第三章 58
第三章
58
ニモさんと焔の背に乗り、広大なグランドキャニ大峡谷の上空からアパチ族の居そうな強大な魔力溜りを探す。既に捜索を始めてから二日目の陽も暮れかかっている。
俺のバディであるファルコン族のカプリと、闇妖精ルナにも協力してもらってるが、アパチ族の痕跡は中々見つからない。
シンバ達との念話交信を試みるがこれも思うように繋がらない。辺りの魔力溜りの強力さとあちこちに仕込まれた結界の影響だと思われる。
<…るか? あっ繋がった。シンバ聞こえるか?こちらナギ。ニモと一緒だ。無事か?>
<ああ、こっちは問題ない、全員無事だ。筋肉ゴリラのキンコングはあの後なぜか撤退した。プロフィットもエルバト山中にいる事が確認できた。チェロ族と灰色熊族が守ってる。親書も渡してある。俺達は今イエロストンだ。八岐大蛇の呪いにかかったキンコングとナボハ族、キンコング族の救出に向かってるところだ>
<了解。こちらはグランドキャニでアパチ族の探索をしている。想定外の広さで難航してるよ>
<ナギさん、無事だったのね。もう~心配したんだから。早くこっちに合流して>
<カオちゃん、心配かけてごめん。アパチ族の状況が確認出来たらすぐ向かうよ。カオちゃんも無理しないでね>
<必ずよ。絶対来てね>
<ナギ、カプリの念話はこの後も継続して繋がるのか?>
<それが良くわかってないんだ。この辺りの魔力溜りは魔力がめちゃくちゃ高いうえに、あちこちに結界が張られてるようなんだ。どちらかが魔力溜りに近づきすぎたり、結界の中に入ったら念話は途切れると思う。継続して繋ぎかけるから繋がったらラッキーって感じでいこう>
<分かった。それと八岐大蛇の呪いの件なんだけど伝えておきたい。裏には蛭子神が居る。創世神話の裏で見捨てられた神の成れの末だ。黄泉国を支配し地上世界に恨みを持っている。その手下が八岐大蛇だ。その呪いを解くには… ジジジ…>
またしても途中で念話が途切れた。そのタイミングでルナから何かを発見した連絡が入った。
<ナギ あそこ 魔力強い>
幾重にも連なるように重なっている赤土の巨大な崖に囲まれた谷のような場所に、珍しく緑豊かな場所が現れた。あそこがどうやら大きな魔力溜りのようだ。
<ルナ良く見つけてくれた。カプリとルナはそのまま上空から警戒を頼む。焔、あの谷に降りてくれ>
<分かった~>
<ん>
<相分かった>
緑豊かなサバンナのような谷底に降り立ち、焔と薄氷には人化の状態で周囲の警戒をしてもらう。聳え立つ断崖絶壁の方向から一頭の大きな巻き角を頭の左右に纏った四足歩行の何かが近づいてきた。何かに気付いたのか、ニモさんが俺に語り掛けてきた。
「シンバさん、あれはアパチ族と行動を共にする大角羊族です。ああ、死の谷にこんな場所があったなんて。間違いなくこの近くにアパチ族がいるはずです」
「やはり正解ですか」
<カプリ、ルナ戻ってきてくれ>
カプリとルナが俺の両肩に戻ったタイミングで、近付いてきた大角羊族は立ち止まった。漆黒の巨体は三m程、巻き角の直径は一mはありそうだ。
<人間にアパチ族、それに龍族か。更にファルコン族と妖精、珍しい組み合わせだな。此処は我らの聖域だ。何をしに来た>
<私はナギ・ハワードと言います。メリカ国大統領の使者として、プロフィット様に会いに来ました。しかし、エルバト山の洞窟で崩落に会い、道が閉ざされ仲間とも隔絶されてしまいました。幸いなことに別れた仲間はプロフィット様に大統領の親書とその願いを伝えることが出来たようです>
<そうか。用事は済んだようだな。すぐさま帰るがよい。まさか帰り道が判らないという事でもあるまい>
