第6話 悪役令嬢の失敗

「まぁ! ナリアンヌ様は、本日は殿下とご一緒なのね!」

「お兄様とご一緒でもお美しいですけど、殿下ともお似合いですわ!」


 ふふん。そうでしょう、そうでしょう! 今日に向けて、エステにパック。思いつく限りの美容をしてきておりますわ! ナリアンヌ・ハーマートの産まれ持った美しさにわたくしの努力! 会場中の視線を独り占めですわ!


「ふふふ。ナリアンヌ嬢は、美しいから会場で一番注目されているね」


「そんなこと……殿下にそのように言っていただき、光栄ですわ」


 お待ちになって。もしかして、いつもの夜会のように美しさを磨くべきではなかったのでは? 殿下とお似合い、と注目を集めていては、婚約者候補から婚約者に上がってしまいますわ!?


「そんなナリアンヌ嬢をエスコートする名誉を与えてくれてありがとう。これからもずっと僕に与えてくれると嬉しいんだけどね?」


 冗談っぽくそういう殿下は、絶対に読心術のスキルがありますわ! 公式ガイドブックにはそんなこと……、“好感度が高まっていると、まるで心を読むかのように話しかけてくることがあります”との記述が確か……。嘘ですわ。気のせいですわ。

 仕方がありません。わたくしの知性を使って、印象を下げていきますわよ!! ん? 断罪されないためには、好感度は高い方がいいのかしら? いやむしろ国外追放したらいろんな地に……だめですわ! お母様とお兄様とばあやに会えないなんて、つらいですわ!


 ということで、殿下の婚約者にならないように頑張りますわよ!






「お楽しみのところ、失礼いたします! 陛下、緊急事態です!」


「な、なんと!? 聖女殿が召喚されただと!? 皆のもの、今日のところは解散としよう。追って、発表する。今回のことは、口外せぬように」





「まぁ! 聖女様が!!」


 ヒロインがやっと召喚されましたわ! わたくしも推しに会えるとわかって安心いたしました。お兄様ルートに入っていただくことができるように、頑張りますわよ~! まぁ、ヒロインがどの男爵家に養子縁組するかですけど……。仕方ありません。お兄様ルート、我がハーマート公爵家の傘下ハーマー男爵家に圧力をかけて参りましょう!!


「……ナリアンヌ嬢は、まるで聖女の召喚が行われると知っていたかのようだな。興味深い……」


「な、なんのことでしょうか、殿下? 火急の事態かと思いますので、こちらで失礼いたしますわ!」



 脱兎のごとく逃げだし、わたくしは家に帰りましたわ。もちろん、急いでハーマー男爵家に圧力をかけましたの。権力乱用? そんなことございませんわ! ヒロインルチア様を幸せにするためですもの!!





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