第一章 第12話

 オルシナとの再会をした翌早朝。日の出前だが船を出すのに支障はない。錨を上げ、帆を張り再びオース大陸のパース目指してアロー号を進める。2時間程でうっすらとオース大陸が見えてきた。海から見る大陸は初めてだ。海上と違い靄が掛かっているように見える。海鳥が飛んでる様子もうかがえる。


 それから一時間後、帆を下ろし、オールで微調整し、もやい綱を結び錨を降ろしてオース連合国南西に位置するパース獣人国の首都パースに停泊した。早速積み荷を降ろす作業が始まる。

 デッキの船倉部を開放し、手動クレーン(滑車の組み合わせ)で重い荷物を船倉から直接釣り上げ、桟橋に控える台車に降ろす。人手で運べるものは階段を使ってデッキ上のパレットに積上げ別の手動クレーンで桟橋に控える台車に降ろす。桟橋では積み下ろされた荷物を載せた台車が商会の倉庫に運び込まれる。整然と船員たちが動き回る。積み下ろしが終われば次は積み込みだ。鉄などの鉱物、じゃが芋、柑橘類などの農産品、糖蜜、ラム酒などの加工品。荷役はまだまだ続く。


 今回パースで降ろすのはケルスで製造されたバリスタ、ボウガン、大砲だ。少々きな臭いがオース大陸は中央大陸からちょくちょく侵攻を掛けられており、防御を固める必要に迫られているようだ。南西のパース獣人国はアドニス大陸側の国なので差し迫った脅威はないが、中央大陸側に面した北東のメルボ侯国や南東のシドニー侯国は脅威の段階が高いようだ。オース連合国はアドニス王国と友好な関係を築いてきたのでハワード商会としても全力で応援しているところだ。


 荷役の最中にふと昨晩オルシナからもらった『収納』スキルを思い出す。バリスタ一台分の部品が分解されて入っている木箱を収納してみた。一人では持ち上げられないサイズと重さの木箱があっさりと消えて脳裏に収納リストが表示された。もう一つ。もう一つ。もう一つ。もう一つ。面白がってカプリも試したが一つが限界だった。木箱のサイズは1m×1m×2m=2㎥。重量200kg程度か。俺はまだ入りそうだがバリスタ入りの木箱は残0。俺はドレイク船長に念話で許可を取り、タラップを降りて倉庫へ向かう。バリスタの入った木箱を積み上げた場所に行き、収納した木箱をひとつづつ整然と積み上げた。ちょっとずれても再収納してやり直す。要領が判ってきたのでカプリにアドバイスしてやってもらう。一発でうまくできた。興奮したカプリの念話がうるさい。


 収納の能力解析はここまでにして、ドレイク船長と共にハワード商会、オース支店長ジェームズ・ハワード叔父への挨拶に向かった。オース支店は倉庫の隣だった。小売りよりも仲卸を基本に商売をしているようだ。


「ド:ジェームズ様、ただいま到着しました。まだ荷下ろしの最中ですが後小一時間で終わるでしょう。今日中には積み込みも終わる見込みです。それよりも今回は目に入れても痛くないお土産がありますよ」

「ジ:おお、ドレイク、よう来た。積み荷は予定通りじゃな。助かる。おお~ナギか?大きくなったな。うんうん。その黒目が可愛いんだよ。よう来たよう来た。」

「ナ:ジェームズ叔父さん、ご無沙汰しておりすみません。ナギ・ハワード、商会員の一員にようやく成れました。これからもご指導宜しくお願いします。」

「ジ:ナギよ、つれない挨拶は無しじゃ。さあおいで。」

 俺はジェームズ叔父さんに抱きしめられ久しぶりの再会を喜び合った。ドレイク船長も中てられた様だ。目に涙が滲んでいた。


 ジェームズ叔父さんとの再会を果たし、旧交を深めていたが俺の仕事もやらなければならない。俺は主要メンバーを集めてもらった。メンバーはジェームズ叔父さん、妻のキャサリン義叔母さん、従兄の長男オリバー16歳と番頭キーンだ。長女のエバ14歳と次男のレオ13歳は王立学校に越境入学中で不在だ。


 俺は早速ザブリをみんなに紹介して念話を繋いでもらった。いつもの反応だ。手応えを掴んで俺はペアのファルコン族の能力を活用した新通信方法について説明を続ける。


定時通信:近くのファルコン族を呼び、書類を入れた収納筒を指定場所に送ってもらう。同時複数個所OK

緊急通信1:特定の相手に念話をつないでもらう

緊急通信2:広範囲同時に念話を繋いでもらう

通常通信1:自分の配下の一部や全体に指示をする

通常通信2:作業の進捗状況、課題をリアルタイムで伝え、報告させる

通常通信3:商会内の親睦を図る。但し個人のプライバシーは尊重すること

注意事項1:ファルコン族との関係は社外秘とする

注意事項2:ファルコン族との友情を育む行いをすること。害する行為は厳罰に処す

注意事項3:ファルコン族の自由意思を尊重し強制しない

注意事項4:ファルコン族との友好を第一として仲良くすること

注意事項5:偶には自由に空を飛ばせてやること

注意事項6:個人の私用に使わないこと。但しファルコンが同意した場合を除く。


 みんな納得のようだ。ザブリは既にパース支店の面々から可愛がられているようだ。書類収納筒20本が入った箱を5箱置いておく。不足しそうな場合には本店に補充要請をするよう伝える。既に新しい旗印の旗やエンブレムも配布済みのようだ。


 そしてメインイベントだ。説明前にザブリからオース大陸にいるファルコン族の非常駐メンバーに声を掛けてもらっている。ちょうど説明と質疑が終わった頃にそれは現れた。なんと数十羽のファルコンの大群が現れパースの街の上空を旋回している。あちゃ~。またしでかしたようだがファルコン族のやる気のなせる業だ。頼もしい仲間が大勢居るということで勘弁してもらった。通信方法や注意事項は、ファルコン族と人族の関係やファルコン族の生態も含めてレイモンドが極秘扱いのマニュアルに纏めてくれた。その複製を渡して俺の仕事は終わりだ。


 その夜、俺たちはジェームズ叔父さん宅でもてなされた。叔父さんから何度もパース支店に来いと誘われたのには答えに窮してしまったが、俺が父さんと母さんと実の子として接していることを察した叔父さんは涙を流して喜んでくれた。俺も泣きながら対応した。とっても暖かなもてなしを受けたと感じる夜だった。


 翌朝、ジェームズ叔父さん宅を辞し、アロー号に乗り込む。


〈ザ:ナギ、僕をパースに連れてきてくれてありがとう。不安だったけど、此処なら楽しくやれそうだ。僕頑張るよ〉

〈ナ:ザブリ、此処が気に入ったようだね。ジェームズ叔父さんたちは優しいから、困ったことがあれば何でも相談してね。俺も力を貸すからオースのファルコン族とうまくやってね。ザブリなら出来るさ〉

〈ザ:ああ、パースの事は任せてくれ。楽しく頑張るよ。じゃあまたね。ゼブリの事も頼んだよ〉

〈カ:ザブリ、頑張れ~また鬼ごっこしようね~〉

〈ゼ:ザブリまたな。元気でやれよ〉


 俺たちを乗せたアロー号はネシアに向けて出港した。


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