第一章 第11話

 追い風を受けたアロー号はケルス沖に出てからもぐんぐんと波を切り分けて東に向かって進む。この世界の帆船による航海は内航路の場合は暗くて海の状況が確認できない時間帯は帆を畳み、錨を降ろして停泊する。座礁を避けるためだ。それに対して外洋航海の場合は陽が落ちても速度を落とし、深度測定をこまめに行いながら進み続ける。今回の航海は急ぐ旅というわけでもないが時間=金の商船だ。当然夜も進み続ける。順調にいけば三日後にはパースの街が見えてくるはずだ。


〈カ:ナギ、つまんな~い。遊んできてもいい?〉

〈ナ:カプリはどこで遊ぶ気だい?まさか空を飛びたいの?〉

〈カ:うん。ザブリとゼブリと一緒に鬼ごっこしたいな~〉

〈ナ:しょうがないな。アロー号が見えない程遠くに行っちゃだめだよ。海の上は目印が少ないから迷子になっちゃうからね。暗くなる前に戻ってくるんだよ〉

〈カ:大丈夫だけど、分かった~ナギありがとう。いってきま~す〉

〈ザ:ナギありがとう。いってきます〉

〈ゼ:ナギありがとう。いってきます。暗くなる前には戻るよ〉


 いってきますを合図に3羽のファルコンが俺から飛び立つ。上空に舞い上がり船の上を3周程廻ってからものすごい勢いで船の進行方法に飛んで行った。もう黒い点としかわからない。普段のんびりしたカプリ達からは想像できないファルコン族の飛翔能力の高さだ。


 今日は出航から二日目。航海は風も天気も良好で航海は順調だ。昨晩も月明かりの中、半帆で進み続けた。視界は360度海だ。移り変わる景色もなく海が続く。退屈しのぎの話し相手もいなくなったので俺は瞑想をしたり、海に向かって魔法の練習をして暇をつぶすのだった。


 太陽がそろそろ西の海原に呑み込まれそうになってカプリ達は戻ってきた。それぞれの定位置に止まると念話が飛んでくる。


〈カ:ナギただいま~。あ~楽しかった。こんなに長い時間飛んだの久しぶり~〉

〈ザ:ナギありがとう。いい息抜きになったよ〉

〈ゼ:ナギただいま。楽しかったよ。ありがとう。そういえば進行方向に陸地が見えたよ。明日は到着かな〉

〈ナ:みんなおかえり。楽しかったようだね。思い返してみたら、みんなは家に来てからあんまり飛んでなかったね。これからは余裕があるときは自由に飛び回る時間を取ろう〉

〈カ:わ~い、やった~。ナギはやっぱり優しいね〉


 俺はドレイク船長にカプリ達がオース大陸が見えたと伝えてきたことを伝えると同時に、パプリに時々自由に飛べる時間を作って欲しいと提案し、快く了承してもらった。


 二日目は日没と同時に帆を畳み、錨を降ろして停泊した。船乗りたちの疲労が蓄積しないようにとの配慮と、オース大陸にもかなり近づいたので、無理をする必要はないとドレイク船長が判断したからだ。どうやらファルコンからの情報をかなり信用してくれているようだ。少数の見張りを残して床に就く。俺もハンモックを船倉の空いてるところにかけて眠る。カプリ達は俺の上に蹲っている。結構温かい。夜半ごろだろうか


〈ナギ、起きて。僕だよ、オルシナだよ。ナギの乗った船の近くにいるよ。デッキに出て来れるかい?〉

〈え、オルシナが近くに来ているのか?今行く〉


 カプリは前回同様オルシナの念話に気付いたようで起きたようだ。ザブリとゼブリはまだ寝ている。起こさないよう2羽を抱えてハンモックから降りてハンモックに戻しておく。昼間、久しぶりにたくさん飛んで疲れたのか、ぐっすりと寝ている。俺はカプリと一緒にデッキへ向かう。デッキに出ると今夜も良く晴れた月夜だった。月の明りで海面が優しく静かに輝いている。


〈あ、ナギかい?こっちだよ〉


 左舷の方向に大きな背びれと黒光りする体を海面に出したオルカがいた。


〈オルシナかい?大きくなったね。前から倍くらい大きくなってないか?〉

〈えへへ、まぁ成長期だからね。まだまだ大きくなる予定だよ。これもナギが助けてくれたからさ。何かお礼をしたいんだけど欲しいものはある?〉

〈ん~。なにも思いつかないな。それにお礼が欲しくてオルシナを助けたわけじゃないしね。そうだ、オルシナに僕の友達を紹介するよ。ファルコン族のカプリだ。俺の手伝いをしてくれてるんだ〉

〈ファルコン族のカプリだよ~。ナギとファルコン族は友情の契約をしたの。だからカプリはこれからもず~とナギといっしょだから、オルシナも宜しくね~〉

〈僕はオルカ族のオルシナ。昔シンバに死にかけたところを助けてもらったんだ。そうか、その手があったか。カプリありがとう。ナギへのお礼を思いついたよ。ちょっと船に近づくね。ナギ右手を海に突き出して〉


 オルシナがゆっくり船に近づいてくる。額の白い星印も大きくなっている。そして顔を海面から出し、青白い何かが二つ飛んできて一つが俺の突き出した右手の薬指に吸い込まれ、もう一つがカプリの額に吸い込まれた。右手の薬指にはファルコンのマークとは別の痣のようなものが浮かび上がりオルカのマークになった。丹田から暖かな何かが湧き上がり体中を巡って消えた。まるでホークアイと契約を結んだ時と同じ現象だ。


〈ナギとカプリにはオルカの友情の証を渡したよ。『収納』のスキルが使えるようになるよ。僕たち海の魔物はヒレしかなくて大事なものをしまうために収納魔法が得意なんだ。あとで試してね。それとこれも使ってね。


 目の前に細いブレスレットが浮かぶ。慌てて手に取った。魔法系のブレスレットのようだ。かすかに魔力を感じる。


〈以前海の底でキラキラ光っててきれいだから取っておいたんだ。効果は判らないけど身に着けていて悪いことはないよ〉

〈オルシナありがとう。スキルもブレスレットも大切にするよ〉

〈オル君私にも友情の証を渡すなんて、太っ腹ね~。でもありがと~。オル君も私の大事な友達だからね~〉


 それから俺たちはいろいろと話した。オルシナの所属するオルカ族の群れは大海を回遊しているそうだ。群れは今南方の海域を回遊しているが、俺の気配が海上にあったので、お礼の機会を逃すまいと単身追いかけてきたようだ。黙って出てきたので急いで戻らないといけないようだ。俺は今回の航海予定を話したら、この辺りは変な魔物は今はいないので大丈夫だろうとの事だった。海上で何かあったら呼んでくれとの事だった。


〈じゃあ、僕はそろそろ行くよ。ナギ、カプリまた会おう〉

〈オル君またね~絶対また会おうね~〉

〈オルシナいろいろとありがとう。気を付けて。また会おう〉


 海の護り神、オルシオとの再会だった。

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