第26話 殿下のお茶会


「殿下、お話がございます」


 殿下に招待されたお茶会で、わたくしは人払いを願います。


 わたくしと殿下、ルチア様、なせかわたくしの横を陣取っていらっしゃるメルテウス様。


「……一体、どんな話があるのかな?」


 殿下のそんな声を皮切りに、全員がわたくしに視線を向けます。





「……ドラゴン王を以前、うちのばあやが討伐いたしました」


「…………は?」


「ですから、以前、うちのばあやがドラゴン王を討伐いたしました」


「な!? ど、ドラゴン王は伝説の存在ではないのか!?」


 パニックを起こされた殿下、お菓子を頬張るルチア様、ニコニコと表情の読めないメルテウス様。


「ドラゴンの残党の討伐も済んでいるかと思います」


「はぁ」


 殿下は、父上にどうやって報告すれば良いのか、と頭を抱えられてしまいました。ご同情いたします。


「……ですが、わたくしの知識では、近いうちにドラゴンの森で何かが起こるかと思います」


「ナリアンヌ嬢の言うことだから。きっと何かしらの根拠があるのだろう? 常人では理解できない何かだろうけど……」


 今までのわたくしの行動や実績を評価してくださっているのでしょう。


「……根拠については、過去のわたくしの実績からと回答させていただきますわ。その何かを解明するため、殿下とメルテウス様、ルチア様と後ほどお伝えする、お兄様を含めた何人かの生徒攻略対象者たち、引率にアル先生の同行をご指示いただくよう願いますわ」


「……ナリアンヌ嬢の希望が叶うように善処すると誓うよ」















◇◇◇


「なんで俺が引率なんてしなきゃいけないわけ?」


「……ルチア様。きちんと攻略なさいましたか?」


「……」


 そーっと視線を外されるルチア様。ルチア様のことです。気になってしまった有象無象に釣られて攻略をおろそかになさったのでしょう。ですから、アル先生の好感度が最低の場合のセリフがでてきたのでしょう。


「皆様、ドラゴンの森への調査にご同行いただき、ありがとうございます。わたくし、ナリアンヌ・ハーマートが、ハーマート公爵家の名誉をかけて、皆様をお守りすると誓いますわ」


「ナリアンヌ、私も」


 そう声をかけるお兄様を押しとどめます。次期公爵たるお兄様にご迷惑をおかけできませんわ。わたくしは所詮、悪役令嬢。国外追放になる可能性だってあるのです。どうにでもなれ、ですわ。


「ふん、お前の言葉なんか信じられるか。私は聖女様のために尽力することとする」


「……」


「ルチア様? マサットウ公爵令息様がルチア様のために尽力してくださるそうですよ? お返事して差し上げたらいかがかしら?」


「……了解」


「せ、聖女ルチア様が返事をしてくださった!!」


 マサットウ公爵令息様のわたくしへの対応は、悪役令嬢のわたくしにとって安心する対応ですが、ルチア様への妄信的な様子は少し気持ち悪いですわ……。












「……本当に何もいないな、ナリアンヌ嬢」


「我が公爵家がドラゴン殲滅いたしましたから」


「お兄様、一番の功労者はばあやですわよ?」


 わたくしに話しかける殿下に返答するお兄様。お兄様の発言をわたくしは訂正いたします。本日のばあやは、皆様から見えないようについてきているはずですわ。置いてくる予定が、置いてこられなかったのですわ。


「……」


「メルテウス様? どうかなさいましたか?」


「いや、なんでもないよ」


 今日のメルテウス様はとてもお静かですわ。まるで何かを耐えていらっしゃるようです。









 ドラゴン王の発生する場所に到着いたしました。さすがに神々しい様子に、誰も言葉を発することができません。今代のドラゴン王の討伐は済んでしまっているので、とても静かですわ。





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