第三章 ㊿
第三章
㊿
シンバ一行との昼食はハワード商会の大食堂で採ってもらうことにした。流石にそこまで準備できなかったからね。
商会員もちらほらと早めの昼食をとっている中、ウィリアム父さんと、シャロット母さんが同席する。
メニューはどうかなと思ったが、敢えてフィッシュアンドチップスに複数のソースを器に付けたものにした。
塩、ソース、タルタルソース、オーロラソース。前世の朴訥な英国風F&Cとは違って華やかな感じだ。
揚げ方もぼてっとした感じではなく、前世の鳥唐のようなカラッとした歯ごたえの衣だ。まぁ、俺が改善したんだけどね。
「これはフィッシュアンドチップスといってアドニスの定番の食事じゃ。お好みのソースに着けてがぶりと行ってくれ。お代わりも出来るぞ。儂のお勧めはタルタルソースじゃ」
「あなた、もういい年なんですからお代わりは一回でやめてくださいね」
「あ、おいしぃ~。コン姉このタルタルもいいけど、オーロラソース?最高に合うわよ」
「あら、本当。オーロラソース?作り方を知りたいね。おいし~」
「コンさんに、カオさん、作り方は後で私が教えますよ。今はたくさん食べてね。シンバさんも遠慮なくどんどん食べて。やっぱり若い女の子と食べるのっていいわね。ナギ、あんたは奥手なんだからカオさんみたいに綺麗な子にもっと積極的に声を掛けていきなさい。同い年のシンバさんはコンさんという許嫁が居るんだからあなたも女の子の友達の一人や二人つくりなさい」
「母さん、僕の事は良いですから。コンさんとカオさんにオーロラ教えてあげてくださいね」
「カオさん、ナギはいつもこんな感じなのよ。本当に奥手なんだから。カオさんさえよければがぶっと行っちゃってね。うふふふ」
「コン姉、後でシン兄との出会いの話もう一回教えて、参考にするわ」
「あら、シンバさんとコンさんの出会いの話なら私も聞きたいわ」
俺を出汁に話題を振って欲しくなかったのだが、女性陣はどうやら上手く馴染めたみたいだ。シンバ氏のニヤニヤ感がちょっときついぞ。ほんの一瞬、カオさんの雰囲気は以前身近に感じていたような気がしたが皆の会話にかき消された。
思いがけないアットホームな雰囲気の早めの昼食会となった。
「シンバさん、そろそろ出発しましょうか」
俺は早めの昼食を終え、紅茶を飲みながら寛いでいるシンバ氏達に声を掛けた。
「学校はすぐ近くじゃなかったんですか?」
「ええ、馬車で十五分程かかります。あ、そうか気付かれましたか。カプリ、ルナご挨拶をしてくれるかな」
<ヤホー。ファルコン族のカプリだよ。宜しくね~>
<わたし ルナ よろしく>
「「「え?」」」
おそらく突然脳裏にカプリの愛くるしい声とルナの気だるげな声が響いて驚いたのだろう。説明しておこう。
「念話です。ファルコン族のカプリは私のバディですが、念話の能力を持っています。結構離れた場所でも届きますのでハワード商会ではファルコン族との友誼を結び、その能力を使わせてもらっています。マーリン校長ともカプリを通じて交渉しましたから、先ほどの時間で済んだんです。因みに妖精のルナも念話は使えますよ。今はカプリが念話を皆さんに繋げてますから話したいことを念じるようにしてみてください」
「なるほど、これがファルコン族の力ですか。父から聞いてはいましたが、実際に使われてみると物凄く有能に感じますね。それに可愛いじゃないですか、ファルコン族」
<カプリちゃん、ルナちゃん宜しく。商店ダイホウのシンバです>
<私はシンバの許嫁のコンよ。カプリちゃんもルナちゃんも可愛いわね。宜しくね>
<え?こんな感じ?私はシンバの妹のカオよ。カプリちゃんルナちゃん宜しくね。二人ともとっても可愛いわ>
<シンバ、コン、カオ宜しくね~>
<うん よろしく>
カプリの念話を楽しんでいるうちにマーリン校長のいる学校に付いたようだ。
◇◇◇◇
ダイジメイ今生陛下からの紹介状を読み終えた白髪白髭長耳の老人、マーリン校長はシンバ氏の目を見て語りだした。
「やれやれ、ダイジメイの大叔父も困ったもんじゃな。儂には俗世に関わるなと言いながらこんな紹介状を書いてよこすなんて、耄碌したんかのう。まぁよい。シンバ殿、はるばる日ノ本からこの老いぼれを当てに来てくれた事には敬意を払う。ご苦労であったな。じゃが儂はそなたたちとメリカへ同行は出来ん」
「え?理由をお聞きしてもいいですか?」
