第13話 スクールアイドル研究会:坂崎未梨亜の戸惑い

 清心女子高スクールアイドル研究会の重要な助っ人として呼ぶことになる大津颯太おおつ そうた坂崎未梨亜さかざき みりあは中学校の3年間、ずっと同じクラスで、背の順で同じ1番前という間柄だった。背が低いのは仕方がない。親譲りだ。未梨亜には諦めがあった。両親共に160センチ以下で、母は150センチない。どうやら身長が伸びないのは母譲りだったらしい。


 いくら背伸びしても、クラスのマスコット的なキャラクターから脱することはできなかった。自分でも童顔だと思う。鏡を見ても中3のときでもまだ小学生ではないかと思うことがあるくらいだった。


 中3の初夏のことだ。全校集会で体育館に生徒が並ぶ中、まだ集会が始まらないので、みなそれぞれ雑談していた。こういうときに未梨亜が話す相手が大津だった。なにしろ隣だ。


「大津くんは、背が低いのあんまり気にしてないね」


「俺? ううん。そんなことないよ。160センチは欲しいなあ」


「やっぱり……でも、どうして?」


「将来、好きになる女の子が俺より背が高かったら、やっぱり女の子の方が気にするだろうから」


「意外と人目を気にするんだ?」


「気にしないでくれる人ならいいんだけど、背が高いに越したことはない」


「なら、あたしだったらたぶんその点は問題ないね」


 未梨亜がそう言うと大津は固まった。


「……仮定の話だよな?」


「仮定というか、単に条件」


「それはそうか」


 恋愛対象だと思われていないことは重々承知だ。自分のようなお子ちゃまを誰かが好きになってくれるなんてこと、あるはずがない。そう思う。


 副校長先生が舞台袖でマイクを手にした。そろそろ集会が始まるようだ。2人の会話はそこで途絶えた。




 それまで未梨亜にとって坂崎は都合のいい話し相手に過ぎなかった。だが、未梨亜が坂崎を見る目は後に劇的に変わる。それには2度のきっかけがあった。


 最初は週末に、母親と一緒に駅前の雑貨屋や服飾店がいっぱい入った商業施設に行ったときのことだ。まだ開店ちょっと前の時間で駅のロータリーを通りかかったとき、音楽が聞こえてきた。どこかのお店のBGMではなさそうで、電子キーボードの演奏だと耳に入った瞬間、未梨亜は理解した。


 気になってそちらに目を向けると電子キーボードをスタンドに置き、立ったまま演奏して歌う少年を見つけた。全身真っ黒だが、スタイリッシュに決めている少年だ。未梨亜はその輪郭だけで大津だと分かった。


 未梨亜は母親の陰に隠れて大津の視界から逃れた。何故か、見てはいけない気がしたからだ。母親は訝しんだが、すぐに分かったようだった。


「もしかして、知り合い? もしかして、好きな子?」


「ええっ! そんなわけないじゃない!」


 そう言いつつ、未梨亜は陰からこっそりと大津を見る。大津の前に足を止める人はほとんどいない。しかし懸命に歌っている。駅前の一部がストリートミュージシャンに開放されていることは知っていたが、まさかクラスメイトがそんなことをしているとは思わなかった。なかなか上手い。惹かれるものがあった。普段はぼーっとしている大津にこんな特技があるなんて未梨亜は思いもしなかった。


 未梨亜は母親の陰に隠れつつ、開店と同時に逃げるようにして商業施設に入った。


 それからは気になって、週末には駅前ロータリーを見に行くようになった。見つかったら見つかったで話のネタにするだけだが、念のため、変装をした。ボーイッシュな格好をして帽子を被って、長い髪をまとめて帽子の中に入れてしまえば、どこからみても小学生男子だ。悲しいことだが事実だ。大津に気付かれる可能性は低いと思った。


