第三章 61
第三章
61
目指すエルバト山は北東の方向に白い峰を纏い聳え立っている。アパチ族達を背に乗せた巌の飛行速度に合わせたため、二時間程で数日前に訪れた洞窟の入口に降り立った。大角羊族達もちょうど到着したようだ。
「ナギよ、此処は俺達大角羊族に任せてくれ。お前たちは八岐大蛇の呪いとやらを倒さないといけないのだろう? そっちに専念してくれ」
「分かった。アパチ族の事は任せるよ。でも鍾乳洞通路の先が崩落で抜けられないはずだ。巌を連れて行ってくれ。崩落場所の修復に役に立つと思うよ」
「それはありがたい。巌様、宜しくお願いします」
「巌、アパチ族の事を頼む。ニモさん後で合流しましょう」
「相分かった」
巌はアパチ族を背から降ろすと人化し、大角羊族の背の乗ったアパチ族と共に洞窟の中に入っていった。
「よし、俺達はイエロストンのシンバ達の下に向かおう。初めての場所で土地勘がない上に、シンバ達の状況も不明だ。周囲を注意深く観察しながらいこう」
再び大空に向かって飛び立った。エルバト山の山頂を北方向に進むと赤茶色の崖が延々と連なるグランドキャニとは別世界の、水と緑が豊富な渓谷が広がっていた。所 々に水蒸気や間欠泉が噴出している。イエロストンは水と緑が広がる大渓谷だった。
先行する焔から念話が入った。
<主殿、前方に魔物の群れと酒呑童子たちが居る。争っている様子はない>
<わかった、焔は上空で警戒をしててくれ。薄氷は周囲の探索を継続してくれ。野分、酒呑童子たちのところに向かおう>
<<<相分かった>>>
野分に酒呑童子たちに近付いてもらい、カプリに念話を繋いでもらう。
<酒呑童子、何があったんだ? シンバ達はどこだい?>
<おお、ナギの兄貴、ご無事でなりよりです。この魔物の群れはキンコング族です。八岐大蛇の呪いを御館様達が払ってくれました。ただ、呪い解呪の影響で気を失ったままだったので、儂らが見守っていたところです。御館様達は、あっちの、あの大きな岩山の方向に向かいました。それにしても見たことのない見事な龍ですね>
<ああ、野分だ。新しく仲間になった。機会があればまた空中散歩しよう。じゃぁシンバ達のところに向かうね>
<<<<<<ご武運を>>>>>>
酒呑童子が示したシンバ達の向かったという方向には、頂上が平らな大きな岩山があった。見た目はテーブルマウンテンだ。
“五感強化”で視覚を強化すると見通しが良いため、テーブルマウンテンの麓に玄武が陣取っているのが見えたた。シンバ達の姿はない。
<主、大きな岩山に向かう魔物の群れがある。これは… 百を超えているぞ。ものすごい勢いで近づいてきてる>
俺の視界にも魔物の群れが入った。
<ん あれ 気持ち悪い ルナ 嫌い>
ルナには近づく魔物の群れは気持ち悪いらしい。ここまでルナが自発的に感情を表すのは珍しい。
<玄武、ナギだ。視界に玄武と近づく魔物の群れを捕らえている。状況を教えてくれ>
<ナギよ、ようやく来たか。あれはバイソン族の群れだ。どの個体も目が赤黒く光っていて八岐大蛇の呪いに掛かっているようだ。シンバとしては全滅ではなく、拘束したいようだ>
<ナギ~、シンバと繋がった~>
<シンバ、聞こえるか? こちらナギ。今、玄武達と合流した。この魔物の群れは倒していいのか?ルナの見立てではこいつら気持ち悪い気配だそうだ>
<あ、ナギか。助かった。出来れば拘束で頼む。おそらくそいつらの呪いを解呪して浄化する必要がある。中途半端に倒すと呪いが逃げるんだ。今そっちに向かう>
<分かった。拘束を何とかやってみる>
シンバからの要望は玄武から聞いていたのと同じ魔物の群れの拘束だった。
<薄氷、この魔物の群れを拘束できるかい?>
<主殿、お任せを!全力の氷のブレス、久しぶりにお見せしましょう>
確か、薄氷のブレスは、日ノ本視察からの帰路、中央大陸南岸沖の火山島でオルシナ達とサハギン族殲滅戦の際、目にしたはずだ。あれは全力じゃなかったのか?
