第一章 第10話

 会議から一月ほど経過。季節は初夏。通常はアドニスの普通服となる、三つ揃えにフロックコート、ネクタイなしのハンチングハットスタイルだが、今回はTシャツに商会専用のグレーのサロペット。その上からワイバーンの革鎧を装備している。

 革鎧は動きやすさ重視の部分鎧だ。鎧の肩には商会のロゴの入ったエンブレムが付いている。俺とカプリとオルシナのマークだ。

 武器は黒鉄の崑、背中に背負っている特注バッグパックに斜めに装着している。ロングブーツもワイバーンの革製だ。

 俺はこれから異世界で初めてとなる外洋航海に出る。もちろん諜報組織関連だ。そうそうハワード商会の諜報組織は会議の翌日、「隼」として正式に発足し活動を開始した。トリオも商人へ昇格し隼所属となった。既に隼のメイン業務についてもらっている。


 それはファルコン族の常駐希望者を募った時のカプリの一言から始まった。

〈レイ君、すぐ来れるのは11羽みたい。もう少し時間をもらえればもっと増やせるよ~〉 

 俺も気付いてブレーキを掛けとけばよかったと反省した。素直なカプリは仲間をもっと呼んで俺たちの役に立ちたいと思っていたようだ。


 ファルコン族の協力希望者がめちゃくちゃ増え続けた。しかも世界中から。俺たちは計画の再々変更を強いられた。好意で手伝ってくれるのに無下には断れない。

 騒ぎが大きくなったことも有り、ホークアイにも状況を説明し納得してもらった結果、協力チームを2つに分けることになった。常駐組と非常駐組。常駐組はカプリと同じように固定の人についてもらう。非常駐組は主に書類送付時に臨時で呼出し、運んでもらうことになる。

 各組の入れ替えや非常駐組の運送担当者はファルコン同士で話し合って決めてもらうことになった。とにかく常駐希望者が多かったのだ。そして常駐組の配置はこんな感じになっている。


隼 ナギ=カプリ

隼 レイモンド=キプリ

隼 ボンド=ケプリ

隼 ネイサン=コプリ

祖父 チャールズ=サプリ

商会長 ウィリアム=シプリ

母 シャロット=ソプリ

長兄 リチャード=イプリ

次兄 ヘンリー=エプリ

姉 エリザベス=アプリ

商船長外航フランシス・ドレイク=パプリ アロー号

商船長外航ジョン・ホーキンス=ピプリ  スピア号

商船長外航ヘイハチ・トウゴウ=ププリ  カタナ号

商船長内航メアリ・リード=ぺプリ

商船長内航ヘンリー・モーガン=ポプリ

隊商スティーブ・マクイーン=タモリ

隊商プーラン・デーヴィー=ヤモリ

隊商ジョン・ウェイン=イモリ

本店番頭セバース・チャン=ジブリ

オース支店長 ジェームズ・ハワード=ザブリ

ネシア支店長 ビクトリア・ハワード=ゼブリ


 順次本店に顔を出した該当者にファルコンと対面してもらい運用方法を説明し配布する日が連日続いた。残すはオース支店長のジェームズ叔父さんとネシア支店長のビクトリア叔母さんのみとなり、二人へファルコンを引き渡す大役を俺が受けたのだ。

 ジェームズ叔父さんとビクトリア叔母さんに会うのは学校入学前だった気がする。初めての外洋航海も楽しみだが、久しぶりに会うのがとても楽しみだ。俺は両肩と頭に3羽のファルコンを乗せて港に向かった。


〈カ:わー船がたくさん止まってる。あれ?ナギ、あそこの船に私たちのマークの旗がついてるよ。あの船に乗るの?〉

〈ナ:そうだよ。カプリよく気が付いたね。あの船はハワード商会のアロー号。船長はドレイクさんだよ〉

〈カ:え~と確かパプリが付いてる人ね。パプリきこえる?カプリだよ~〉

〈パ:おはよう。カプリ。相変わらず元気ね~どうしたの?あ、そうか今日だったわね。ナギとカプリがザブリとゼブリを連れてアロー号に乗って一緒に出掛けるの。もう着く?〉

〈カ:うん。もう船が見えてるよ~〉

〈パ:ドレイク聞こえる?ナギたちがもうすぐ着くって〉

〈ド:ん?パプリか。ナギたちがもう着くのか。分かった〉

〈ナ:ドレイク船長おはようございます。ナギです。もうすぐ着きます。今回はお手数を掛けますがよろしくお願いします〉

〈ド:ああ分かった。勝手に上ってこい。見張りには伝えてある。出港準備があるから出迎えは無しだ〉

〈ナ:分かりました。後で船長室に挨拶に向かいます〉

〈ド:ああ、そうしてくれ。じゃあ後で。パプリ船員全員に出港準備を急ぐよう連絡してくれ〉

〈パ:アイアイさ~ アロー号乗員に告ぐ、野郎ども出港準備急げ。これはドレイク船長命令だ~繰り返す。アロー号乗員に告ぐ、野郎ども出港準備急げ。これはドレイク船長命令だ~以上〉

〈ザ:いいな~カプリもパプリも相手が居て。早くジェームズに会いたいな~〉

〈ゼ:同か~ん。僕も早くビクトリアに会いたい〉


 どうやら念話を使ったコミュニケーションは上手く使い熟せているようだ。ファルコン族の気さくな性格もあって社員にうまく溶け込めてるようだし。叔父さんと叔母さんも首を長くして待っているだろうな。俺はアロー号のタラップを登り乗船した。甲板の上では船員たちがてきぱきと出航準を進めている。


「船長、出港準備整いました」

「よーし。野郎ども出航する。目標オース大陸のパースだ」

「錨をあげろ~」

「左舷オール押せ」

「第一マスト帆を上げろー」

「面舵10」

「第二マスト帆を上げろー」


 風を受けた帆が膨らみゆるゆるとアロー号が進みだす。風はどうやら追い風のようだ。



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