 大津は晴れていれば毎週末の午前中、歌って演奏していた。なにがそんなに楽しいのか分からなかったが、そもそも自分も何故見に来ているのか分からなかった未梨亜だった。大津の演奏は上手いし、歌も上手い。だが、自作と思われるナンバーは、詞はそこそこいいが、曲はもう1つ何か足りなかった。素人の未梨亜ですらそう思うのだから、耳が肥えた人にはきっと聞くに堪えないのだろうと思った。


 もう1つの切っ掛けは、理科の小テストに惨敗したことだった。その頃、未梨亜が窓側の席の1番前で、大津がその後ろという席順だった。天を仰がざるを得ないくらいのひどさで、後ろからのぞき込んだ大津があっと声を上げてしまうくらいだった。


「見たな~~」


「そんなに嘆いていたら気になるだろ?」


「元素記号なんて覚えて何になるんだ~~!」


「日常的に必要だろ。コロナ禍の時に次亜塩素酸水をなんでもぶちまけて消毒するのが流行ったけど、あれって危険なのに『水と塩だけでできているんだから危険なはずがない』って一定数の人が言って平気で身体にも使っていたんだ。これって今やってる理科の勉強を理解していれば、単に混ぜることと化学反応させて別の物質を作ることの違いなんてすぐ分かるわけでさ。非科学的な風聞に惑わされないためにも、ネットリテラシーを高めるためにも勉強は必要。勉強してないとすぐに人間は騙されるからね」


 大津からものすごい返しがあって未梨亜は引いた。


「反論の余地も与えられなかったあたしはどうすればいいんだ?」


「簡単なことさ。一緒に勉強しよう。僕は理科が得意。坂崎は英語が得意だろ。お互いの不得意を補えばいいんじゃないかな」


 そうすると大津は机の中から英語の小テストを出して未梨亜に見せた。確かに、未梨亜の理科の小テストと大差ない悲劇的な点数だった。


「うん。わかった。それはいい。1度、放課後居残りでクラスメイトと勉強なんてしてみたかった。アオハルだもん」


「調子いいなあ」


 大津は笑った。笑っている大津は、真面目な顔で演奏している駅前ロータリーの大津とは別人に見えた。


 その日から大津と未梨亜は放課後の教室に残って勉強を始めた。そもそも大津は単語を暗記していなかった。これでは英語の成績が悪くて当たり前だ。一方、未梨亜も元素記号を覚えていなかった。初日からお互いを罵り合ったあと、自習中に英単語と元素記号を質問し合うといういささかけんか腰の勉強会となった。しかしその甲斐あって、1学期の期末テストでは理科でもいい成績がとれた。わからないからといって放置していたから成績が悪かったのだ。それは大津の英語も同じだった。


 お互いの成績を確認し、開け放たれた窓から吹き込む風に前髪を揺らす大津を見て、未梨亜はちょっと違和感を覚える。


 大津くんはこんなにいい顔をして笑っていただろうか。


「やったな。これなら西高目指せるな!」


 西高というのはこの辺で一番の公立進学校だ。


「そうだねえ。あたしたちの成績ならそこそこ可能性あるね」


 そう言いつつ、もしかしたら大津と高校でも一緒かもしれないことに思いを馳せ、未梨亜は何故か胸が高鳴るのを感じていた。




 成績が上がったのは大津のお陰だ。大津も上がったのでバーター取引かもしれないが、恩は恩だ。勉強の習慣がついたのは間違いなく大津のお陰だ。


「未梨亜。ちょっと収穫を手伝ってくれない?」


 母親に声を掛けられ、未梨亜は掃き出し窓から庭に降り、サンダルを履く。未梨亜の家では家庭菜園をしている。今年はブラックベリーが豊作で、メチャクチャ大量に実が成っていた。


「うん。こんなにいっぱい、どうするの?」


「まずジャムにでもするかねえ」


 母親は苦笑いする。ダメにするのはもったいなさ過ぎる。ご近所に分けようか。それともお菓子でも作って学校に持っていこうか。未梨亜の特技はお菓子作りだ。


「うん。そうしよう」


 未梨亜は大津にこのブラックベリーを使ってお礼に何かお菓子を作ろうと決める。好き嫌いはあるかもしれないが、ブラックベリーが嫌いという人はそんなにいないはずだと未梨亜は自分に言い聞かせる。


