第4話 ドラゴン討伐

 あれからわたくしとお兄様は、ドラゴンを単独で討伐できるように成長いたしました。

 わたくしたちがドラゴンを討伐した夜は、お母様が一緒に夕飯をとってくださるようにおねだりもいたしました。


 学園入園まであと一年……。聖女が召喚されたという噂は、まだ耳に届いておりませんが……。

 ばあやは、あれから体力の無理のない範囲で神殿に血を捧げに行っております。

 神殿に血を捧げることに忌避感のない世界でよかったですわ。一部の熱心な信徒は血を捧げていると知ったときには、とても安心いたしましたの。



「お母様! わたくし、今日はレッドドラゴンを単独で討伐いたしましたの!」


「まぁ。ナリアンヌはとっても強くなったのね! お母様も安心してお仕事に行けるわ」


「母上。そちらが私の討伐したブラックドラゴンです」


「まぁまぁ! ムハルもとってもすごいわ! お母様も、今日は政敵を(物理的に)黙らせてきたのよ! あの方ったら、神殿から金銭を受け取って、強引な法案を通そうとしていてね? 昔はそんな人じゃなかったのに……最近変な法案ばっかりだしてくるのよねぇ」


「まぁ! 神殿は女神様のお心を知る場所。そんな女神様のお心を侮辱するなんて、許せませんわ!」


「お嬢様も坊ちゃまもご立派になって、ばあやはとっても嬉しいですわ!!」


「ねぇ、マリア?」


「なんでしょう? 奥様」


「かわいいかわいいナリアンヌとムハルが頑張っている間、あなたはなにか討伐したのかしら?」


「え、えーとですね、奥様……」


 お母様が、ばあやに圧をかけていらっしゃいます。ばあやが真っ青になりながら、がさごそとアイテムボックスから何かを取り出しました。


「い、一応ですが、ドラゴン王を討伐いたしました」


「まぁ、その程度なの? ナリアンヌの討伐したレッドドラゴンとムハルが討伐したブラックドラゴン、それに毛を生やした程度のものじゃない?」


「奥様。お言葉ですが、大切なお嬢様と坊ちゃまにおけががないように細心の注意を払うことを優先させていただきました。そんな状態で逃げる魔物の中で最強の種がドラゴン王だったのです」


「お母様。ばあやは、わたくしがレッドドラゴンを倒したらすぐに走ってきて処理をしてくれたのよ?」


「母上。私のブラックドラゴンの処理もすぐにしてくれたんだ。いいではないか?」


 お兄様と一緒にばあやをかばいます。感涙を流すばあやと嫉妬に駆られるお母様。ドラゴン王って何か聞き覚えが……?


「ふん! お母様なんて、お母様なんて」


「お母様! 大好きなお母様に一番美味しい状態のドラゴンを食していただきたく、ばあや共々、お兄様と頑張ったのですわ!」


 うんうん、とお兄様とばあやは頷きます。


「あ、」


「どうかいたしましたか? お嬢様」


「ううん、なんでもないわ」


 思い出しましたわ。ドラゴン王って、ヒロインが最後に討伐するボスキャラ……。それ以外に何を討伐するのだったでしょうか? ご、ゴブリンとオークの集団は、まだすべては倒していないはずですわ。ミノタウロスも……国外に行けばいるはずですわ! キメラって我が国以外に生息していたかしら……?

 焦りながら、話を思い出すわたくしは、ワイバーンの国内の群れを殲滅したことを思い出し、ふるえがとまりませんわ。

 バジリスクはあまり倒していないはずですの! 砂漠に行くのが手間でしたから。デュラハンは倒してしまいましたわ。確か人が死ぬはずだったので、その前に討伐いたしましたもの。

 あ! 大丈夫ですわ! 学園付近のトロールは全く触っておりませんわ! 少なくとも、わたくしは!……昨年学園に入学されたお兄様……きっと血抜き等の処理が苦手だから、倒していらっしゃいませんわ!



「ばあやは、処理までうまくてすごいよ。私の友人にも血抜きが得意なものがいてね、学園近くのトロールの群れを殲滅させたとき、」


 オウ! 殺っていらっしゃる! お兄様が殺っていらっしゃりました! もしかして、ばあやが殺されていないから、お兄様の武力が強化されて、ばあや自身も魔物を討伐しているから……。も、ももも、もしかして、わたくしのせいでヒロインが召喚されないなんてこと、ないわよね? 愛らしく天真爛漫と称されるものの、天然でのほほんとなさっていて、そんな愛らしさに、実は強さを持っているヒロインルチアは、わたくしの推しですわ! 推しに会えないなんて……そう思いながら、魔物を追い立てて天災を起こし、聖女が必要だと思わせて連れてきてもらえるようにしようかと真剣に悩みますわ! でも、人に被害を与えるわけにはいきませんもの……。神殿が聖女召喚を実行するように、ばあやにもう少し頻繁に、献血……じゃなかった、血を捧げに行っていただきましょう!!






「そういえば、第一王子殿下が、次の夜会でエスコートをさせてほしいと、ナリアンヌに頼んできてくれと言っていたわよ?」


 ニヤニヤしたお母様に、そう言われ、わたくしの顔色が変わりましたわ!

 そうでしたわ! その問題がございました!

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