「まぁ、まずは適当に腰かけてくれ。順を追って話そう。メリカ国における長耳族探索については儂も賛成じゃ。この世界をより正常な方向に戻すことになるからの。じゃが今の儂には彼らを探し出すための力が不足しているのじゃ。アドニスに渡りつき、ここの長耳族と会うまでに力を使い過ぎた。それにも関わらず俗世の生活を送り続けたせいで、探索に必要な魔力が回復してないのじゃ」
「そうですか。残念です。魔力を回復する手段はないのですか?」
「そうじゃのぉ、日ノ本の伊勢神宮かアドニス大陸の中央、ハイランドで10年も籠れば戻るじゃろうが、そこまで待てぬじゃろ?それに儂はそんなところに籠るつもりはないからのぅ」
「そうですか。つまり手詰まりってわけですね」
「まぁ手はなくはない。そこにいるナギを連れていけば儂の代わりは十分務まるじゃろう。精霊と友誼も交わして居るし、しばらく見ない間にいろいろと古の力を手に入れたようじゃしな。ナギ、ダイジメイ大叔父から貰った道具を見せてくれぬか?」
「これですか?『如意の錫杖(滅)』です。使用者の思いのままに大きさが変わり、自動修復機能がついていて、魔力を込めて奮えば邪気を滅すると教えていただきました」
(wow、マーリン校長爆弾発言ですよ。よりによって終わりの見えないデスマーチの真最中に、メリカ国に行って探索とか冗談じゃないぞ。シンバ氏の実力を測るにはもってこいのチャンスだけど、流石にそれだけの理由でメリカ行きはないだろうな。さて、どうしたもんか)
「うむ。それとその首飾りじゃ。まだ本来の姿になっておらぬようじゃが、シンバ殿と同行しているうちに本来の力を取り戻すかもしれんぞ」
「“四龍のペンダント”の事ですか?これはハイランドのジョンブルグ族から偶々貰ったものですが、確かにあと一つ宝珠が不足してます。マーリン校長なぜそんなに詳しいのですか?それに『如意の錫杖(淨)』と“四龍のペンダント”があればマーリン校長の代役に足る意味が分かりませんが?」
「なぁに、全て大叔父からの手紙に認めてあったわい。耳長族の居そうな場所でそれらを使えば何かが起こる。まぁ儂から言えるのはここまでじゃがな。どうじゃシンバ殿。儂の代わりにナギが役に立つ証明にはならんが、推薦する理由はわかってもらえたかのぉ。あとは、シンバ殿がナギをその気にさせることが出来るかじゃ。年寄りは傍目で見させてもらおうかのぅ。ふぉっふぉっふぉ」
(www なんか俺詰んじゃったのかな。これ、断れないじゃん… )
「ナギさん、マーリン校長を紹介してもらったにもかかわらず、メリカまで同行して欲しいってことになっちゃったけど、一緒に来てくれないか?正直、同行してくれてもナギさんには何のメリットもないし、ましてやこの件は日ノ本とメリカの間で持ち上がった案件だからアドニスとしての利益も見通せない。俺としては報酬を金銭で出すぐらいしか思いつかないんだけどね」
「ええ、シンバさんの言うとおりだと思います。気持ちも良くわかりますよ。今日会ったばかりの、全くの第三者に同行を依頼せざるを得なくなったんですからね。私も晴天の霹靂ですけど、視点を世界の安定に変えると別のモノも見えてくるんですよね」
「ナギさん、一緒にメリカに行こうよ。私、こう見えても料理が得意なのよ。ナギさんの胃袋を掴む自信あるんだけどな」
(あれ? この感じ、前にもこんなことあったような… )
「ああ、カオさんありがとう。そうだな、胃袋を掴まれるのはちょっと想像できないけど、今夜一晩考えさせてください。商会長にも相談しないといけないし。明日、もう一度話し合いましょう」
「ふぉっふぉっふぉ、若いもん同士よく話し合うがいい。ナギよ、一言だけ助言じゃ。惑星ギーは広い、世界を語るのならその全てを目にせよ、じゃ。どんな選択をするのもお主の自由じゃ、後悔だけはするなよ。シンバ殿にも助言じゃ。事を成すための猪突猛進は時には美徳じゃが、力が有る者でも一人で全てを成すことはなかなかにハードルが高い。信を置くものに時に頼るのも一つの道じゃ。お互いに良く話し合い納得して行動するんじゃ」
何やら意味深のアドバイスをもらい、俺たちはマーリン校長の下を辞した。大きな宿題を持たされて。
◇◇◇
(やれやれ、相変わらず大叔父ははた迷惑な厄介事を押し付けてくるわい。それにしてもナギ・ハワードか。不思議な運命に巻き込まれておるのう。今回は背中を押してしまったが、大叔父の手紙の内容が本当ならやむを得んかもな……)
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