 さっそくブラックベリーを収穫し、未梨亜はジャムを作りながら、スマホでブラックベリーについて調べる。どうやら花言葉ならぬ実言葉なるものがあるらしい。


「『あなたと共に』……か。ちょっとくすぐったいな」


 そう言葉にすると大津と一緒にいる自分を思い出す。その気持ちも、大津がいる感覚も。ジャムを作って、タルトにする。レアチーズをトッピングして重くて濃いブラックベリータルトだ。オーブンの中で焼き上がると黒くつやつやと輝いていた。


「まだ、いるかな」


 焼きたてを上げたくなって、未梨亜はブラックベリータルトをタッパーに入れ、駅前に急いだ。まだ12時前だ。普段なら大津がまだ駅前で演奏している時間だった。


 自転車で駅前まで行き、ロータリーで電子キーボードを片付けている大津を見つけた。


「大津くん!」


「お、坂崎。どうした? 買い物か? ――ああ、見つかっちゃったか」


 大津は苦笑する。駅前でこんなことをしていても学校では話題にならなかったのは変装していたこともあるが、大津自身が地味だからでもある。


「まだいてくれてよかった。あのね、これ。勉強を教えてくれたお礼!」


 そして自転車の前かごからラッピングも何もしていないタッパーを取り出し、大津に差し出す。


「あたしが作ったんだ。食べて!」


「え、なに、これ」


「ブラックベリータルト」


 大津はタッパーを受け取り、蓋を開ける。まだ温かい気配がある。


「おお。すごい。いただくよ」


 大津はブラックベリータルトを一口で半分食べる。


「おお、まだ温かい。できたてだ!」


「できたてを食べて貰えてよかった」


「ちょっと酸っぱいね。ブラックベリーらしくていい。レアチーズもあってる」


「オーブンで焼いたけどね」


「美味しい」


「ありがとう」


 タルトは4つ持ってきたが、大津はその場で全部食べてしまった。


「ごちそうさま」


 そしてタッパーを未梨亜に返す。


「家に持って帰ればよかったのに」


「美味しかったからってのとタッパーを返すのが面倒くさかったから」


「嬉しいけど、そんな面倒くさい?」


「学校で返して誰かに見られたら面倒だ」


「ああ、そういうこと……」


 一応、女子として認識して貰っているらしい。それは喜ばしいことだ。


「ごちそうさまでした。今度は聞きに来てよ。張り切るからさ」


「大津くんは歌がうまいね」


「なんだ……聞かれてたのか」


「前にね」


「親が音楽関係でね。しごかれているんだ。こんなサブカル的なことをしているのは親への反発」


「自覚があるならいいじゃない?」


「そうだねえ――そろそろ受験勉強に専念しないとだし、そんな頻繁にはやらないけどね」


「ストレス解消になればプラスになっていいんじゃない」


「ため込むよりずっといいだろうね」


 大津と未梨亜は2人して笑った。


「坂崎はどこに進学するの?」


「うーん。成績的には頑張って西高を狙いたいんだけどね」


「頑張れば手が届くんだから、やっぱり行きたいよね」


 そういう大津はとても穏やかな笑顔をしていた。


 未梨亜はこんな穏やかな彼と一緒にいる時間が、とても大切に思えることに、気がついたのだった。




 未梨亜はお菓子作り以外の趣味がないので、その夏は大いに勉強をした。もちろん、西高に行くためだ。大津のことを意識していなかったといったら嘘になる。高校でも大津と過ごせる時間があれば嬉しい、と認識はしている。その先のことは分からない。これが恋なのか、分からない。ブラックベリーの実言葉『あなたと共に』という気持ちが今の自分にぴったりだと思う。甘酸っぱい気持ちまで、同じだ。


 未梨亜の成績は安定して上がり、西校の合格圏に無事、入った。大津も順調に成績を上げ、合格圏に入ったようだった。お互いそう報告し、高校でも一緒だと言葉にはしなかったが、そう信じていた。


