉


ナリアンヌ・ハーマート 15歳 女


職業:公爵令嬢、転生した悪役令嬢


Lv.1583


HP:15830


MP:89682


知能:3510


運:10000


スキル:悪役令嬢の微笑み、龍殺し、殺戮者の安寧、料理(Lv.2)



 少しだけ料理に手を出してみましたの。知能が10しか増えておりませんが、もとの知能が高かったのですもの。十で神童、十五で才子、二十過ぎればただの人! ですわ! わたくしの場合、五で神童、十で才子、十五過ぎればただの人、ですけれども。




 一体のゴブリンだけは引きずって皆様の元に持ち帰り、討伐が済んだと知らしめます。


 今回、攻略対象すら現れる前に討伐を終えてしまいましたわ。皆様、魔物が倒されたと知って、たいそう喜んでくださいました。それは嬉しかったですけども、ルチア様は、本当に逆ハーエンドを目指すおつもりはあるのかしら……。そう思いながらとぼとぼと歩いていると、前からルカルド・マサットウ公爵令息が歩いていらっしゃいました。





「ごきげんよう」


「……聖女であるルチア様の仕事を奪っていらっしゃいますね。公爵令嬢は、聖女すら超えようとお思いになっているのですか?」


「まぁ。わたくし、ルチア様から直々に任されましたのに。そういうマサットウ公爵令息様は、ルチア様のお名前を呼ぶ権利はいただいていらっしゃるのかしら?」


「……減らない口だ」


 扇で口元を隠しながら、そう問いかけると、悔しそうに去って行きます。ルチア様のことです。ぶつかって謝ったくらいで飽きて逃げ出していらっしゃいそうですもの。


 そう考えると、ルチア様は意外とわたくしになついてくださっているのかしら?

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