第7話 学園入学

「とうとう学園入学の日ですわ!」


「お嬢様がこんなにも大きくなられてぇぇぇぇ!」


 相変わらずばあやが号泣しております。学園には、一人の付き人の同行が許されております。ですから、学園にはばあやも一緒に行くことになっておりますのに……。


「マリア、ナリアンヌをよろしく頼むわよ?」

「ばあや、一緒に学園に向かうぞ?」


「お任せください、奥様!! さぁ、坊ちゃま、お嬢様。参りますよ?」


 お母様に声をかけられ、切り替えたばあやは、涙を拭ってわたくしたちを馬車に押し込みます。

 ばあやばあやと呼んでおりますが、実は見た目は若々しくメイドとよく間違えられておりますの。でも、ばあやの実年齢は……ひっ!? 殺気が!?


「お嬢様? 余計なことは考えずに、参りましょうね?」


「えぇ、ばあやと一緒に学園にいくことができて嬉しいわ。よろしくお願いするわね」


「お、お嬢様がぁぁぁぁ」


「ナリアンヌ、ばあやを泣かせるな」


「だって、仕方ないじゃない、お兄様。さぁ、ばあや。早く行かないと初日からわたくしが遅刻してしまいますわ」


 きりっと表情を切り替えたばあやが、馬車に飛び乗り、出発します。



「お兄様。わたくし、とっても楽しみですわ!」


「いい子に頑張るんだぞ、ナリアンヌ」














 学園に到着いたしましたわ。わたくし、はじめて見る動きをする生き物に固まっておりますの。


「お兄様……あの方は、なにをしていらっしゃるのかしら?」


 学園の校門横に咲いている白い花の葉っぱに、顔をこすりつける少女が一人……。制服を着ていらっしゃるから、王立学園の生徒だと思いますわ。銀髪にメッシュの白色。黄色い瞳になにか変な音も聞こえてきた気がいたします。


「お兄様の同級生でいらっしゃいますか?」


「いや……」


「まさか…」


「あぁ、おそらく、ナリアンヌの同級生であろう」


 やばい同級生がいる、そんな恐怖に震えながら、表情を整えてお兄様と一緒に校門に入ります。周囲の生徒もチラ見しながら、わたくしたちに挨拶してくださいます。公爵家の権力にみなさま怯えていらっしゃい……確実に、あの子に怯えていらっしゃいますわ。


「あ」


 校門をくぐろうとした瞬間、少女と目が合いましたわ。すごい勢いでこちらにかけていらっしゃるので、護衛が思わず飛び出そうとしました。殺気も感じないので、お兄様が手で制止します。わたくしの登園初日にトラブルは避けたいですもの。


「ムハル・ハーマート」


 お兄様の名前を呼んだ少女は、突然お兄様に身体をこすりつけました。


「なっ!?」


 慌てて引き離す護衛たちに言葉を失ったわたくし。


「お、お兄様にいったいなにをなさっていらっしゃるの?」


「……マーキング。逆ハールート目指すから。ナリアンヌ・ハーマート、悪役令嬢。よろしくね」


 そう言って、するすると去っていった彼女は、校門の門柱の上に飛び乗りました。まるで猫が顔を洗うかのような所作で、顔を拭いていらっしゃいます。


「……え?」


 もしかして、あれがヒロインですの? わたくしの聖女ルチア様は? 茶髪茶目の愛らしいルチア様は?

 そう思って呆然としていると、神殿の服装をした者が走ってきました。


「ルチアさまぁ! ルチア・テラスモンドさまぁ! 降りてきてくださぁい!!」


「テラスモンド男爵……」


 逆ハーエンド狙いの場合、ヒロインが養子入りする男爵家です。




「ナリアンヌ。できる限り、彼女と関わらないようにしなさい」


「わかりました。お兄様。お兄様もお気をつけて」


「あぁ」


 固い決意を胸に、わたくしは教室に向かいましたわ。


 ばあやはさすが熟練の使用人。一瞬でお兄様を拭いた後に、即座に空気になりましたわ。

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