 しかし転機は訪れる。それは父からの突然の希望だった。この成績ならば清心女子高を狙える。できれば未梨亜には私立に行って欲しい、と。女子高なら更に安心だとも付け加えた。清心女子高は厳しい校風と男子禁制で知られた名門女子高だったからだ。


 未梨亜の外見上の幼さから心配してくれているのは分かった。何しろ小学生に間違えられるくらいだ。共学に行って、何か間違いでもあったら困ると考える父の心配も分かる。それに今まで未梨亜は親の言うことをほとんど無条件に聞いて生きてきた。


 だから、清心女子高を第一志望に変えてしまった。


 清心女子高に合格したが、西高の受験にも行った。西高も合格もした。最後の最後まで迷った。しかし結局選んだのは清心女子高だった。親の希望を叶えてあげたかった。


 同じ教室にいる大津に、清心女子高を選んだことを伝えられないまま、未梨亜はそのまま中学を卒業してしまった。


 大津の連絡先は知っている。知っていても、未梨亜には連絡する理由が見つからない。一緒に西高に行こうと約束したわけではない。それでも裏切った気持ちが、未梨亜の中にはあった。



 清心女子高に入学し、新入生代表の西園寺澄香さいおんじ すみかのあいさつを聞いていても、未梨亜の中には後悔しかない。周囲には女子しかいない。集会の時にはいつも隣にいた大津は、ここにはいない。西高に行ったら、きっと近くに大津がいてくれたはずだ。


 そう考えると悲しくなった。


 隠れて大津の街頭セッションを見に行った。


 大津は西高入学で、大手を振って音楽活動を再開していた。新曲も披露していた。声を掛けたかった。だが、裏切り者だと自覚している未梨亜にはそれはできなかった。




 転機が訪れたのは、それからすぐのことだ。


「未梨亜ちゃん、お願いがあるんだけど」


 クラスメイトになった美浜翠みはま みどりが未梨亜の席まで来て言った。翠は長い髪に切れ長の目のイケメンで、ちょっと男の子のような印象を受けるが、かなり美形の部類だ。クラス内でも頭1つ抜けているかわいさだ。


「……なあに、美浜さん」


「これ、受け取って欲しいんだ」


 翠は未梨亜にカラーコピーのちらしを手渡す。


「……スクールアイドル研究会?」


「そう。アニメのラブライブは知ってる?」


「……一応」


「ワタシは現実にスクールアイドルになりたくて、清心女子高を選んだ。なぜならこの学校は美少女率の高さで知られているし、学校の音響設備や講堂も最新だから」


「驚いた。そんな理由でこの学校に進学できるほど、偏差値低くない」


「一念岩をも通すという奴だよ。未梨亜ちゃんはスクールアイドルにぴったりだ。ワタシが考えているメンバー構成に欠かせない!」


「どうせロリ担当とか言うんでしょ」


「バレたか……」


「おあいにく様ですが、あたし、今、とっても悩んでいるんです。なのでお誘いはありがたいのですが、お断りします」


「まあそういわずにデモを見に来てよ。気が変わるかもしれないからさ」


 チラシには金曜日の放課後デモをやると書いてあった。3日後だ。場所は校内の中央広場にある屋外ステージ。


 翠は小さく手を振って自分の席に戻っていった。



 断ったものの、未梨亜がスクールアイドル研究会のチラシを捨てることはなかった。捨てはしなかったが見ることもなかった。何故なら未梨亜は1回見ただけで日時を暗記してしまったからだ。


 何故だろうかと考える。その答えはすぐに分かった。大津が毎週街頭セッションをいて音楽の道を進んでいるように、自分もアイドルというカタチで音楽と向き合えと運命が言っているように思えたのだ。同じ音楽の道を進み、同じ街で暮らしている以上、どこかで交わるはずだ。そう思えてならなかった。


