第一章 第7話
⑦
早朝、チャールズ爺さん、レイモンド、ボンド、ネイサンの4人で馬車に乗り「猿岩」へ向かう。俺は御者だ。
レイモンド、ボンド、ネイサンは見習い2年目の社員だ。いずれも初等王立学校の友人で平民。卒業後の進路を見つけていなかったようなので俺が誘ってハワード商会に入社した。
もちろん諜報に関して見込みがあると考えていたからだ。特にレイモンドは頭脳明晰で学力で俺は適わなかった。いい分析官になるだろう。ボンドとネイサンは共に上位の成績を収めていたが女癖が悪いというか色男というかとにかくモテる。いい諜報員になるだろう。何れにしても俺が友人として6年間付き合ってきた人間だ。根は真面目で友情に厚く、仲間思いのいい連中だ。後半年もすれば見習いも取れる予定だ。
「「「ご隠居様おはようございます。レイモンドです。ボンドです。ネイサンです。今日は宜しくお願いします。」」」
「ああ、おはよう。ナギが引っ張ってきた見習いトリオか。今日は突然呼び出して済まなかったな。実はナギが昨日ワイバーンを単独で倒したようでな。これから肉と素材の回収じゃ。指示は儂が出す。きっちり働いてくれ」
「「「はい、了解しました」」」
「レ:ナギ、お前本当にワイバーンを一人で倒したのか?学生時代から頭のネジがぶっ飛んだことしかしてなかったが相変わらずだな。昨日の夕飯のワイバーンステーキはお前の仕業か。まぁ美味かったから許す。」
「ボ:その通り、見習い中は大人しくしてたようだが、見習いが取れた初日から何やってんだよ。」
「ネ:全くナギは俺たちが傍にいないと何をしでかすか不安だよ。まぁワイバーンステーキなら毎日とってきて欲しいけどな」
「ああ、三人ともすまんな。迷惑をかける。今度何かおごらせてくれ」
「レ:それじゃあアドニス大辞典でも買ってもらうか。そろそろ新刊が出るはずだ」
「ボ:俺はジェーンのいるキャバレーチョメチョメな」
「ネ:あー、ボンドはジェーン狙いか。じゃあ俺はキャシーちゃんの居るクラブ昇天な」
賑やかに会話を続けていると「猿岩」が見えてきた。その近くにはワイバーンの死体。遠くから見るとクジラが打ち上げられたように見える。岩場ギリギリに馬車を止め、ワイバーンの死体に近づく。「猿岩」を見ると昨日同様10数羽のファルコンが居るようだが、ホークアイの姿は見えない。何れ戻ってくるだろう。その間にワイバーンを処理しておこう。
戦闘から半日ほど過ぎたころなので、腐敗が進んだ様子はない。爺さんの指示に従い、まず、毒尾を切取り樽に詰める。ここから力仕事だ。
翼の切取り。頭部の切取り。背開きにして革を剥ぎ、肉を切り出して樽に詰める。内臓は珍味ということで心臓と肝臓と中身を絞り出した腸の部分だけ持ち帰ることにした。そして手足の切取り。
持ち込んだ樽が満杯になって作業を終えることにした。時間にして約4時間。手慣れて無いせいもあるがとにかくワイバーンがでかいのだ。骨も後日回収に来るようだ。樽と切り出した部位を馬車に積む。満杯だ。翼が馬車からはみ出している。帰りは御者以外は徒歩となりそうだ。
〈シンバ解体は終わったか。区切りが良い様なら昨日の続きを話し合いたいのだが〉
〈分かりました。大岩の方に向かいます〉
「猿岩」を見るといつの間にかホークアイが戻ったようだ。俺たちの作業が終わるのを待ってくれていたようだ。俺は爺さんと目を合わせ頷く。爺さんも察したようだ。
「見習いトリオは馬車を見ていてくれ。もう一つの用事を済ませてくる」
「「「分かりました」」」
3人供察したようだ。馬車の見張りに着く。
〈ホークアイ、お待たせしました。こちらは私が勤めるハワード商会の前商会長チャールズです。私の祖父になります。祖父にも念話を繋ぐことはできますか?〉
〈分かった。今繋ぐ。どうだチャールズ〉
〈お、おお。これが念話か。聞こえるぞ。儂はチャールズ。ファルコンの長よ、宜しく頼む〉
〈儂はファルコン族の長、ホークアイだ。よしなに。チャールズ。さて本題だ。ナギの願い事だが受けようと思う。仲間の命を救ってくれた礼もあるが、ナギから感じる不思議な力に既に儂らは引き付けられているようでな。一族の話し合いでもナギのもとに行きたがるものが続出だ。久しぶりに人間と契りを交わそうと思う〉
〈ホークアイ、申し出を受け入れてくれてありがとう。感謝します。それと、私から感じる不思議な力とは何でしょうか?〉
〈儂もうまく説明できないが、ファルコン族には古くから伝わる伝承がある。儂が長となる遥か前の話だ。魔物も人族もうまく棲み分けが出来ており争いも少なかった頃、魔族が現れ魔物を人族に嗾けた。その時ファルコン族は争いを収めるため人族と契約を交わし、協力して魔族と戦い勝利したという言い伝えだ。その時の人族の一人が不思議な力を発していたと伝えられている〉
〈そうですか。ファルコン族にはそんな伝承があるんですね〉
〈ではナギ、契約を結ぼう。ファルコン族と人族との友情の契約だ。右腕を出せ〉
爺さんと目が合う。うんと頷いている。俺は右腕を差し出す。ホークアイが飛び立ち右腕に止まる。そして鋭い嘴で右手の薬指をついばむ。痛みはないがついばまれた処から暖かく心地よいものが流れ込み体中に広がり消えた。右手の薬指には痣のようなファルコンのマークが浮かび上がっている。
〈これで契約はなった。ナギには「念話」というスキルを与えた。儂ら一族との友情の証だ。一族同士では念話は別の大陸にいても可能だが、別種族が相手だとその距離は極端に短くなる。まあいろいろ試してくれ。それと一族を代表してカプリがナギについていくことになった。儂らに連絡を取るときはカプリを使ってくれ。カプリよ此方に〉
ホークアイが飛び立ち着地すると入れ替わるように俺の肩に一羽のファルコンが止まった。
〈カプリだよ。宜しくね。ナギ。仲良くしてね〉
〈ああ、カプリ、俺はナギ。こちらこそ宜しく。仲良くやっていこう〉
〈ではカプリ頼んだぞ。ナギ、チャールズ、カプリを頼む。そしてファルコン族と人族の友情を大切に育てていこう。ではまたな〉
〈ホークアイありがとう。ファルコン族との事は皆にも伝えます。良き交流が続くよう頑張ります〉
ホークアイは飛び立ち高度を上げて沖の方に飛んで行った。こうして俺は情報伝達に優れた手段としてのカプリのゲットと共にファルコン族との友情の契約を結ぶことになった。責任重大だ。肩の上のカプリと目が合った。黒くつぶらな愛らしい瞳は新たな生活にワクワクしているようだった。
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