第一章 第6話


「ドガ―――ン、ゴキッ、ズズズズ-ン」


 間一髪、ワイバーンの突撃を躱せたようだ。丹田の辺りから暖かな魔力が沸き上がる。


 雷撃を受けたワイバーンは岩場に激突してその勢いで自滅したようだ。そして俺は魔物を倒したときに時々起きる現象、レベルアップをしたようだ。レベルアップは初めて魔物を倒した学校での野外授業以来だ。


 剣を抜き、岩場に直撃したワイバーンの元へ向かう。背中や翼の付け根部分が黒く焦げ、長い首は折れ曲がっている。雷撃を受けて麻痺し岩場に直撃、その衝撃で首が折れ、致命傷となったようだ。ワイバーンは魔物の中でも上位に位置し、通常であれば数人で対峙する相手だ。雷撃を使えるようになっていて幸運だった。


 胸の辺りを切り裂き、何とか魔石と持てる分の肉を確保した。明日にでも商会の人間とここにきて素材回収だなと考えていると、俺の後方に、一際大きな個体のファルコンが俺を見詰めて佇んでいた。穏やかな目をしている。


〈人間よ、助かった。礼を言う〉

 突然脳裏に穏やかな声が響いた。

「ん?この声は……」

〈人間よ驚かせて済まない。助けてもらった礼が言いたくてな。念話を使っている。   お前も使えるはずだ。儂に向かって心の中で呟いてみよ〉

〈あ、ああ。こんな感じでいいですか?〉

〈大丈夫だ。繋がっている。儂の名はホークアイ。ファルコン族の長だ。此処の大岩は魔力の集まる場所で多くの魔物が休みを取るところなのだが、逸れのワイバーンが餌場にしたようで困っていたのだ。今日ものこのこと現れて仲間を襲撃してきたが、幼体が居たため逃げるのに難儀していたのだ。幸いお前が倒してくれて助かった。仲間の被害も覚悟していたからな。何か礼をしたいが欲しいものはあるか?〉

〈そうでしたか。私はナギです。ケルスの商人です。実はファルコン族の力を借りたいと思ってここに来たんですが、ワイバーンを倒せたのは偶然ですよ〉

〈儂らの力を借りたいとはどういうことだ?〉


 俺は、此処に来た経緯を話し、ファルコン族に情報伝達の手伝いをして欲しいと思い切ってお願いした。


〈儂らファルコン族は争いごとを好まぬ種族だ。むろん人族とも争う気はない。但し人との交流は経験が無い訳ではない。明日もう一度ここに来い。仲間と相談してみよう〉


 ホークアイは念話を閉じると飛び去って行った。俺も一度街に戻ることにした。レベルアップの効果か、海岸走り10㎞と同じ速度で走るが疲れる感じがしない。20㎞程の距離を走り切り、商会に戻った。


 夕食時、ワイバーンのステーキを作ってもらった。普段より一品多い豪華な食事となる。塩コショウとニンニクを効かせたシンプルな味付けだが新鮮なワイバーンの肉は美味い。噛みしめると肉汁がにじみ出る。


「美味い。ワイバーンのステーキなんて珍しいな。どうしたんだ?」

「本当に美味しいわ。ナギが今日倒したそうよ。徒歩移動だったから一食分程度しか持ち帰れなかったようね。それでも住込みの社員分には十分足りそうですけど。ナギありがとう」

「そうか、ナギよ有難く馳走になるぞ」


 父さんんも母さんも喜んでくれている。爺さんも夢中でステーキを食べている。ワイバーンステーキの興奮が落ち着いた頃合いを見て、食事を続けながら今日の出来事について報告していく。

 最初はふんふんと聞いていたがワイバーンとの戦い辺りから雲行きが怪しくなってきた。ホークアイとの念話の辺りでは食事の手が止まり、スプーンを持つ手がワナワナと震えている。最後まで話し切った直後、雷が落ちた。


「バカも~~ン」


 どうやら俺が単独でワイバーンに立ち向かったところがいけなかったようだ。体が勝手に動いてしまったこととはいえ、俺も改善が必要だと考えていたところだ。素直に謝った。

 だが、やはり血の気の多いハワード商会の当主と先代当主、武勇伝はご馳走のようだ。ワインを持ち出してきて俺を肴に一時間程盛り上がっていた。翌日は爺さんが付き添ってくれることになった。なんせファルコンとの念話とワイバーンの解体だからな。馬車と見習いも何人か連れていくようだ。


 長い食事を終えて自室に戻り、ステータスを確認した。


ナギ・ハワード(13)

職業:商人

特殊スキル:DEXTERITY

スキル:剣術1、棒術3、身体強化2

    中級魔法火水土風複合

異世界言語


 なんと身体強化→身体強化2、初級魔法火水土風複合→中級魔法火水土風複合が成長していた。特に厳しい鍛錬を積んだわけではないが、レベルアップの影響だろう。それも異常なほどのレベルアップ。ワイバーンは相当格上の魔物だったようだ。




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