第一章 第5話
⑤
火魔法発動に浮かれて魔素切れになった俺は、魔法訓練をしていた自宅の中庭に倒れていたそうだ。気持ちよさそうに鼾をかいて寝ていたそうだ。夕食時で俺を呼びに来たベス姉に起こされた時、やけに体が怠かったのは貴重な経験、教訓だ。魔素切れ注意。身の丈以上の魔法使用は危険だよ。と。
火魔法発動後は比較的簡単に他の属性の発動に至った。
水は魔素を水素と酸素の燃えやすい性質に変えてからの組み合わせ、土は魔素をケイ素と酸素を主に、鉄・アルミニウム等を少々の割合で混ぜるイメージで、風は窒素と酸素でそれぞれ発動することが出来た。前世の知識が異世界で魔法というスキルとして使えたこと、この世界の水、土、風(空気)の構成が前世と似ていることから前世でも魔法使いが居たのではないかと無益な想像をしたのは内緒だ。全てイメージだ。
つまらない余談ついでだが、火魔法も実質は温度変更魔法だなと思った。魔素の温度を下げるイメージで魔法を使ったらコップの水が凍ったからね。まぁ夏場や食料保存に充分利用価値はあるのでこれはこれ、火魔法にはこれからも攻撃魔法の優等生として一線を張ってもらう予定だ。
そして複合魔法だが、既にお気づきのように土魔法で取得していた。そう、ケイ素の次に比率の高い酸素を使っていたのだ。酸素を抜いた時、土魔法は発動しなかったので土魔法は複合魔法ともいえる。おそらく土魔法発動時に複合魔法が発動したのではないかと考えている。
魔法の考察について語るとキリがないのだが、俺は新たな属性魔法をこの世に生み出したかもしれない。ステータス上に現れていないが雷魔法だ。電子が動くと電流が流れる。それを抵抗に流すと…… “びしっ”
この世界で、初めて電気を見た。小さな光だったが大きな一歩だ。確かに雷だった。是非とも応用も含め活用したいものだ。ステータスオープンを受けて以来、魔法についても新発見のオンパレードだ。DEX君が仕事をしている。早く実戦での魔法投入をしたいものだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
えー、話を戻すと、俺、ことナギは13歳になり、見習いが外れ商人となった。つまり行動の自由も手に入れたことになる。
見習い中の一年間、俺は父さんに情報収集分析専門の新組織を立ち上げ、運用するべきだと提案していた。情報の重要性について充分認識のある父さんは熟慮の末、国家機関とは別のハワード商会オリジナルの情報収集・分析組織を構築することに納得してくれた。
俺はただ一人の立ち上げメンバーだ。これは父さんが非協力的ということではなく、商売繁盛の中、新組織に人員を割り振れるような余裕のある部隊はないことと、諜報組織の立上げから運用に関して精通した人材がいないという理由から、人員の選定も任せるという意味があった。信用してもらえてる証だろう。責任重大だが俺としても納得のスタートだ。
予てからの構想を俺は着手することにした。計画はざっくりこんな感じだ。まず、情報伝達に優れた媒体の確保。次に運用訓練。試験実施と効果評価。インフラ整備、要員集めと教育。運用開始までの期限は1年。
情報伝達に優れた媒体については魔物のファルコンの使役が有力な手段と考えている。飛翔速度が速く、大陸間の移動も可能だ。飛翔系の魔物の中でも上位に位置し、課題は人間との親和性だ。
ファルコンはケルスから西へ20㎞程離れた人気のない海岸にある一際大きな岩山でよく見かけるという。その岩山はゴリラが座って海を見詰めている姿にみえることから「猿岩」と呼ばれている。俺は単身そこへ向かうことにした。
既知の情報によるとファルコンは縄張り意識が薄く、個体での行動を好む傾向があるようだ。俺はまずその生態を自分の目で確かめるために「猿岩」に近づき身を潜める。
居た。ファルコンだ。つぶらな黒い瞳に不釣り合いな鋭く尖った嘴。胸の毛は白く、背中と翼は黒く美しい。体長30cmほどか。個体行動を好むようだが周囲には10数羽のファルコンが居る。理想の捕獲はお互いの意志が合意に達することだが今回は絶対ないだろう。餌付けがいいのではと思ったが何を食べるのか見当がつかない。強引だが雷魔法で痺れてもらうことも有りか?
などと捕獲方法を練りながら観察を続ける。すると沖の方から高速で近づく何かが見えた。一際大きな個体のファルコンだ。速度を落とし岩山に着地する。上位種なのだろうか、一際大きなファルコンは胸の毛が金色だ。体長も倍はありそうだ。もともといたファルコンも泰然と毛繕いを続けている。群れのボスなのか?既知の情報に修正が必要だな。観察継続だ。
観察を続けていると、幼い個体が何匹か混ざっている事に気付いた。魔物は魔力濃度の高い魔力溜りから発生すると言われている。「猿山」も魔力溜りの一つなのだろうか。
「ギャオオオーン」
突然、大きな叫び声が静寂を破る。
ものすごい勢いでワイバーンだろうか、体長3m程の黒い翼のある大きなトカゲが「猿岩」上のファルコン達に襲い掛かった。逃げるファルコン。一際大きなファルコンがワイバーンを引き付けて沖の方へ飛び去る。幼い個体はまだ飛べないようで「猿岩」で取り残され蹲ったままだ。
一際大きなファルコンに引き付けられたワイバーンが反転、再び「猿山」に向かう。体が勝手に動いていた。俺は身体強化を掛けて「猿岩」に向かって飛び出していた。
「ファイヤーボール」
火魔法を放つ。初級魔法なので威力、速度共に当たっても牽制程度だ。ワイバーンが魔法に気付き俺に向かってくる。ものすごい勢いだ。やばい!
「サンダー」「サンダー」「サンダー」
雷魔法を全力で連発した。
“ビカッ” “ビカッ” “ビカッ”
雷撃は直撃したがワイバーンの勢いは止まらない。俺は全力で回避行動をとった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます