第三章 60

第三章

60


 遥か古の惑星ギーの世界で、神の役割が耳長族と精霊に託された頃、俺の使命のために一緒に戦った戦友との再会を俺は果たした。


 気付けば東の空が明るんでいる。野分の背に乗りアパチ族の住む断崖絶壁の中の洞窟入り口に着いた。四龍には人化をしてもらった。


 陰陽師風白装束の野分、藍色壷装束に垂衣の付いた市女笠を被る薄氷、巨躯の雲水姿の巌、着物を着流した焔、四者四様?

 だが、各自の発するオーラは圧巻だ。少し威圧を抑え気味にしないと誰も近づいてきてくれないのでは? と、つい思ってしまう。



 入口には、大角羊族の族長ビッグホンが一人佇んでいた。俺達を一晩中待っていたのだろうか。


「ビッグホン。すまない、かなり待たせてしまったね」

「うむ。待つのは構わないが、その… お前たちの威圧を抑えてくれぬか? そのまま洞窟の中に案内すると若いアパチ族と大角羊族が気絶してしまう」

「ああ、やっぱり威圧が強いよね。野分、薄氷、巌、焔、魔力をちょっと抑えてくれ」

「「「「相分かった」」」」


 彼らからの威圧が一瞬で収まった。


(すごいな、皆一瞬で魔力をコントロールできるんだな。今度やり方を教えてもらおう)


「ナギ、お前もだ。四龍殿が揃った影響だろう、お前からとんでもない魔力が溢れているぞ」

「え? 俺? でもどうやって魔力を抑えればいいんだろう… 」

「うむ、仕方がない。いずれ渡す予定のものだ、今渡そう。かつて月夜見の尊であったナギに対して、大角羊族の友誼の証を与える。これからは俺たちも仲間だ」


 ビッグホンから青白い何かが飛んできて俺の右手の薬指に吸い込まれ、右手の薬指には大角羊のようなマークが浮かび上がった。丹田から暖かな何かが湧き上がり体中を巡って消えた。


 俺は久しぶりにステータスを確認した。


ナギ・ハワード(16)

職業:商人

特殊スキル:DEXTERITY

      ファルコン族との友情の証:念話

      オルカ族との友情の証:収納

ジョンブルグ族との友情の証:五感強化

大角羊族との友情の証:魔力操作NEW! 

      闇精霊との絆

スキル:剣術1、棒術6、身体強化5、属性付与4

    上級魔法火水土風複合

異世界言語

装備:四龍のペンダントNEW!


(お、NEW!が二つあるな。大角羊族との友情の証:魔力操作と装備:四龍のペンダントかなるほど、こんな感じに出るんだ。棒術、身体強化、属性付与は一段階育ったと。ぱっと見俺は人外になったんだろうか。でも敵も強大だし、もっと高みを目指さないとね)



「ありがとう。ビッグホン。俺が大角羊族の為に何が出来るのか分からない。でも困ったことがあれば言ってくれ。俺なりに協力するよ。俺と直接念話が繋がらない時は、メリカ大陸のファルコン族に頼ってくれ。念話を繋げる手伝いをしてくれるはずだ。カプリ大丈夫だよね? 」


<大丈夫だよ~ もう伝えてある~。今、仲間をここに呼ぶ?>

<あ、今は呼ばなくていいよ。以前、呼んでもらった時に大勢に来てもらって大変なことになったからね>

<分かった~>


「ファルコン族の念話の助けを貰えるのはありがたい。必要な時に使わせてもらう。我らは見返りが欲しくて友誼を交わすのではない。唯、我々一族はお前の仲間だということを忘れないで欲しい」

「分かった。これからも宜しく。ところで“魔力操作”が大角羊族の固有能力かな? 使い方のコツを教えてくれないか?」

「そうだな。まずはお前の駄々洩れの魔力を抑えなくてはな。我らは崖の上り下りの時に、魔力を蹄に集めて接地力を高めたり、魔力操作でバランスを取っている。最初からそこまで高度に使えんが、慣れれば魔力というものはイメージを実現する万能のツールとなる。お前の駄々洩れの魔力を川の流れに例えるなら、それを堰き止めるようにイメージしてみよ」

「なるほど、川の流れを堰き止めるイメージだね… 」


 俺は子供のころから続けている瞑想による魔力トレーニングの効果で、無意識に魔力を絞り出すのが癖になっていたのかもしれない。

 俺の成長といくつかの友情の証や“四龍のペンダント”の効果で魔力量が増え、上級クラスとなった俺の魔力は、絞り出さなくても強力な魔法が発現するレベルになったのかもしれない。

 その結果が魔力駄々洩れ常態化だ。


 魔力を絞り出すのではなく、流れを堰き止めて絞り込むようにイメージした。常に感じていた高揚感が“フッ”と消えた。


「うむ。流石だ。駄々洩れが止まったぞ。その感覚を忘れぬようにな。ではアパチ族のもとに向かおう」


 どうやら、魔力の駄々洩れは止まったようだ。ちょっと絞り込む感じは違和感があるが、この感覚に慣れ、更なる魔力操作を身に着けよう。


 ビッグホンは洞窟入り口に大角をこすりつけ、入り口を出現させ、洞窟内のアパチ族のもとに俺達を案内してくれた。




「おお、目的は達成されたようじゃな。ナギさん、早速プロフィット様のもとに向かおうかのう」

「コチーズ族長、プロフィット様のもとに向かうのは何名ですか? 少数であれば四龍に運んでもらいますけど」

「おお、龍族様のお世話になるとは行幸じゃ。冥途の土産になるのう。儂と三名、あとはニモも来てくれるな?」

「もちろんです、族長。是非お供させてください」

「後は、ビッグホン、お前も来てくれ」

「分かった。だが、地に足が付いてないと我らは落ち着かぬ。俺達は足の速いもの数頭でエルバト山の洞窟入り口に向かう」

「分かりました。では向かいましょう。エルバト山の洞窟経由のプロフィット様の下ということで、まずは洞窟の外へ出ましょう」




「では、我らは出発する」


 洞窟の外に出ると、早速ビッグホンと大角羊族の選抜メンバー三頭が北東方向に音もなく駆け出して行った。彼等には断崖絶壁の連なる広大なグランドキャニも自分たちの庭みたいなものなのだろう。


 四龍達には龍の姿に戻ってもらい、背中の一番広い巌にアパチ族達に乗ってもらう。俺は野分の背に乗る。肩にはカプリとルナの布陣だ。


「よし、俺達も出発しよう。焔、エルバト山の洞窟は覚えているよな? 案内を頼む。薄氷は周囲の警戒。巌のペースで行こう」

「「「「相分かった」」」」


 四龍の中では巌が飛翔できるようになったとはいえ、地龍だけあり、速度はあまり出ないものの背中の大きさは最大の巨躯を誇るだけあり広い。飛翔に慣れないアパチ族に安心して空の移動を楽しんでもらう配慮だ。



俺達はプロフィット様の下に向かうべく、朝日輝く大空に向かって飛び立った。




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