玄武の前に降り立った薄氷から魔力が溢れ出す。
“ビュウウウウウウウウウウウウウウウウウ… ”
白い氷の粒を無数に含んだ凍てつくブレスが放たれた。ブレスに触れた空気、地表、バイソン族の群れが一瞬にして凍り付き動きが止まる。
かつて戦闘で見たブレスとは桁違いの魔力が含まれていた。絶対零度の凍てつく波動だ。バイソン族の動きは瞬時に止まり、辺り一面銀世界となった。
<主殿、拘束完了です>
<流石、覚醒した四龍の一角、薄氷殿だ。桁違いだな>
<薄氷、良くやってくれた。でも… バイソン族生きてるよね… >
<主殿、ご安心ください。強制冬眠のようなものです。自然解凍で元に戻ります。うふっ。久しぶりの全力ブレス、心地いいです>
確か、再会直後の野分が、四龍の本当の力は強大だから使い道を誤るなと言っていたが、マジだった。彼らの力の使い道には特に気を付けようと心に誓った。
どうやらシンバ達が到着したようだ。玄武の背に飛び乗ったシンバとコンとカオの姿が見えた。
「これは一体… 何が起きたんだ? 玄武、お前が極寒ブレスででやったのか? 全て凍り付いているぞ…… 」
<シンバよ、面白い見世物を見逃したようじゃな。圧巻じゃったぞ。流石、高天が原の伝説の龍族じゃ>
洞窟前の一面の銀世界、バイソン族の群れも、大地も、清流も全て真っ白に凍り付いている景色を見てシンバが唖然としている。玄武はそんなシンバ達のリアクションを見て楽しんでいるようだ。
<シンバ、早かったな。一応注文通り拘束しておいた。二重にね。半日はこのままだと思うけど、解呪と浄化を頼む>
上空にいる俺を乗せた野分と焔、薄氷を見上げてギョッとするシンバが居た。四龍の見た目の違いに気付いたようだ。
<分かった。カオ行けるか?できれば複数回頼む>
<大丈夫よ、なんか大分余裕がある感じ。さっき、八岐大蛇の呪いを解呪した時にレベルアップしたかも>
<じゃぁ、ナギさんにいいとこ見せないとね。頑張って、カオちゃん。うふふ>
「いくわよ、臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前 『解呪』」
『浄化』『浄化』『浄化』『浄化』『浄化』『浄化』…
「「「「「「「ギィィヤァァァ…… 」」」」」」」
以前のカオの魔法の威力は見たことがなかったが、レベルアップの影響だという、カオの『解呪』の範囲は凍り付くバイソン族のほぼ全範囲に広がった。
凍り付くバイソン達の口から次々と黒い靄が噴出される。そしてシンバの『浄化』により、黒い靄は断末魔の声を上げながら消えていく。
「もう一回、臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前 『解呪』」
『浄化』『浄化』『浄化』『浄化』『浄化』『浄化』…
「「「「「「「ギィィヤァァァ…… 」」」」」」」
“バリン”
「ブモォォォォォォ―」
ひと際大きな個体のバイソンが突然凍てつく拘束を打つ破り、大きな唸り声を上げてシンバ達に向かって突進した。こいつの目は赤黒く輝いている。
あの拘束を破るとは相当の戦闘力を持っているのだろう。
『結界』
「ガシャァァァァァン」
間一髪、シンバが玄武の数m前に張った『結界』により突進は止まったが、『結界』が粉々に砕かれて消えてしまった。
奴は頭を上げて赤黒く光る眼でシンバ俺を見据えると、後ろ足を交互に動かし力を溜める。よく見ると角にも魔力を集めて強化しているようだ。
再び頭を下げて角を前方に突き出し突進を始めようとした。
(これ、まずいんじゃないか?)
俺の身体が勝手に動いた。いや、無意識に行動に移った。
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