第一章 第18話
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翌朝、コスパの良い朝食を取り、グリニッジの北にあるストーンヘンジに向かう。グリニッジから北には人の住む集落はない。森林とその先には高さ100m、直径500kmを超える断崖絶壁状に切立った大岩の台地。その台地の上は中心部には標高2000mを超えの頂上部を万年雪に覆われたアドニス大山脈とその麓の雪解け水を豊かに湛えた大湖沼地帯があるのみだ。大湖沼地帯からは無数の滝が通年に渡って流れ落ち、幾筋もの河となってアドニス大陸を潤し海へと流れつく。流れ落ちる水によって大岩の台地周辺は鬱蒼と繁る大森林地帯となっている。
アドニス大陸のおよそ半分を占める中央部の大森林、大岩、大岩上部の大湖沼地帯と大山脈は、魔物の巣窟といわれる大秘境となっており、酔狂な冒険者が一攫千金を狙って希少な魔物素材を手に入れようと入り込み、消息不明になったという話をよく耳にする。
北門は利用者が少ないのか俺たちが入った南門の半分くらいの大きさだ。利用する人も少ないようだ。北門を出ると丘陵地帯の先に森林と大岩、その上の真っ白な雪を纏った山々が見える。ストーンヘンジは断崖絶壁の大岩周辺の森林地帯にあるらしい。今日は宿に馬を預けてきたので徒歩移動だ。はやる心を抑えて慎重に道を進む。
2時間程で目印の大岩が見えてきた。ここからは森林の中を進むことになる。カプリには今日も上空からの監視をお願いしている。時々人が使っているのだろうか、鬱蒼と茂った森の中に獣道よりもはっきりとわかる踏み固められた道のような筋がある。俺はその上を進む。2時間程でストーンヘンジに着くはずだ。後30分程で着きそうだという頃、
〈カ:ナギ、先の方に石が立ってる広場が見えるよ~あれかな~ストーンヘンジって~〉
〈ナ:カプリお手柄だ。そこがストーンヘンジだろう。どんな様子だい?あ、安全が確認できるまで高度は下げちゃだめだよ〉
〈カ:うん、わかった~。え~とね、石の柱がい~っぱい立ってて~その上にも大きな石がのっかてるよ~。あれ~なんか石のところにいるよ~。ゴブリンかな~〉
〈ナ:了解。カプリ、近づいちゃだめだよ。見えるだけで何匹位いそうかな?〉
〈カ:え~と、 カプリの指よりたくさんいる~〉
〈ナ:わかった。ありがとうカプリ。これからゴブリンを倒してくるから、カプリは俺が声を掛けるまでそのまま上空に待機だよ〉
〈カ:わかった~。ナギ頑張って~〉
広場らしきものが見えた。俺は木の陰から様子を伺う。カプリが知らせてきたとおりだ。直径100m程の広場に石の柱が立っている。想像よりも大きい石だ。ゴブリンの群れらしきものもいる。遺跡とはいえ救援を求めてきた相手へ影響があるとまずいので、遺跡を傷つけないよう白兵戦一択だ。
「おい、ゴブリンども。そこで何をしている。出てこい」
まぁ意味は通じないと思うが俺に気付いて飛び出してくるのを狙って、広場に飛び出して大声で叫んだ。
「ゴギャ」「ゴギャ」「ゴギャ」「ゴギャ」
4匹ほどが俺に気付いて声を上げながら近づいてきた。粗末なこん棒もどきを握ったゴブリンだった。身体強化を掛け、黒崑を掴んで突貫する。
“ドガッ” “ドガッ” “ドガッ” “ドガッ”
“ドサッ” “ドサッ” “ドサッ” “ドサッ”
首を狙って黒崑を打付ける。首の骨が折れたようで曲がっている。叫び声も上げずに膝から崩れるように倒れた。次々と出てくるゴブリンを黒崑の一撃で屠り続ける。俺の呼吸に乱れはない。やがてボスらしき二回り大きなホブゴブリンが所々さび付いた剣を持って現れ、俺に切りかかってくる。
“ガキーン” “ドガッ” “ドサッ”
俺は右斜め前に移動し、ホブゴブリンの振り下ろす剣に黒崑を叩きつけてへし折り、連撃で首に黒崑を叩きつけた。勝負あり。首の曲がったホブゴブリンは膝から崩れるように倒れた。残心。周囲を見渡し敵の姿が無いことを確認。
〈ナ:カプリ、此処にいたゴブリンは片付けたけど他にまだいるかもしれないから警戒継続頼む〉
〈カ:うん。わかった~。ナギ、カッコ良かったよ~〉
俺は周囲を警戒しながら、ゴブリンたちの死体から魔石を取り出し、魔石と死体を収納する作業を続けた。最近は魔物の死体もいい肥料や飼料になることが判って値が付くようになったのだ。収納万歳!
全ての死体を収納しカプリに降りてきてもらう。俺たちは石柱に向かった。一つの石柱は太さ直径30~40cm、長さ3~4m、大きさにばらつきはあるが20本ほどが直立し数本がその天頂部の乗せられている。風雨にさらされて風化しているようにも見える。何の目的で、誰が、何時作ったのか記録はない。確か前世でもストーンヘンジはイングランドのロンドンの近郊にあったが解明はされてなかった。
中に入ってみるとゴブリン達の食い散らかした残りや意味不明なものが散乱しているが金目のものはないようだ。救援を求めた相手はどこにいるのだろう。ふと気が付いた。石柱の上部空間に淡く光る20cm程の光がふわふわと浮いていた。
〈ル:私 闇の妖精 ルナ 助けてくれて ありがと〉
念話で聞いたのと同じく、弱弱しい声音だった。
〈ナ:俺はナギ。念話で助けを呼んだのはルナでよかったのかな〉
〈ルナ:ん 私 助かった ありがと あ それ…… 〉
たどたどしい話し方だったがどうやら助けを求めて来たのは闇妖精のルナで、俺たちは彼女を助けることが出来たようだ。そして俺の左腕にある魔法のブレスレットに魔力を込めて欲しいとお願いされる。やり方はさっぱりわからないがなんとなく瞑想で練り上げた魔素をブレスレットに注ぎ込むイメージを試してみた。
魔法のブレスレットが青く輝き出し、黒い石も光沢を増す。うまくいったようだ。これ以上変化がなさそうなところで魔素の注ぎ込みを止める。ごそっと魔力が抜けた感じだ。するとルナと思われる精霊の淡い光がスゥーと光沢の増した黒い石の中に入ってしまった。
〈ル:ん これでもう大丈夫 ナギとずっと一緒 安心 やっと休める お休み〉
ルナからの念話が切れると、魔法のブレスレットの輝きが収まりいつもの青銀色に戻る。黒い石の光沢も少し落ち着いた感じだ。ルナが黒い石の中に入って休んでいる?でいいのかな。半信半疑だったが俺たちは昼食休憩を取り、新たな動きが無いのでストーンヘンジを後にし、グリニッジに戻るのだった。
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