第17話 処理限界越え

 異世界からやってきたような新人や外国人が働いている工場では、「悪役令嬢」グルグルに取り付かれて「悪役令嬢」ポカ、が忍び込んでいます。

 日本語能力不足の外国人労働者は、上司の変更指示があっても「聞いてません」。指示内容があいまい、的を射ない指示では、伝わらないので「分かりません」。

 水道の栓から離れたところで給水しながら、容器に貯まるまで待っている時に、塩化第二鉄溶液の硬く締まっている容器の「ふた」にホースを巻いて簡単に開けられることを教えてやると、面白がって何度も繰り返し、肝心の、水道栓を閉めるのを忘れて溢れ出ても平気です。

 初心者や外国人労働者に「容器に入れて、片付けろ」という指示を出しても理解できません。上司に急に言われると、最初の言葉が良く聞こえず、「片付けろ」というところだけ聞こえて、貴重な薬液を容器に入れずに排水として垂れ流して捨ててしまいます。その結果、処理限界を越えて、規制の基準値を越えた排水が流れ出てしまい、役所から排水停止と、改善命令がきます。

「悪役令嬢」グルグルに取り付かれていると、うっかりミスを無くすのは難しく、どれだけ慎重に立ち回ったと思っても失敗を繰り返すことになります。

「そんなことにならないように、気をつけていたのに……」と落ち込んでしまいます。

 このうっかりミスの原因は、「悪役令嬢」グルグルに取り付かれた「勘違い」で起こしてしまうものです。

 うっかりミスにつながる思考の仕方を見直すと、この勘違いの特徴が少しずつ見えてきます。

 例えば、一定の決められた時間内に、品物を一つずつ大きな治具に並べる作業をやるように言われて、同じ作業を繰り返していると、しばらくして目が回りだし、頭がクラクラしてきて、今朝から今までの出来事が走馬灯のようになってグルグルと現れてきます。気を取り直し作業していると、今度は、趣味のゲームが気になり出して、「魔法で人をコキ使う」などの考えがグルグルと巡ってきます。

 こうなると、一つの作業に集中できなくなり、勘違いが起こるようです。その結果、同じ所に二つ重ねてしまったり、腐食したものを見落としてしまったりして不良が発生し、上司に指摘されます。何度も繰返し注意されると、こんなロボットのような単純作業もできないことに気付いて自己嫌悪に陥り、どっと疲れが出て来ると「悪役令嬢」スリープの睡魔が襲って直し忘れが起こります。さらに、品物が変わっても前の作業が気になって、ミスを仕出かします。

 余裕のない人の多くは、「悪役令嬢」グルグルに取り付かれてしまい、相手の話をきちんと聞くことができなかったり、物事の観察が足りなかったりするため、自分でも気づかないうちに勘違いを引き起こします。


「悪役令嬢」グルグルに取り付かれているような新人や外国人が働いている工場では、濃厚廃水の出てくる作業を確認します。

 順応型の会社では、濃度の高い廃水が時々流れてきて、処理できない「突発事故」がしばしば起こります。

 原因の多くは廃水と排水の区別を教わっていても、それを忘れて、めっき液の回収濃厚廃水を濃度の薄い排水溝に流すためです。別系統でその廃水を対象に処理する方が、「突発事故」が起こらなくなることを紹介し、新人や外国人にその処理実験を見せながら沈殿させるやり方を教え始めると、

「いったいどうなるの?」といった緊張感から、まるで魔術か手品を眺めるような目付きに変わっていき、面白がって自分もやってみたくなるようで真面目に聞いてくれます。


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