<それがどうやら面倒事に巻き込まれているようで、アパチ族の様子見とお知恵をお借りに来ました。実は我々が巻き込まれた崩落の原因がキンコング族の仕業だったようです。そしてそのキンゴングはどうやら八岐大蛇の呪いにかかっているようです。我々は元凶を取り除きたいと思っています>
<やれやれ、俄かには信じられんが、まぁいいだろう。資格はあるようだ。アパチ族の族長に合わせよう。ついてこい>
大角羊はくるりと向きを変えると歩いてきた方向に歩き出した。俺達は黙ってついていった。やがて緑の谷のはずれ、巨大な崖が聳え立つ場所で止まった。
<うん ここ 前の洞窟の入り口と似た魔力>
<ナギ・ハワードよ。此処でお前の得物を使ってみよ。その資格の真偽を確かめよう>
ルナと大角羊族、二つの念話の解は直ぐにわかった。俺は“如意の錫杖”を取り出し、魔力を込めて崖にたたきつけた。
「ドゴッ」“シャリーン”
崖の一部が一瞬輝き、音もなく直径三m程の入り口が現れた。
<ふむ。やはりか。ついてこい>
洞窟に入っていく大角羊について俺達も入っていく。内部の通路は所々に松明のようなものが据え付けられていて歩くには十分な明かりが確保されている。
数分も歩くと大きな空洞となり、いくつもの円錐状のテントのようなものが並んでいる場所に着いた。その中でもひときわ大きなテントの前に導かれた。
<ここでしばし待ってくれ。族長と話してくる>
大角羊が大きなテントに入ってからニ十分ほどたった時、俺達はテントに入るよう促された。
「儂はアパチ族の族長コチーズじゃ。俄かに信じられぬ話を大角羊族の族長ビッグホンから聞いたが、いくつか質問をさせてくれ。返答次第で話し合いは打ちきりじゃ。心して応えよ。お前は何者じゃ? なぜ八岐大蛇の呪いを知っておるのじゃ?」
「話し合いの機会を頂き感謝します。コチーズ族長。私はアドニスから来ましたナギ・ハワードです。メリカ国大統領の使者です。大統領閣下はプロフィット様と先住民との絆を結び直したいと考えておられます。それがメリカの大地の繁栄のために必要だと。そのために必要なプロフィット様や先住民の人権を担保する用意もあるようです。我々はそれを伝えるために来ました。想定外の邪魔が入り、我々は仲間と分断されましたが、大統領閣下の親書はプロフィット様の手元に届いております」
「ふむ。それは聞き捨てならん話じゃ、いずれ真偽は確認せねばのぅ。だがな、ナギ・ハワード、お前は何者じゃ? なぜ龍族やファルコン族と共にいる?」
「う…」
(いきなりそこか… 素直に話すしかないか、俺が俺としてわかっていることを)
「コチーズ族長、“転生”と云う言葉をご存じですか? そして、この世界に存在する“稀人”をご存じですか?」
「なんと、質問に対して質問で返すとは… まぁいい。知っておる。お主が“転生”した“稀人”だということかの?」
「その通りです。私は… 」
俺は、前世の記憶を持ったまま惑星ギーのアドニス王国に転生してから、今日までの履歴を話した。オルカ族、ファルコン族、妖精、耳長族、ジョンブルグ族、龍神様、天照大御神様、日ノ本天孫様との出会いと友好、導き、素戔嗚尊の生まれ変わりの者との出会い等、真実を嘘偽りなく話した。
俺が月夜見の尊の生まれ変わりだという事も伝えた。そして、出会いの中で多くの能力を賜ったことを話した。
「コチーズ族長。ナギ・ハワードは間違いなく月夜見の尊様の生まれ変わりです。私は彼の話を信じます」
突然、同席していた大角羊族の族長ビッグホンから発言があった。
「ビッグホンよ、儂も同意じゃ。ナギさん、疑って悪かった。話しにくい事を我らに語ってくれた事感謝する」
どうやら俺は、月夜見の尊様の生まれ変わりということでファイナルアンサーとしてくれたようだ。
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