第13話 課外学習
「課外学習ですわ!」
わくわくしながら、わたくしが部屋を飛び出すと、ばあやがにやにやしながら受け止めてくれました。
「お嬢様……課外学習が楽しみでいらっしゃるお嬢様。さいっこうにかわいいですわぁぁぁぁ!」
「ひさびさにばあやが興奮している姿を見るわ。落ち着いてちょうだい?」
そう言ってばあやの手を握ると、ばあやは昏倒しましたわ。仕方ないばあやですこと。
「お兄様。ばあやを頼みますわ」
「あぁ。叩き起こしたらすぐにばあやに後を追わせるから、先に課外学習に行っておいで」
「はい! 行ってまいります!」
課外学習の班は、ルチア様、マルス殿下、マサットウ公爵令息、わたくしの4人です。
王立学園の別荘に向かうのですわ。楽しみですわ。楽しみ……課外学習って何か聞き覚えがありますわね。
「あ!!」
「どうかしたのか!? ナリアンヌ嬢!」
わたくしの叫び声に、マルス殿下は慌てた様子で振り向きます。
「い、いえ。なんでもございませんわ」
まさか課外学習でイベント発生予定なことを出発直前の今、思い出したなんて口が裂けても言えませんもの。
「……大丈夫だよ。王立学園の別荘には、さまざまな備えはあるから、心配しないで」
相変わらず、マルス殿下は心が読めるような発言ばかりしていらっしゃいますわ。そんなことは捨て置いて、わたくしはゲームの情報を思い出します。
オークの大群が現れ、別荘地近辺で人を襲っているとの情報が入る。聖女ルチアに対応するように依頼が来るとともに、攻略対象者たちが我先にと付き添おうとする。
……オーク? オークの集団は、まだすべては倒していないはずですわ。ということは、イベントは予定通りオーク発生かしら? でも……。わたくしが不安げに瞳を揺らすと、マサットウ公爵令息が鼻で笑いながら、声をかけてきました。
「不安そうな顔をして、殿下の関心を買おうとは、浅ましい女だ。それに比べて、聖女ルチア様の堂々たるお姿は、なんと麗しいのだろうか」
ルチア様は、蝶々を捕まえようと追い回していらっしゃいます。堂々たるとは? そう思いながら、反論いたしました。
「マサットウ公爵令息。聖女たるルチア様と単なる公爵令嬢のわたくしを比べるなど、ルチア様に失礼だと思わないのですか? わたくし、オークの残量を心配しているだけで、不安がったりしておりませんわ」
「お、おーくのざんりょう?」
不思議そうに首を傾げるマサットウ公爵令息を無視して、わたくしは数え直します。学園入園前にいた野良オークの数が確か15匹。お兄様がその後3匹仕留められ、ばあやが5匹仕留めた記憶がありますわ。残り7匹のうち、2匹をわたくしがルチア様のために仕留めて、冒険者や国の者が仕留めた情報は出てきていなかったはずですわ。となると、残り5匹。繁殖していたら、いいのですが……。
そんなわたくしの不安をよそに、課外学習はずんずんと進みます。
「ナリアンヌ嬢。僕と終夜祭を過ごしてくれないかな?」
「殿下……そんな、殿下にはもっと相応しい方がいらっしゃいますわ」
「悪役令嬢。私、虫取りに行きたいから、終夜祭のときについてきて」
「ルチア様? イベントをお忘れでいらっしゃるのかしら?」
「イベント……?」
「ルチア様は本当にプレイなさったの? 全然ゲームの内容が頭に入ってないじゃない」
「私、たまに見てただけ」
「まぁ! ご友人のプレイをご覧になってたタイプですのね!」
「友人……一緒に住んでた人間」
「では、ご家族がプレイなさっていたの? ルチア様は逆ハールート狙いでいらっしゃるけど、推しはいらっしゃらないのかしら?」
「推し……?」
「わたくし、お兄様×ルチア様がおすすめでしたけど……」
「……私、虫捕まえたい」
「まったく、ルチア様ったら」
ルチア様とのお話に夢中になって、殿下のことをすっかり忘れておりました。そうしたら、後ろからさっと手を引かれて抱き止められました。
「ナリアンヌ嬢。僕のこと、忘れてないよね?」
「な!? で、で、殿下!? 未婚の男女があるまじき距離感ですわ! 離してくださいませ!」
「離さないよ? 聖女ではなく、僕と後夜祭に参加してくれるよね?」
先に誘ったんだ、いいって言ってくれるまで離さないよ、と言いながら、殿下はわたくしの髪を取って口付けを落とされました。皆様が顔を真っ赤にしながらきゃあきゃあ叫んでいらっしゃいます。
「わ、わかりましたわ! わたくし、殿下と参加しますから! 離してくださいませ!」
「王子。悪役令嬢は、私の。私と虫取りに行く」
そう言って、ルチア様はわたくしにすりすりと擦り寄っていらっしゃいます。
後ろから抱きしめられる殿下と前からすりすりされるルチア様に、サンドイッチされたわたくしは、混乱の極みですわ!
「お嬢様。失礼致します」
わたくしが、オーバーフローする直前に、ばあやがサンドイッチから救い出してくださいました。
「ありがとう、ばあや」
いつの間に辿り着いていたのでしょう? ばあやは、相変わらず気配を消すことが上手いですわ。
「約束だからね? ナリアンヌ嬢」
そう言って手の甲に口付けを落とした殿下は去っていきました。先ほどまで変な音を立てて、わたくしに擦り寄っていたルチア様が、不満げにこちらを見ています。
「一緒に虫捕まえる……」
「わかりましたわ、ルチア様。イベントがありますから、その時に一緒に魔物を狩りましょう? 全てルチア様に差し上げますから」
「食べれる?」
「えぇ、一部の地域では食用にされているから大丈夫ですわ!」
「楽しみ!」
嬉しそうに去って行くルチア様。やっと2人を宥めることに成功いたしました。ふぅ。わたくし、さっきまで何を考えていたのかしら?
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