 放課後、偶然、屋上で音楽を鳴らしながら踊っている翠の姿を見かけた。もう1人いた。新入生で1番かわいいのではと評判の新宮早月にいみや さつきだ。あのかわいい2人ならスクールアイドルもできるかもしれない。しかしそのためにはスタッフが圧倒的に足りない。どうすればいいんだろう。


 そう考えながら、金曜日の放課後はやってきた。未梨亜はデモの場所である学校の中央広場にある屋外ステージに行く勇気はなく、街路樹の陰からそっと隠れてみることにした。


 2人は屋外ステージでチラシ通りの時間に踊り始めた。曲には聞き覚えがあった。ラブライブのシリーズで劇中に流れた曲だ。


 2人は本気だった。


 本気でステージを作ろうとしていた。その気持ちが、木の影から見ている未梨亜にも伝わってくる。無人なのに、誰も見ていないかもしれないのに、あたかも目の前に大勢のファンがいるかのように全力で、笑顔で踊り、歌っていた。


 すごい。


 素直にそう思った。大津も同じような気持ちで毎週街頭に立っているに違いなかった。そう考えると自分もやはり同じ道の上に立つくらいはしないといけないのではと思い始めた。しかしそれには勇気が足りなかった。その道が正しいかどうかなんて今の未梨亜には、いや、誰にも分からないからだ。


 長かった1分半のデモが終わり、それだけで2人は汗を掻いていた。


 校舎の方から誰かが走ってくるのが分かった。


 それは学校一の才女でイケメン美人で知られる澄香だった。澄香は屋内で見ていたのだろう。上履きのまま、屋外ステージまで駆けてきて、2人に向かって叫んだ。


「あたしでもかわいくなれるかな!?」


「聞いてくれてありがとう」


 ステージの上の早月が言った。


「似合わないなんてこと、絶対にないよ。一緒にやろうよ、スクールアイドル」


 翠がステージ下にいる澄香に手を伸ばした。早月もほぼ同時に手を伸ばした。


 澄香は2人の手を取り、段差50センチの段差を乗り越え、屋外ステージに上ったた。


 3人はなにやら動画撮影を始め、澄香は撮られた動画を見て感動していた。


 未梨亜も同じ感動を分かち合いたく思った。



「ようこそ、スクールアイドル研究会に」


 早月がまた澄香に手を伸ばした。


「――ああ。あたしは『かわいく』なりたいんだ!」


「その動機、100点満点だよ!」


 翠も手を伸ばし、澄香も手を伸ばし、3人で手を重ねていた。


 その瞬間、思わず未梨亜も駆け出していた。


「あたしも、あたしも仲間に入れてください!」


「未梨亜ちゃん……来てくれたんだ」


 翠が未梨亜に目を向けた。


「あたしも勇気を出します! だからスクールアイドル研究会に入れてください!」


 未梨亜はステージに飛び乗り、手を重ねる3人の輪の中に入った。


「うん……一緒にやろうよ」


 早月が頷いて言い、未梨亜も手を意を決して自分の手を私たちの手に重ねる。


 屋外ステージの上に4人。


 観客席である中央広場は無人だ。


 しかし今日、この時から、清心女子高スクールアイドル研究会は本格的に始動した。


 この2ヶ月後、スクールアイドル研究会だけの力では現実にスクールアイドル活動を続けていくことが困難なことを悟る。そして各メンバーが助っ人を呼ぶことになる。未梨亜が呼んだのはもちろん大津だ。


 メンバー全員に大津を見て貰おうと、未梨亜は8人を土曜日の午前中、駅前ロータリ-の街頭セッションに誘った。そしてスクールアイドル研究会の面々は大津のタレントを研究会に不可欠なモノだと知ることになる。


 未梨亜と大津の道は、短い時間かもしれないが、交わり、同じ方向を向いて歩いて行くことになった。とりあえずの目標は文化祭でのステージの成功だ。


 ブラックベリーの実言葉『あなたと共に』を未梨亜は思い出す。


 あのタルトをあげたときに、もうこの運命は決まっていたのかもしれない。


 未梨亜はそう信じたかった。

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