第14話 好物

「諦めの悪い錬金術師」となった私は「大魔王」ゴーストを封じ込むため、「政府規制」に影響のないイオンで囲む薬剤の濃度を下げる方法はないか三段論を使わず、連想法で思いつくままに模索して見ました。

「大魔王」ゴーストは過去世界に居たときは、耐食性の良い合金めっき液として「王」に君臨し、キレート剤や安定剤など多くの召使を侍らせていました。領地にいる周辺の公爵・侯爵・伯爵・子爵・男爵などから調整剤や活性剤など数多くの貢物が届けられていたはずですから、めっきした品物に付着して水洗されて排水として異世界で「大魔王」になってからも袖の下の貢物が好物ではないかと考えて見ました。

 そこで、好物となる貢物を持ってくる「爵位」と一文字違いとなる、化学の「配位」について考えて見ました。王の周囲を取り巻く爵位のように、配位も取巻いていることに変わりありません。金属原子の周りを取巻いて配列する配位効果はキレート剤の効果に相当します。配位の効果がある金属の中から配位する数の多いものを選んで、貢物として少量加えてみました。そこに「変身手榴弾」を投入し、pHを上げて「投網ゾル」を投じる連携プレーで、「ホームレス」キンタやキンゾウの居る「スライムスラッジ」に、へばり付くか試したところ、案の定、「大魔王」は配位数の多くなる貢物に触手を伸ばし、最終的に「投網ゾル」とともに「スライムスラッジ」にへばりつきました。

 その結果、「排水処理薬剤会社」ダーティの販売する“悪臭を放つ危険な排水処理薬剤”とほぼ同等の少額費用で「政府規制」基準以下にすることに成功しました。

 このように、「大魔王」ゴーストに変身させる「極道系薬剤会社」対策には手にする武器や薬だけでなく魔術の効果を高める手順が極めて重要になります。「極道系薬剤」を販売している各会社は使用している薬剤成分の構造を秘密のベールに包んでいます。そのため、対処の方法が分からないことがほとんどで、どのような魔術が使えるか仮想します。それぞれの工場で使っている「極道系薬剤」ごとに、「貢物」や「変身手榴弾」の量を変えながら、得られた分析結果をもとに「投網ゾル」の添加量を変えて分析を行い、少量で政府規制値以下になるよう確認していきます。

「貢物」、「変身手榴弾」および「投網ゾル」の基準値以下となった濃度をそれぞれ、座標T1(x,y,z)とします。何も加えないときT2(0,0,0)その中間T3(x/2,y/2,z/2)とその外側T4(0,y,z)、 T5(x,0,z)、T6(x,y,0)をそれぞれ処理し、分析します。

 得られた6つの分析実測値と添加量の間で求めた三次元回帰式を使って、分析値を予測しながら最小値を解明して行きます。強力な束縛の場合、完全に引きはがすのではなく、そこに費やす費用が少なくて済むように戦略を立てながら、マイクロカプセル「変身手榴弾」や投網状拘束できる「投網ゾル」を効果的に利用することが重要であることが分かりました。

 そうすることで、従来の設備で安価に退治処理でき、「政府規制」を達成することが出来るようになりました。

 異世界で妖怪の魔力に打ち勝つには予測して対決する気力と魔術が欠かせません。


 芥川龍之介は「侏儒(しゅじゅ)の言葉」の冒頭、次のように述べています。

「太陽の下に新しきことなしとは古人の道破した言葉である。」・・・「兎(と)に角(かく)退屈でないことはあるまい」と、


 まるで、嘲笑する妖怪を退治する機会が次々やってくるかのようです。

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